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鬼ハハハ

節分である。節分といえば、豆まき。鬼は外、福はうち。自分の中にいる鬼も追い出そう。

鬼といえば、ムスメの通った幼稚園の豆まきは、徹頭徹尾、恐ろしい。まず、前日に作戦会議が行われる。鬼は「お」のつくものと「に」のつくものが嫌いだと先輩たちから教わる。3歳から6歳までの先輩後輩だが、その関係性は厳格だ。「わかりましたあ」とばかりに、年少、年中、もちろん年長の子も、その日は家に帰って家族に頼み、翌日「にんじん」や「にんにく」を持ち寄る。古式に則って、「イワシの頭」も用意される。

朝から彼らは忙しい。鬼が来た時のために、彼らの小さな机と椅子を使ってバリケードを作る。作戦通り、部屋の一番奥には年少、その手前には年中、そして出入り口に近いところには年長の子たちが待機する。

よきところで銅鑼の音が園内に響き渡る。ガラス窓もビリビリと震えるほどの大きな音に、子どもたちは飛び上がる。幼稚園は縦割りの6クラスがあり、それぞれの部屋で子どもたちは息をひそめる。

鬼がやって来る。なまはげのような赤鬼と青鬼が各クラスを襲う。そして、担任の先生や子どもを連れて行こうとする。机の下や部屋の隅に逃げる子もいれば、それを庇おうと、両手を広げて鬼を通すまいとする子、鬼に向かって、豆やにんにくを投げつける子、鬼から先生を取り返そうと、丸めた新聞紙でバシバシ叩いて攻撃する子。鬼は退散し、次の部屋に向かう。

知恵を絞る子もいて、ある年、部屋の入り口に箸を使って納豆を並べる子がいたらしい。「これで鬼が納豆の糸に絡まって部屋に入ってこれないし、納豆の糸で身動きが取れなくなる」と豪語していたらしいが、鬼はひょいと納豆ゾーンを跨いで入って来たそうだ。

実は、これを見たわけではない。節分だけは、親は完全に排除される。保護者会の役員だろうと一歩も中に入れない。でも、のちの保護者会で、先生からその様子を聞くのだ。
〇〇くんがわたしを守ってくれました、〇〇ちゃんはお姉さんらしく、小さい子を部屋の隅に集めて、かくまっていました。と、先生から子どもたちの成長を聞く。一方で、泣いて泣いて、本当に怖くてパニックになる子や、翌年の節分の日、幼稚園を休む子も出て来る。当時の園長先生は「本当に怖い思いをすることの大切さ」を説いていた。ムスメも「あれは怖かったよ」と今でも言う。

今日ムスメは学校で、友だちから「ねえねえ、今日、一緒に豆まきしようよ」と誘われたらしい。ムスメは「え?それだとうちの家の鬼だけが払われることになるけどいいと?」と聞いたら「えっ。じゃあ、うちでやろう!」とその子は言ったそうだ。いやいやいや、各々の家でやろうよ、とムスメは帰って来た。

恵方巻きは好きな習慣ではないが、オットが巻き寿司好きなのでブームに乗っかっている。今年の恵方は西南西らしい。冗談半分に「一本食べてみろ」とオットが言うと、ムスメは「これって、願い事が叶うのかな」と言って食べ始めた。半分食べたところで「もういいよ。あとは切ってみんなで食べよう」と言ったが、ムスメは首を横に振る。そんなに叶えたい願い事があるのかムスメよ。そしてすまないが、恵方巻きの一本喰いには漠然とした「いいことがありますように」程度の意味しかないのだよ。一本を食べ切って、達成感に満ちた顔のムスメに、どんな願い事があったのだろうか。




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