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娘の発熱、入院初日の夜(2)・身を寄せ合う母子3人病棟にて

前回記事で、夜間診療で突然入院を言い渡された我が娘

これから入院する、というときにタクシーの窓の外の景色が暗い夜というだけで不安が増長される。
そんな心細さの中、突然の入院を言いわたされ不安でいっぱいになりながら入院先の病院に着くと、まっすぐ病棟に行くのではなく、また外来で同じことの繰り返しだった。

外来の時計は夜の8時をまわっていた。

驚くことに開いている外来にはけっこう人がいる。受付のあと小児科へ行くと、再びレントゲンを撮り、そのあとに診察室へと案内された。
ただ、穏やかな先生で、話がしやすかった。そこでようやく聞くことができた。なぜ入院なのかを。今更だけども。
「白血球が3万近くあり通常の3~4倍と高く、炎症反応も強く出ています」
レントゲンも見せてくれ「肺炎ですね」

あ、肺炎か……。

「外来で様子を見ることも可能でしょうが、初日からデータがよくないので、夜間でも入院したほうがいいと考えたのでしょうね、入院期間は数日から1週間位です」
と話してくださった。
それでかなり私は安心(親への病状説明がいかに大切か思い知る)したのだが、相変わらず次女はぐったり。
安心したせいか急に、4歳の子をずっと抱いていることに腕がしびれてきた。

そしてその時すでにシングルだった私は、長女(5歳)を預けることが出来ず、ずっと一緒に連れて歩いていたのである。

きっと母の不安や尋常ではない気配を感じ取っていたのだろう。1件目のクリニック受診のときから、長女は何も言わず、ただひたすら私の横をぴったりと離れずに歩いてくれていた。
診察に行くときも、検査に行くときも、タクシーに乗り込むときも。
なんて偉いんだろう。

子どもって親の気持ちをいち早く察する天才なのだ。

そのけなげな長女の姿を思い出すだけで、今でも熱いものがこみ上げてくる。本当に愛しい。

十分な説明を受け、夜の病棟へと案内された。
マンパワーの少ない夜勤の時間帯。
この時間に入院患者が入ってくるのは大変なんだろうな、と看護師目線でどうしても考えてしまい腰低く入院。

預け先がなく、長女も風邪をひいていたこともあり、同室入院の許可をいただいていたのだけれど、初日は空いてるベッドがなく個室に無理やりベッドをふたつ入れてもらい親子3人で寝ることになった。
夜勤帯に看護師がベッドを移動している姿を見ているだけでも本当に申し訳ない気持ちになり、お手数おかけします、ありがとうございます、をただ繰り返していた。

夜10時半。ウトウトしたのも束の間、おねしょをしたことのない次女がシーツを濡らして目が覚める。夜間に、こんなことでナースコールを押すのが申し訳なくて、詰所へ行ったけれども誰もいない。
忙しそうな看護師をようやくつかまえて事情を話した。
「いえいえ自分でやれます、大丈夫です」とシーツを預かり、夜中にシーツ交換。

隣のベッドに座らせていた次女を抱っこして戻そうとしたときに点滴部位が腫れていることに気付く。ショック。
また、あの忙しそうな看護師をつかまえて、しかも点滴の差し替えをお願いしなければならないなんて。
もう、いっそのこと自分でしたい。
そう思っても、さすがにそんなことは無理なので、しょぼぼーんと更に腰を低くして点滴のことを伝えにいくことにした。

夜の看護師はふたりしかいなかった。
子どもの点滴には抑えが必要。よって看護師ふたり必要。ふたりしかいないのに、我が娘にふたりとも手がとられる。他になにかあったらどうするの、と思い「すいません、私が抑えます」と言ってみたけれど、「お母さんは上のお子さんと一緒にいてあげてくださいね」とやんわり断られる。忙しいさなかでも、けっこうです、とは言わないこの看護師は心に余裕と温かさが感じられ救われた。

私は後ろ髪ひかれつつ個室へ戻る。
直後うわ~~ん、と処置室から次女の大泣きする声が、夜の病棟中に響きわたった。寝ていた皆さまごめんなさい。私も泣きたくなるよと思っていると、その泣き声で目覚めたのか、心配そうに私を見上げる長女。
長女も咳をしている。

何が何だかわからず心細いのは私以上なんだよね。
こっちで一緒に寝ようね、と長女を抱きあげる。たくさん歩かせてばかりで今日抱っこしてなかったな。ごめんね。ぎゅっと抱っこして横になる。

そこへ泣きはらして点滴を再度つながれて戻ってきた次女と、ひとつのベッドのなか3人で身を寄せ合うように夜を越したのだった。
もう何事もなく、ただ普通の朝が来ることを願いながら。

娘の最初の入院は予定をしていたもので、しっかりと準備していたので心配はいろいろあったが、ここまでの不安は感じなかった。
この日は「入院する」ということがこんなに心細いということを改めて思い知った夜となる。

過去に、数日の検査入院の子も、病棟で暮らすくらいに長期入院の子もたくさん見てきたけれど、入院することについて、さらに突然の入院について、入院初日の気持ちについて、等々。私はきちんと寄り添えていただろうか。

ちなみに娘は翌日から順調に回復し、数日後には自らプレイルームへ点滴を引き連れて遊びに行くほど元気になり、無事1週間で退院となった。

この夜の2軒の病院での出来事は、たくさんの教訓を私に与えてくれることとなる。それは働くとか子育てとかだけではなく、人と関わるうえで大切なこと。忘れてはいけない夜の出来事。


前の記事はこちら。娘の発熱、入院初日の夜。不安で心細かったクリニックでの出来事


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