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宇佐見りん「くるまの娘」感想

“話すたび形骸化した。どれも原因のようだが、どう言っても違う。思うように動かなくなった体のことを、かんこはよく人のせいにした。出来事のせいにした。話しながら、一時的には原因をつきとめたようにも思われるのに、礼を言って外へ出て、蒼い芝を踏んだ瞬間にはもう違っていると思った。”


多分現実ってこうなんだ、このまま進んでいくんだと思う。手で掴めるような、ワイドショーに出てくるような、そんなわかりやすいものじゃない。水に絵筆をつけた時の水面のように、不確かで、違う色と色がなんの大した運命の作用でなくてもぶつかり合って、黒ずんだり、すれ違ったりする。何か仄暗いもののゆらぎ、突然やってくる夕立のような慟哭、全てを壊してしまいたくなる衝動、でもそれと背中合わせでなんとなくのろのろと過ぎる毎日の描写はあまりにもリアルで、本を持つ手に力が入った。

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