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ハロウィン、だってさ

10月31日。
世の中はハロウィンで賑わっている。

「ハロウィンって、なんなんだろうね。」

ソファーに座る彼女がなんの感情も無く呟いた。

「…コスプレして街を闊歩したり騒いだりしても
 許される貴重な日?」

「…許されてはいないだろうね。だけどある意味
 正解かも。」

なんて中身のない会話なんだろうか。
お互いローテンションで、目を合わせることなく
意識は完全に手元で繰り広げられている戦いに
持っていかれている。

「仮装、したことある?」

「無い。あるの?」

「あー…るっちゃある、けどほんのり?」

なんだその微妙な答え。
仮装にほんのりってあんのか。

「や、なんか高校生の時に猫耳付けて濃いめの
 メイクしてプリ撮ったくらいで、本気の仮装は
 したこと無い。」

想像以上にほんのりだった。

「へ〜…意外。そういうの興味無いのに。」

俺も彼女もインドアで、季節のイベントは
食べ物とゲームで楽しむ派。
それはもちろんハロウィンも例外ではなく、
つい先日までゲームのハロウィンイベントが
開催されていたため2人して無(理のない)課金で
頑張っていた。

「JK特有のノリと勢いだよね。」

「それは間違いない。」

あ、やばい。負けそうなんだけど。
そう呟いてしばし考え込む彼女。

これは時間がかかりそうだと判断して、俺は
イヤホンを付けてゲームを再開する。

次のイベントまで時間あるし、ランク上げとこ。



「…高校生の時に出会ってたら、
 どうなってたかな、私達。」

さっきまでと何も変わらないトーンで、
なんでもないように言うから一瞬独り言なのかと
思ったけど、顔を上げると彼女と目が合った。

「んー、多分、友達にはなってるだろうけど、
 今みたいな関係性には、なってない、かな。」

ずっと友達のままでたまに連絡取り合うくらいの
距離感を保ち続けてそう、俺。

「…こういうのって、"いつ出会ってもお前を
 好きになるよ" とか言うんじゃないの。」

「それは乙女ゲームのやりすぎだ。」

そして仮にそう思っていたとしても
そんな歯が浮くようなことは言えない。

「え〜…この前はあんなに甘いこと言ってくれた
 のに。」

期待した私が馬鹿だったのか、とあからさまに
肩を落として唇を尖らせている彼女。

え…なにその顔、めちゃくちゃ可愛い。
付き合い自体は長いけどそんな表情かお初めて見た。
もう一回言わせてほしい、めちゃくちゃ可愛い。
だけど、やられっぱなしなのは性に合わない。

「甘ったるいのは嫌なんじゃなかったっけ?」

ソファーに座る彼女の隣に移動し少し煽るように
言ってみる。

「っ…そうやって言えば許されると思って…!」

肩を少し強めに押され、怒られた。

「ごめんごめん。…で、どうなの、俺のことは
 いつ出会っても好きになる?」

「好きにはなる、かもしれないけど、付き合うか
 どうかはわかんない。」

私臆病だからさ、と彼女が小さく笑いながら
言う。

おいおい、なんだそれ。
きゅんを通り越して、ぎゅん、と胸の奥が
締め付けられる。

今日こんなのばっかだな。納得いかない。

「今日の気分は甘いものがお好みですか、
 お嬢様?」

一瞬なんだと目を見開いてフリーズしたが
察したらしく

「うーん…どちらかと言えば、かしらね。」

ちゃんと付き合ってくれる。

「お嬢様、耳元、失礼します。」

「え、何、」

彼女の髪を耳にかけ、囁いた。

俺と、出会ってくれて、隣にいてくれて
ありがとう。

大好きだよ。

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