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まなざし(18) 衝撃

6月5日金曜日。
あっという間に金曜日が来た週ほど、充実した一週間を送れたと実感する時はない。でもそんな瞬間はいつもいつも訪れるわけではないため、今日みたいに一週間の終わりに「もう」と気づいてしまうような日は、ちょっと得した気分だ。

四限で終わる金曜日。サラリーマンになったら「華金」なんて煌びやかな言葉をやっぱり口にするのだろうか。 
明日は真名人くんが誕生日のデートに誘ってくれた。行き先は私のリクエストだし、楽しみでないわけがない。ほとんど毎日顔を合わせているとはいえ、普段大学で会うのと休日にお出かけするのでは訳が違う。一日中デートができる特別感が、いつも私を楽しませてくれる。新しい場所に大好きな人と訪れるのは私の大好物。
だから、今日は一日中心がざわついていた。講義が終わればすぐに頭に浮かぶのが、明日のこと。どんな一日になるだろう。何を見て、何を食べて、何を感じるんだろう。それが、楽しみで仕方がなかった。

明日の服を買いに行こう、と思いついたのは昨日の晩だった。
基本的にあまり服を買うことのない私は、彼の前で着る服のネタが尽きていたのだ。学部も専攻も同じというだけで、毎日違った服を着てくることなんて絶望的。
だからせめて、こんな時だけでもおしゃれをしても良いだろう。新しい服を買って、彼に「可愛い」と思われたい。普段一緒にいることが多い分、おしゃれをすれば新鮮な気持ちになってもくれるかと思う。何より私自身が、そうしたかった。

自転車に乗り、大学からいつも服を買いに行く店まで向かった。大きな商業施設で、行くまでに20分は自転車を漕ぎ続けなければならない。それに加え、かなり急な下り坂があるため、帰り道が思いやられる。ただ、今日の私は楽しみなことを目前にして帰りのしんどさなんて忘れていた。帰りは帰りでまた頑張って自転車を漕いで帰れば良い———と、いつにも増して楽観的に考えて、自転車を飛ばしていた。
後から振り返って考えると、それがいけなかったのだとはっきり分かる。
坂道を下りきったところには大きな交差点があり、当然のことながら、私はそこでちゃんとペダルを漕ぐ足を止めるつもりだった。後輪、前輪とブレーキを入れるために両手に力を入れるところまで、準備していたのだ。

だが、どんなに注意していたって、神様に見放されてしまうことがあるのだということを、もうすぐ20歳になる私は知らなかった。

勢い余った自転車を止めるために両手にグッと力を入れた瞬間に、それは起こった。

ヒュン、と、私の右隣で風を切る音がしたかと思うと、うるさいぐらいのエンジン音を鳴らして大型のバイクが私の目の前に躍り出た。急の出来事に驚いてハンドルをぐらつかせてしまったのと、突如として目の前の視界が遮られたのがとても不運だった。
しかし一番の原因は、真横で鳴り響いたエンジンの音の大きさに、身体が耐えられなかったことだ。頭の奥でキーンと締め付けられるような痛みがして、「あっ——」という声を上げる間もなく、私は何かにぶつかったのだ。

バイクではない、もっと大きな鉄の塊に。

そうと分かった途端、大きなクラクションの音、車にぶつかった時の痛みが急激に身体中に降りかかってきて、私の意識は途切れた。

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