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本に愛される人になりたい(59) S・ホーキング/L・ムロディナウ著「ホーキング、宇宙のすべてを語る」

 物語をあれこれ書いていますが、科学的な基礎知識は物語を書くうえで基本の一つになります。もちろん、物語を動かしていくうえで、科学的なリアリティを保ちつつも非科学的なストーリー・ラインを織りなしていくので、リアリティっぽいけれど、まったくの空想物語にはなりますが…。
 『京の侍:音酒麒ノ介日乗』は幕末京都を舞台にした、時代劇アクションなのですが、その太刀の振り方や、五天狗の動き等は空体力学をかなり勉強して書きました。『両手でそっと、銃を置く』は日本列島が隆起する話を中心とし、地球誕生以来繰り返されてきた超大陸の生成と分裂を描く為に、地球物理学をかなり突っ込んで勉強しました。科学的リアリティをしっかり踏まえてのクリエイティブ(創造)はけっこう楽しいものです。
 この夏は、先日発行した『現代幽霊譚』に続き、『復讐のインゴット』、『言霊喰み』、『悲しきガストロノームの夢想Ⅰ』とデジタル発行が続きますが、さらに秋に向けて、SF的な物語の構想を練っているところです。
 そのSF作品に欠かせないのが「ホーキング放射」というもので、読者の方に分かりやすく伝える為に頭を悩ましつつ、「ホーキング放射」について勉強中です。日本天文学会の「天文学辞典」によれば…「実際にブラックホールがその質量に反比例した温度をもった黒体放射を出すことを示し、ブラックホールと熱力学の対応が確立された。この放射をホーキング放射と呼ぶ。またブラックホールがホーキング放射を出して質量を減らすことを、ブラックホールの蒸発という」とされていますが、なんのことやら難しいですよね。ブラックホールの近くでは物質は消滅し反物質が生成されることにもつながります。
 さて、この「ホーキング、宇宙のすべてを語る」です。講談社のブルーバックスなど、比較的素人にも分かりやすい科学書などもあれこれ読みつつ、宇宙物理学の知識を再確認し整理するにはこの本はとても役に立ちます。
 何事も一点に集中して考え続けると、俯瞰的な視野が欠けてしまいますから、この本はそうした俯瞰的な視野を取り戻してくれるわけです。
 ただ、邦題は「ホーキング、宇宙のすべてを語る」なのですが、原題は"A Briefer History of Time"、つまり「時間の略史」とでも言えば良いものです。出版社が本書を売ろうと考えあぐねた感がありますね。しかし、ビッグバンから始まるこの宇宙を考えると、ビッグバンとは時間を生み出したわけですから、本書を「宇宙の」ではなく「時間の」とした著者は、その本質を語ろうとしているので、素晴らしいなぁと思います。
 本書で俯瞰的な宇宙物理学の世界観に漂っていると、私が書く物語を超えて宇宙物理学の世界は物語性を目一杯抱えているのだと、つくづく思います。中嶋雷太

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