デイヴィッド・バーンとスパイク・リー / 映画『アメリカン・ユートピア』を観たか?
こんにちはリホです。
待ちに待った映画『アメリカン・ユートピア』がついに5月28日(金)に公開となり、早速劇場に行ってきました。興奮冷めやらぬまま、noteの記事作成画面にむかっています。
『アメリカン・ユートピア』の概要と私が待ちに待った経緯
まずは概要を。ロックバンド、トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンによる同名のアルバム『アメリカン・ユートピア』(2018年)が本作の原案です。元々はアルバム作品、そしてコンサートでしたが、ブロードウェイでのミュージカル作品となり(2019年)、結果、奇才スパイク・リー監督によって映像化されることとなりました。
ここで私の待望具合を、少し語らせて下さい!!(長いので適宜飛ばして結構です)
大学のときにトーキング・ヘッズに出会い、バンドとしてのアルバムや、デイヴィッド・バーンのソロ作、他アーティストとのコラボ作など、関連作も漁るようによく聴いておりました。
他記事等からもお分かりの通りではありますが、私はヒップホップやR&Bを中心に音楽を聴いており、当時トーキング・ヘッズに出会った経緯はあまり覚えていないのですが…。
おそらくトーキング・ヘッズのメンバーからなるトム・トム・クラブの楽曲を、マライア・キャリーが「Fantasy」のサンプリングネタとして起用していたことがきっかけだったかな?と思います。
とにかく、作品をよく聴いており、すっかりバーン先生の虜になっていたので、来日はないものかと毎年楽しみにしていたのですが、全くその気配は無く数年が経っていました。
そんな中、2018年に久しぶりにデイヴィッド・バーンが出したアルバムが『アメリカン・ユートピア』でした。
アルバム出したってことはツアーやるじゃん?
という期待の通り(?)、2018年には、カリフォルニア州で行われる世界最大級のフェス、Coachellaに早速出演。Youtubeでの配信は、それはもう、かじりついてみていたため速度制限をくらいました。
で、ツアーで日本は来ないわけ?
と思っていたのですが…フジロックでも名前は上がらず…、バーン先生は同年、ツアーの一環として香港のフェスClockenflapに出演した後、オセアニアに直行。日本はスルー、という悲しい結果に。え、ニホン、キライデスカ・・。
その後、スパイク・リー監督によって映像化されると知ったのが昨年。
スパイク・リーは、アフリカン・アメリカンの対面する差別や社会問題に主軸を置く映画監督で、『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』をはじめ、ヒップホップを語る上でも外せない映画を多く生み出している重要人物。そんなスパイク・リーとデイヴィッド・バーンがコラボ?私得すぎる!!(勿論両名を好きな方はたくさんいると思いますが笑)と歓喜しつつ、どうやら日本では公開難しそうだし、観れないかも…と、流れてくるエンタメニュースをみては指をくわえていたわけであります。
ついに、今年5月に日本でも公開されることとなり、当初GW開けの公開で報じられていましたが、緊急事態宣言の影響でやっと、やっと今週劇場で観れることになりました。
映画の公開という観点だけでみれば大したことはないかもしれませんが、私にとっては公の場でデイヴィッド・バーンをみれる!!という待ちに待った体験なのでした。
映画『アメリカン・ユートピア』
さて本題に。
(※ 映画の内容にも触れていくのでネタバレを避けたい方はご注意ください)
本作は『アメリカン・ユートピア』と題されていますが、劇中で演じられる21曲のうち、アルバム『アメリカン・ユートピア』の収録曲はなんと5曲のみ。他はトーキング・ヘッズ時代の曲、ソロ曲、他アーティストとのコラボ作品、など幅広く選曲されています。つまり、本当に楽しみたかったらアルバム『アメリカン・ユートピア』を予習するだけでは全然足りない、ということになりますが、まあ普通に観ているだけで楽しい演出になっているので、別に今までの楽曲を聴いていなくても、フェスで初めてみるアーティスト感覚で楽しむこともできる映像作品だと思います。
感想、映像化されて気づいたこと
ここからは映画の感想になります。
私は海外でのライブパフォーマンス映像などを観ていたので、"デイヴィッド・バーンが脳みそを持って現れ、おそろいのグレーのスーツをきたダンサー兼バンドメンバー達と楽曲を演奏する”という構図はなんとなくわかっていたのですが、今回映画を観てなるほどな、と思ったことがあります。
まず、演奏スタイル。
舞台にはデイヴィッド・バーンとバンドメンバーしかおらず、楽器もメンバーの身体に備え付けられており、彼らは自由に舞台を動き回ります。
"人間は、他の人間をみている"、"舞台の人間に集中させるため、ケーブルなど舞台上の余計なものを排除した"、と語るバーン先生。この演出自体はコンサートでのパフォーマンスと大きく変わらないと思うのですが、動き回るダンサーたちによって、狭く、なにもない舞台がこんなにも場面によって表情を変えるのか、と改めて驚きました。
実際に演奏しているのか?(録音じゃないのか?)とよく疑われるそうですが、そんな疑いをはらすために、バンドメンバーを一人ずつ紹介し、演奏させていくシーンが印象的でした。(ここはグッときてちょっと泣いた)
紹介を聞いていると出身地も様々で、異なるバックボーンから、ここまで踊って演奏できて歌えるメンバーを揃えたこと、余程の精鋭揃いと見受けます。
楽曲の中では・・トーキング・ヘッズ時代の曲になりますが「This Must Be The Place」が一番好きでした。
次に観客とのコミュニケーション。
コンサートでのパフォーマンスでは基本一方的に、淡々と楽曲を演奏していくイメージでしたが、劇場では観客との距離も近いせいか、MCの時間はコミュニケーションがはずみます。
後ほど関連作で触れますが、トーキング・ヘッズ時代のジョナサン・デミ監督によるライブ映画『ストップ・メイキング・センス』は、観客の存在にほぼ触れていないことで有名です。一方本作では、(ここは是非映画を観ていただきたいのですが、)ユーモア溢れる話を交えながら観客を巻き込んでいくデイヴィッド・バーンが印象的でした。
さらに、政治的な意思表示。
『アメリカン・ユートピア』というタイトルには以下のような意味も込められているようです。
僕たちがいるのはユートピアではないが、それを実現できる可能性についても伝えたかった
―『アメリカン・ユートピア』パンフレットより
デイヴィッド・バーンは劇中で、選挙に行く意義、そして今回の会場でも有権者登録ができることを語ります。アメリカのアーティストのコンサート会場で、有権者登録ができるブースなどを備えていることはしばしば話に聞きます。バーンも同じく、アメリカをユートピアにするために、行動を起こす(投票に行く)重要性を説きます。
個人的に、海外のポップミュージックが面白いなと感じるところの一つに、アーティストが政治に対する意思を明確に示していることが挙げられます。日本ではなんとなく、アーティストが政治について語るのはタブーという雰囲気がありますが、大衆に響く音楽だからこそ、考え方や行動に繋げる力もあると思うのです。
そして、驚いたのが「Hell You Talmbout」。R&Bシンガー、ジャネール・モネイの楽曲のカバーになります。BLM的な意思が明確に示されたプロテストソングで、カバーするにあたり、ジャネールに許可を取ったという話も(BLMがテーマの楽曲に白人である自身がカバーすることへの配慮が感じられ)、グッときてしまいました。
この楽曲では、警察による不当暴力で犠牲になったアフリカン・アメリカンの被害者たちの名前が次々と挙げられていきます。
途中遺族が被害者の写真を持って映される場面があるのですが、この映し方がなんともスパイク・リー的というか、ああ、これがコラボの意味なのね、と感じるところでもありました。
スパイク・リー作品では時折、唐突に"人物"にフォーカスするシーンがあります。画面の中の「登場人物」と「視聴者」と立場から、「人物」と「人物」という一対一の関係になるのです。画面の中の登場人物がこちらをみています。そこでハッと、今、"私"に問われているのか、と感じさせ、当事者意識を持たせる効果があります。
この楽曲「Hell You Talmbout」中で登場する遺族の顔は、見覚えがあったというか、デイヴィッド・バーンが『アメリカン・ユートピア』を通じて伝えたかった意思を明確に表現できるのがスパイク・リー、という構図がよくわかった瞬間でもありました。
そして、映画は「Utopia Starts with You」というメッセージとともに締めくくるのでした。はー、なるほどです。
Every day is a miracle
Every day is an unpaid bill
「Every Day Is a Miracle」より
『アメリカン・ユートピア』収録のこの曲の歌詞が響きます。毎日は奇跡であり、未払いの請求書であるのです(未払いの請求書って、なんとリリカルでしょうか!)。
まだまだやらなきゃいけないこともあるけれど、この世界をユートピアにするために、できることが確実にある。そんなメッセージを受け取ったのでした。
関連作品
『アメリカン・ユートピア』からデイヴィッド・バーン、トーキング・ヘッズに辿り着いた方に是非みて欲しい映像作品があります。
『ストップ・メイキング・センス』
デヴィッド・バーン、若い!!というか丸々Youtubeにあがっているのですね…ジョナサン・デミ監督によるトーキング・ヘッズのライブ映画です。ダボダボのスーツを着るバーン先生がなんともアイコニックな作品になります。
『デイヴィッド・バーンのトゥルーストーリーズ』
デイヴィッド・バーン自身が監督且つ自演の映像作品。(これも若い!!)不思議な人間模様というかコミカルな内容で、劇中歌はトーキング・ヘッズが務めています。
『きっとここが帰る場所』
ショーン・ペン主演のドラマ。きっとここが帰る場所=まさに「This Must Be The Place」なわけですが、劇中にデヴィッド・バーンのパフォーマンスシーンもあり必見です。