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基礎科学に投資すべきか?〜日本学術会議公開シンポジウム「基礎科学研究の意義と社会(物理分野から)」参加記録(前半①)

研究者でないみなさんは「基礎科学研究」と聞いてどんなことを思い浮かべますか?なんだかよくわからない?ロマンの追求?役に立たない?「ワクワクする内容ではあるけど実際には役に立たないよね」といったところでしょうか。一方、そんな声を聞くと、一応は研究者の端くれである私は「役に立ってることもあるよ・・・!」「研究が理解してもらえない・・・」「研究楽しいけどお金も時間もない・・・」そんな思いからつい一言言いたくなってしまいます。

私がこの公開シンポジウム「基礎科学研究の意義と社会(物理分野から)」に参加したのは、
(1)基礎科学の意義を他の科学者はどう考えているのか
(2)科学と科学者はシステムとしてどうあるべきか(資金・ポスト)
(3)科学と社会の対話をどのようにすべきか(アウトリーチ)
という問いを持っていたからです。この記事では私の主観はなるべく入れず、上の3つの観点についてスピーカーが話していた内容をまとめようと思います。私の感想や学びはまた別にまとめたいと思います。

なおこのシンポジウムは書籍化するようですので、正確な記述は出版を待つことにします。

シンポジウムの目的

以下はシンポジウムのページから。

近年、短い時間スケールでの応用という尺度でのみで研究が評価され、基礎科学を支える基盤が揺らいでいます。基礎科学研究を支える基盤が失われることで、これまで機能してきた基礎研究と社会との関係が失速するのではないかという懸念は、物理学の研究者が広く共有するものです。そこで本シンポジウムでは、物理関連分野を例にとって基礎科学の (1)学術としての意義・面白さ、(2)人材育成、国際化、(3)社会への貢献・イノベーション を中心のテーマに据えて、これまでに基礎科学が果たしてきた役割をあらためて考えるとともに、科学史研究やメディアからの視点等も取り入れ、今後の基礎科学の発展に向けた方向性を議論します。

シンポジウムの構成をまとめると、
前半:科学者が自分の研究を例に、学術としての意義、基礎科学の捉え方と社会との繋がりについて紹介
後半:科学者以外の視点からこれまでの基礎科学と社会の関係がどうだったか、これからどうすべきかを紹介
といった感じでしょうか。

本記事では前半の科学者の視点から紹介したいと思います。

1.なぜ基礎科学が必要か(村山 斉さん)

(諸事情により途中から聴講)
基礎科学は破壊的イノベーションを生み出している
  加速器→ガン治療・薬の開発
  素因数分解→暗号技術

(つくばは実は反物質が名産なんですよ・・・(KEKB:二百兆個))

基礎科学の結果技術の波及効果が生まれる
  望遠鏡のための技術←Canon非球面レンズ
                                        ←浜松ホトニクスCCD
普通に考えたら開発しようとも思わない製品が科学では必要になることも。

【基礎科学に投資すべきか?】
日本では科学のための予算が減っている
 運営費交付金が減り、補助金(いつ尽きるかわからないもの)が増えた
 ex)すばる望遠鏡の運営のための予算
  (グラフを提示して)このままだと宇宙の運命がわかるより先に予算が尽きる

よく起こる反論「基礎学問は人類共通のものなんだから外国の設備や情報を得ればいいのでは?日本でやらなくてもいいんじゃない?」

王立アカデミー・プレシデントの言葉
「国が基礎科学に投資していないと別の国で大きな成果が上がってもそれを理解できる人がいない。さらに発展させる人がいない。実用化する人がいない。」

【人材とグローバル化】
高校生のところへ講演に行くと、食いついてくる。きっと、科学を「おもしろいな」「不思議だな」という気持ちが沸けばもう少し勉強してみよう、となるであろう。これが次世代の人材を育てることになる

ヨルダンに新しい加速器が建設中である。それには、イスラエル、エジプト・・・などほとんど戦争中の国々が協働している。科学で世界平和をリードできるのでは。

*メッセージ
 ・真のブレイクスルーは基礎科学から
 ・最先端の学問から極限的技術が生まれる
 ・人材のグローバル化
「時代の変化に対応する考える力を育てる = 日本の未来をつくる!」

(質問)
Q. 基礎が技術に役に立つというのはわかったが、基礎科学単体でどんな価値があるのか?
A. 好奇心というのは人間が人間たる根本だと思っている。好奇心の探求は人間として当然やって行くべきものであり人間の本性そのもの。そういう意味で基礎科学それ自身が非常に重要であると考えている。

2. 元素の進化、合成と変換(櫻井 博儀さん)

このトークの問いは2つ。
 Q1. 元素はいかにして生まれてきたか?(学術としての意義・面白さ)
 Q2. 人類は元素を自在に作り変えることができるか?(社会的な役割)

(一家に一枚周期表を見せつつ)さて、あなたの推し元素はなんですか?僕はやっぱりニホニウムですね。

皇后陛下とニホニウムを発見した森田さんのエピソード
皇后陛下「それで、このニホニウムはなんの役に立つんですか?」
森田さん「なんの役にも立ちません。」
皇后陛下「またまた、本当は何かの役に立つんでしょう?」
森田さん「それが、さっぱり役に立たないんですねぇ」

ニホニウムは今10年に3つしかつくれない。これが、1年に3個、1日に3個と増えていけば役に立つかもしれませんね。

【やさしい原子の作り方(金を例に)】
*材料
  陽子、電子(各79個)、中性子(118個)
  (注)正確な数用意すること!中性子が119個だと崩壊して水銀になってし まいます。117個だとプラチナです。まあプラチナでもいいという人もいるかもしれませんが。

*作り方
1. 陽子と中性子をくっつけて原子核を作ります
2. 原子核の上に電子をぱらぱらとふりかけます
3. 電子の雲ができれば原子の完成です!

【実際の宇宙では元素はどうやってできた?】
材料はビックバンでできた。それが星間物質になり、凝集して、恒星になって、超新星爆発して、また星間物質になって・・・の繰り返し。
鉄までは核融合反応でつくれた。でも鉄は安定で、鉄より重い元素は核融合ではできなかった。

元素が生まれる2つの過程
*s過程:slow(1億年)、既知
*r過程:rapid、未知、1983年ファウラーが発見
r過程はどこで起こっている?
  化学の反応→〜1000℃  火・炉
  原子核反応→陽子・中性子の数を変える 加速器

【加速器で重い元素をつくる】
RIファクトリー(重イオン加速器)を使う。
とるデータ
  寿命→進行速度
  質量→経路
  核分裂→始・終点
理論の予想は誤差が大きかったが実験で確かめることができた

【この分野での社会・経済活動とのかかわり】
「トイレなきマンション問題」
高レベル放射性廃棄物に含まれる超寿命核種の問題が解決されていない。
 →加速器を使って核変換できないか研究した
理学・工学・産業が協力して取り組んでいる

(質問)
Q. 元素を50個までは覚えたのですがどこまで覚えればいいですか?
A. 誰かが水兵リーベの118番までのを作ったらいいよ

(とりあえずここまで)

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