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6つの姿勢制御戦略

今回は宮田一弘氏の「システムとしての姿勢制御戦略」という論文を引用し、バランス評価を臨床に活かすための考え方をまとめていこうと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。

そもそも人間はどうやってバランスを保っているのでしょうか?
足底の感覚や下肢筋力などが関わっていることは臨床現場に出ているとなんとなくわかると思います。
ではそれらの機能やシステムはどんな役割に分かれていて、どういった全体像なのでしょうか?


姿勢制御のシステムに関する研究を引用して、みていこうと思います。

姿勢制御システムの研究と現在の見解

姿勢制御にかかわる制御システムについては、さまざまな議論がありいくつかの枠組みが各研究者から提示されている。制御システムの数は6〜9つであり、その解釈については、制御システム名が似ていても中身が異なっているものや中身が同じでも制御システム名が異なっているものもある。また、Shumway-Cookらは時代に応じて制御システムの構成を変更している。研究者によって見解が一致していないことからも、姿勢制御は非常に多くの要素が複雑に絡み合って発現されていることがうかがえる
われわれ理学療法士は、臨床で対象者の姿勢制御能力を把握する際には観察に加えて評価尺度を用いることが多い。Sibleyらは各バランス評価尺度がどの制御システムを反映しているかを検証している。本邦でよく用いられているBerg Balance Scaleは9つの制御システムのうち垂直性・反応的姿勢制御・認知的影響を除く6つで構成されている。しかし、ほぼすべての評価尺度は運動課題の構成が制御システムを考慮したり、評価結果を直接介入へ展開したりする視点なしに開発されていたため、評価と介入の間がシームレスではなかった。

宮田一弘. システムとしての姿勢制御. 理学療法ジャーナル. 2023;vol57.no3:p261

複数のシステムで制御されているということ、それらが6〜9つのシステムがあると言われていることがわかります。つまり、ヒトの姿勢制御、バランスを評価する際にはどのシステムにエラーがでているかを評価する必要があります。

そこで制御システムの面から考えられたBESTestという姿勢評価尺度が作られました。



姿勢制御評価尺度 Balance Evaluation Sysrems Test (BESTest)

BESTestは姿勢制御を6つのシステムとして捉え、それぞれのシステムの面からバランスを評価する27項目の運動課題で構成されています。この評価の枠組みを理解することで、この評価をそのまま使わないにしろ、姿勢制御の捉え方がわかりやすくなると思います。
以下にそれぞれのシステムをまとめていきます。



6つの制御システム

生体力学的制約

支持基底面である足部の変形や疼痛、姿勢アライメント、可動域と筋力といった運動器系の評価項目です。整形外科領域ではここに目が向くことが多いと思います。
具体的には足部の変形と疼痛評価、股関節外転筋・体幹側屈筋・足部底背屈筋の筋力検査、立ち上がり動作の評価等となっています。



安定限界

ファンクショナルリーチが代表的な、支持基底面内で重心をどれだけ動かせるか系の評価項目です。また脳卒中等で障害されやすい、身体を垂直に保つ能力も評価します。
具体的には前方・側方ファンクショナルリーチと、座位での側屈運動・正中保持の評価となっています。



予測的姿勢制御

随意運動を行う前に、身体の準備がどのくらいできるかを評価する項目です。フィードフォワード制御とも呼ばれ、整形外科疾患では足関節捻挫後の下肢において動作の準備段階での筋活動の低下が以前からよく報告されています。
具体的には立ち上がり・つま先立ち・片足立ち・段差へのステップ・立位での上肢挙上動作の評価となっています。



反応的姿勢制御

外乱刺激に対して反応し、姿勢を保持するための機能を評価する項目です。フィードバック制御と言われており、刺激に対して適切に足部・股関節で修正できるか、ステップで対応できるかを評価します。
具体的には前方・後方への軽微な外乱を足部で修正できると高得点、股関節や腕を使うと点数が下がります。また大きな外乱に対してステップ一回で修正できるかどうかなども評価します。



感覚機能

視覚・前庭感覚・体性感覚の評価項目です。いずれかの感覚が失われたときに、どれだけ他の感覚で代償できるかどうかを評価します。
具体的には立位を閉眼条件で行ったり、柔らかいマットの上で行ったり、斜面台の上で行います。

感覚機能の重みづけに関しては以前記事に書いたので、詳しく知りたい方はこちらの記事で確認してみてください。



歩行安定性

支持基底面が変化する中で、重心を基底面内に保持し続ける能力を評価する項目です。
生活中での歩行を考慮したためか、歩行動作に加えて様々な課題を追加した動作評価が多くなっています。
具体的には6m歩行、歩行速度変化、歩行+頭部回旋、歩行+ターン、跨ぎ動作、数字の逆唱+TUGなどです。



現在の評価、治療はどの制御システムに介入している?

自分が行っているバランス評価は姿勢制御のすべての側面を考慮して行えているだろうか?
1つのシステムにばかり介入している結果、効果が出ていないのではないだろうか?

特に自分は整形外科領域で働いているため、生体力学的制約の部分に目が行きがちだと思います。
今一度、クライアントの姿勢制御を一歩引いて観察・評価してより質の高いリハを提供できるようになりたいです。
また今回紹介したBESTestは複数のシステムのエラーを大まかに拾うような評価スケールなので、それぞれのシステムをそこから深掘りしていくような評価も今後まとめていきたいと思っています。


参考文献

宮田一弘. システムとしての姿勢制御. 理学療法ジャーナル.2023;vol57.no3:p261
大高 恵莉.他,日本語版 Balance Evaluation Systems Test(BESTest)の 妥当性の検討.Jpn J Rehabil Med 2014 ; 51 : 565.573


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