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なんか食べたい

退院してからずっと、口さみしい。なんか食べたい。入院時には、少しもなかった食欲が復活している。厳密にいうと、食欲がなかったのではなくて、「お菓子を食べたいと思わなかった」のだ。

なぜかと考えると、「ちゃんとした食事を三度三度食べていた」からではないかと思う。計算されたカロリーと栄養素。必ず小さなデザートが付いていた。それは、オレンジ4分の1個とか、桃缶が2切れとか、ほんの一口ずつだが、それで満足だった。ところがどうだ。今は四六時中「なんか食べたいなー」と思っている。具体的には食べたいものが何も思い浮かばないのに、なんだかわからない「欲望」が常にわたしを台所へと動かす。冷蔵庫や食品棚を開けて、じっと見てみるが食べたいものがあるわけではない。気晴らしにプチトマトをつまんだり、きゅうりのスティックをかじったりしている。

思えば入院中は、水分もかなり摂っていた。給茶機のある談話室まで、わたしは足繁く通い、緑茶、麦茶の熱いのと冷たいの、さらには白湯か水をその時の気分で選んで飲み、朝、昼、晩の食事を待っていた。最終日近くは、白湯が一番好きだった。今はその水分補給もろくにしていない。それでなにか食べたくなっているんだろうか。

今日、退院後、初めて病院に行った。検査や診察が終わり、帰りのバスまで10分くらいあるので、売店(LAWSON)に行って、お菓子を物色した。あるある。たくさん。でもやっぱり、なんか食べたいのに、いざ買うとなったらどれも欲しくない。もう食事制限もないのに、だ。思い切ってチョコレートを買って、バス停のベンチで食べてみた。「これじゃなかったな…」と思った。バスを降りて、自宅近くのセブンイレブンにも寄った。店をぐるぐる2周もしたのに、「これだ!」というものはなかった。「美味しいかも」と目につくものはあったが、なぜか買う気にならなかった。

わたしが食べたいものはなんだろう。ぜんぜんわからない。思い浮かんだのは、脳梗塞で倒れたオイリュトミーの先生のこと。今は自宅でリハビリをしているそうだが、「食べたい時期」があったそうだ。食べたい、のではなく「噛みたい」という欲求があって、バリバリと旺盛に食べていたそうだ。

そう考えると、わたしも何かを噛みたいのかも。だったらきゅうりでもトマトでもいいはずなのに、「ちょっと違う」と思う。なんだろうなあ。わたしはいったい、なにを食べたいんだろう?胸に手を当てて考えている。

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