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こんなときだからこそ読みたい:「翻訳できない世界のことば(LOST IN TRANSLATION」

ポリシー、なんてものではなく、スーツを着るとき以外、シャツはスボンのなかに入れない。そう決めています。
単に裾がシワになるのがイヤ、身体が二分割されるような感覚がイヤなだけですが、周りは、いい年してだらしない男、と思ってるんだろうな。

そんな
「シャツの裾を絶対ズボンの中に入れようとしない男の人」
のことを、カリブ・スペイン語ではひと言でいい表すことばがあるそうです。

<COTISUELTO  コティスエルト>

これを知った時、道に迷った知らない土地でふと曲がった先に知っている風景を見つけた気分になりました。
「ああ、ここに出るのか」と。

なんだろこの気持、なんだろこの感覚、なんだろこの状態…
自国語(日本語)ではひと言で言い表すことができないそんないくつかも、ある国にはひと言で言い表すことができることばがある。

そんな翻訳できない世界のことばを集めた一冊が
エラ・フランシス・サンダース「翻訳できない世界のことば」という本(絵本?イラスト本?)です。

2016年に発刊された本ですが、これ、ホントに素敵な一冊です。
政治も世界も、そして明日の生活さえもどうなっちゃうかわからない、なんだかもやっとした、こんなときだからこそ!読むと、ちょっとの時間だけどほんわりと心が落ち着いてきます。

いくつかを紹介します。

「おなかの中に帳が舞っている気分。たいてい、ロマンチックなことやすてきなことが起きた時に感じる」→タガログ語で<KILIG  キリグ>


「本来は『あなたの中に私は私の価値を見出し、私の中にあなたはあなたの価値を見出す』という意味で、『人の優しさ』を表す」→ズールー語<UBUNTU  ウブントゥ>


「旅に出る直前、不安と期待が入り混じって、絶え間なく胸がドキドキすること>→スウェーデン語<RESFEBER レースフェーベル>

「はじめてその人に出会ったときの、自分の目の輝き」→ペルシア語<TIAM  ティヤム>

「トナカイが休憩なしで疲れずに移動できる距離」→フィンランド語<PORONKUSEMA  ポロンクセマ>

「だれかと初めて出会って、直感的にその人が良い人だと感じる時、のその人の表現」→ハンガリー語<SZIMPATIKUS  シンパティクシュ>


「KOMOREBI(木漏れ日)」「WABI-SABI(侘び寂び)」「BOKETTO(ボケっと)」「TUNDOKU(積ん読)」など、日本語も4語ほど載っています。

他にも素敵な表現がいっぱいです。付箋だらけの一冊で、大人も子どもも楽しめ、プレゼントにも最適です。ぜひ!こんなときだからこそ。


「翻訳できない世界のことば」は、ことばにできないもやもやとした迷い子に、こんな言葉がありますよ、と道を示していますが、でも、ことばにできない感情があるって大切かもしれないと思ったりもします。

簡単にひと言で言い表されてしまうと、もうこれで安心、とその感情について考える余地を失ってしまいがちです。
なんだかわからないものをなんだろ?どうしてだろう?と考えることも時には必要で、そこを突き抜けたところで見出したものがとても重要で価値あるものになっていく気もするからです。

逆に、日本では翻訳せずに使ってしまうことばがたくさんあります。

レガシー
ハラスメント
コンセンサス
エビデンス
イメージ

こういうことばって、なんだかよくわからないけれどわかった気にもなってしまって、今さらそれどういう意味?日本語で言い換えるとなに?なんて切り出せず、互いに認識違いのまますれ違ってしまうこともあって危険です。

ここ2年だけみてもパンデミック、オーバーシュート、ロックダウンとかも。
危機感をつのらせるためには、世界的流行、感染大爆発、都市封鎖と、日本語のほうがより緊密さが増すように思えるのですが。

(無理やり)ひと言で言い表してしまえることばは、便利で重宝ですが、用法用量を理解して正しく使わないと、ホント道に迷ってしまいます。


「翻訳できない世界のことば」の原題は、「LOST IN TRANSLATION ロスト・イン・トランスレーション」といいます。

映画好きならば誰もが思い出す、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソンがTOKYOを彷徨う、ソフィア・コッポラの映画と同題です。

映画「LOST IN TRANSLATION」(2003)は不思議な空気をまとった映画で、当時20歳前後のスカーレット・ヨハンソンが最高にカッコよかった。

この映画も、日本という異国でのLOSTを描いたものでした。
言葉にできない孤独感や喪失感を、TOKYOの怪しい空気の中で見事に描いた傑作です。

こちらも【こんなときだからこそ】のおすすめです。



ちなみに「翻訳できない世界のことば」を書店で見つけるときは注意が必要です。

ある大型書店では「イラスト画集」のコーナーに、
別の大型書店では「語学」のなかの「諸外国」のコーナーに
置かれていました。
どちらも間違いじゃありません、間違いじゃないけれど、なんだかもやっとします。
本来この本が持つ意味や価値とはちがう場所に置かれているような気もして、出会いのチャンスが失われているのではと。
LOST IN BOOKSHOP.て感じです。

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