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元国連職員が考えるSDGs

「国連職員としての君の最初の仕事は、貧困とは何か、知ることだ。」

(当時)戦時中のエチオピアで、私の上司はそう言った。

大学院を卒業したばかりの私が、国連のFAO(食糧農業機関)に就職して、初めての出張でのことだった。

建物の壁には銃弾の後が残り、戦争で手足を失った人たちが多く街を歩いていた。家族を失った子供たちが暮らす難民キャンプでは、笑顔の消えた凍り付くような空気に、恐怖を覚えた。


その後訪れたインドネシアでは、3日後の食料の蓄えもない、貧困ライン以下の村で、遠い国からよく来たと、お菓子を振る舞ってくれた家族が居た。青空教室の子ども達は、満面の笑顔で私を取り囲んだ。「大きくなったら先生になりたい」と話したその子は、夢を持ち、目を輝かせている、どこにでも居る普通の子どもだ。


貧困と一言に言っても、その実態は国や地域で大きく変わる。

「貧困=不幸」ではない。

けれど、貧困は、人から尊厳を、安全を、選択肢を奪う。


SDGs目標 1「貧困をなくそう」。

SDGsの、最も基本的な目標。

SDGsの前身のMDGsのずっと前から、貧困問題は国連の仕事の中心だ。

貧しくて、食料がない、学校に行けない、栄養失調や不衛生で病気になる、薬が買えず医者にもいけない、葬式もあげられない。そんな現場を見たら、誰しも、こんな苦しみはあってはならない、なんとかしなくては、と思うだろう。

なのに、そんな貧困状態にある人は、数億人も居るのだ。
(1日1.9ドル以下で暮らす「極度の貧困」は約7億人、生活の各側面で基準を下回る暮らしをしている「多次元貧困」は13億人と言われている。)

貧困の構造は、複雑で、根深い。


2022年9月、SGDsが採択されてから7年が経過した。

SDGsという言葉は知られるようになった。
企業や個人の環境アクションも少しずつ広まってきた。

一方、コロナで新たに1億人近くが極度の貧困に陥った。


SDGsの課題の中には、個人では取り組みにくいものもある。

「自分ごとと考えよ」と国民に投げるだけでなく、もっと政治にSDGsが主流化されてもよいのではないか。

誰一人取り残さずに、今も未来も、皆が笑顔でいられる世界のために。 


今回の記事は、知の共創プロジェクトの研究者によるエッセイです。
文: 大西有子

#未来のためにできること




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