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Vtuber文化論(ニューチャプター・ヒッピイズム、あるいはネオ・エヴァンゲリズムに関する雑感について)

みなさんVtuberって観ますか?
観ませんか。
そうですか。


お前は一生ウチの敷居をまたぐな!
二度と俺にその顔を見せてくれるな!(中華鍋に入った大量の八宝菜を撒き散らしながら)


いやすいません、取り乱しました。
ワタシね、結構観るんですよ。
最近ワタシね、実に二年八ヶ月にわたる無職生活についに終止符を打ちまして、満を辞してアルバイトを始めたんですけども、無職時代はずう〜〜〜〜〜〜〜っと、一日中Vtuber観てましたから。
もう親の仇のごとき勢いで観狂ってましたから。
その頃の日記とか読み返すとすごいんですよ。

『七時起床
八時 Vtuberを観る
二十時 銭湯に行く』

とか書いてあるんですよ。
スケジュールの時間の飛び方がイカつすぎるんですよ。
十二時間をVtuberに費やしてるんですよ。


そういう暮らしをね、働きもせずに二年八ヶ月やってたんですから、我が事ながらとんでもねえ畜生ですよ。まあちなみにワタシが推してるのはアンジュ・カトリーナさんとマリン船長とはあちゃまと龍ヶ崎リンさんと花奏かのんさんなんですけどね。
え、興味ないって?

バカ!!
もう知らないから!
知るかい!(朝青龍のTwitter風)


いやすいません、取り乱しました。
でもね、そんだけの時間を費やしてもね、Vtuberってコンテンツは到底食い切れないんです。とにかく供給量がハンパないんですよ。

Vtuberってね、だいたいいま15000人ぐらいいるって言われてんだけど、
その半分ぐらいの人がほぼ毎日、2〜4時間の動画アップしてますからね。
こんなに供給量がものすごいコンテンツないですよ。

サブスク台頭以降、我々は目もくらむような数々の膨大なコンテンツにアクセスできるようになったワケですけども、そこには常に“食い切れねえ”っていうある種の諦念がありますよね。その現代的な諦念の極致だと思いますね。

だからVtuberはね、『切り抜き』って文化があるんですけども。


ファンの人たちがね、自分の推してるVtuberの動画の美味しいトコだけ抜いて、編集して字幕までつけたりしてアップロードするわけね。到底観きれないから、ちゃんとしっかり全部追うのは推しの中の推しだけに留めて、あとは切り抜き動画で美味しいとこだけつまみ食いするっつうことなんですけど、まぁ要するにシングルカットですよね。

シングルカットって概念はね、もともとオペラから来てんですけど、オペラにはアリアっつうのがありまして、これは劇中において一番の推し曲なんですよ。主役が歌うメロディアスなイイ曲。でもオペラっていうのはワン・パッケージのショーですから、そのキラー・チューンを聴くためには他の歌も全部聴かなきゃいけない。で、人間つうのは欲深い生き物ですから、そのキラー・チューンだけ聴きてえんだっつうことでね、シングルカットっていう概念が生まれたんですよ。それと全く同じ経緯ですよね。

インターネットっつうのはね、属性的に、というか出自的にそういうサンプリング/リミックス文化が備わってますけど、『切り抜き』はその最もたるモンだと思いますね。

だってVtuberさんがわざわざ自前のタグ作って、自分の切り抜き動画に飛べるようにしてるんですから。切り抜きだけじゃなくて、R-18イラスト用のタグとかも作ってたりするからね。公式と二次創作の液状化ですよ。

インターネットは『全員が全部を無料で共有する』っていうヒッピー思想が根幹にあるワケですけど、全員が全部を無料で共有するとどうなるかっていうとね、液状化するんですよね。ネット世界では十年前も百年前も同じなんだから。一部が全部で全部が一部、外側は内側で内側は外側で、きれいはきたないできたないはきれい、みたいな感じになっちゃうんですよね。Vtuberっつうのはその液状化現象のいっちばん尖ったとこだと思いますね。


たとえばね、バーチャル映像だけじゃなくて、料理動画とか旅行記とか実写の動画をアップするVtuberさんって結構いるんですけども、その行為をおこなっているのは紛れもない、この世のどこかに実在する誰かなワケじゃないですか。でもその行為をね、その人がやっているとは誰も受け止めていないんです。これはエルフとか猫耳少女とかがやっているんだって受け止める。まあ言っちゃあプロレス的ですけども。

よくオタクがね、フィギュアのことを2.5次元とか言いますけどね、二次元でもあるし三次元でもある。っていう液状化を完全に達成したのはVtuberが最初なんじゃないですかね。もちろんそのテスト・ランとしてボーカロイドがあったとは思いますけど。

Vtuberのどこに魅力を感じるかって聞かれたら、もうそんなの到底語り尽くせないぐらいありますけど、やっぱルックスと性格と声の関係性がすげえ面白いですね。この三要素がピッタリはまってる人はね、実在性がすごいんですよ。見た目がいかなる人外美少女だとしても、強烈な生々しさが漂うの。人類がこれまで味わったことのない、まだ名前もついていない最先端の感情がわきあがりますね。


あと『てぇてぇ』ですよね。Vtuberさんたちは時には事務所の垣根すら飛び越えてコラボしたりSNSでコミュニケイトしたりするんですけど、誰もが“うわ最高じゃん”って思うような至高の瞬間があるんですよ。

こういうときにファンが発するフレーズが『てぇてぇ』です。オタク用語である『尊い』の口語派生ですけども、『尊い』と『てぇてぇ』はちょっと意味が違うんですよ。

『尊い』は個人でも成立する形容詞なんだけど、『てぇてぇ』はVtuberとVtuberの間にしか存在しないの。誰かと誰かのあいだに突如として発生する魔法的な瞬間なの。すごい説明が難しいテクニカルタームなんですけどもね、たとえばあなたが電車に乗っていたとしてですね、向かいの席で学生たちがわちゃわちゃ騒いでいたらどう思いますか? 可愛いとか微笑ましいとか、そういう非常に暖かいものに胸が包まれないですか? すげえ簡単に言っちゃうとアレが『てぇてぇ』です。非常に糖度の高い『てぇてぇ』が食い切れないほど味わえるコンテンツってのはね、やっぱVtuber以外にないと思いますよ。


やっぱVtuberってアレね、相当オルタナティヴなカルチャーだと思うんですよ。YouTubeとかニコ動が出てきたとき、アンディ・ウォーホルの『誰もが15分だけ有名になれる時代が来る』っつう予言が当たったってみんな言いましたけどね、さすがのウォーホルもこの事態は予測できなかったんじゃないですかね。マジですげえ時代になったなあと思いますけども。

ほいじゃ、最後にオススメのVtuberさんをひとりご紹介させていただいてドロンしようかと思うんですけどもね。



774inc.っつう、音楽要素が割と強めの事務所に所属してるベーシストVtuberの方なんですけど、この人は凄いですね。尊敬するベーシストが亀田誠治と草刈愛美と吉田一郎とジェームス・ジェマーソンとスチュワート・ゼンダーとフリーっつう、なんつったらいいのかな、“正解!”っていう人選なんですよ。しかもこの人の飼ってる猫の名前がヴィクターとウッテンとバルザリーというね。バルザリーっつうのはマイケル・ピーター・バルザリー、つまりフリーの本名ですね。本当にこのひとフリーが好きなんだなって思います。この動画はそんな彼女が、レッチリの『キャント・ストップ』を13時間に渡って弾き続けるっていう大変なヴィデオです。

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