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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』Vol.44♫伝える順番で映像が変わる/ぱぴぷぺぽ星人

Vol.43のドリルはいかがでしたか?

‘ぱ’‘ぴ’‘ぷ’‘ぺ’‘ぽ’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。
頭文字は、どんな順番でも構いません。
テーマはありません。自由に書いてみて下さい。

日本語の「は行」は、元々「ぱ行」から変化したというのが通説のようです。
ことばは時代とともに変わってゆくもの。
興味深いですね。

「えっ、ぱぴぷぺぽ?!変な作品しかできないんじゃない?」と思った方もいたかもしれません。
でも、作ってみると分かると思いますが、意外とそんなこともないんですよ。
楽しい作品、悲しい作品、真面目な作品… 色々、何でもできます。

変な作品ではないにしろ、「ぱ行」はカタカナ語やオノマトペが多いので、自然とユニークな切り口にはなったんじゃないでしょうか。

一つ気をつけて欲しいのは、「ぱ行」は、「あ行」や「か行」が頭文字の時に比べて、〝いかにも〟なわざとらしさが出やすい点です。
「言われなければ、ぱぴぷぺぽが頭文字だって気づかなかった!」となるのが理想です。
出来るだけ自然な仕上がりになるよう、工夫してみて下さい。


さて、今回も例を書いてみたいと思います。

(A)
パスワードを囁かれた瞬間

ピタッと僕の時は止んだ
プールにまっすぐ飛び込む彼女
ペディキュアの赤がチラチラ舞う
ポインセチアの夜の夢

またフレーズの順番を入れ替えて、ストーリーの表情を変えてみましょう。

(B)
ポインセチアの夜の夢
ペディキュアの赤がチラチラ舞う
パスワードを囁かれた瞬間
ピタッと僕の時は止んだ
プールにまっすぐ飛び込んだ彼女を追ってゆく

同じストーリーでも、どんな順番で伝えるかによって印象が変わります。

映像を思い浮かべて、追っていってみましょう。


(A)は、誰かが僕の耳にパスワードを囁き、まるで時が止まったかのようにゾクッとするシーンから始まります。
次に、囁きの犯人は彼女だと分かります。
その彼女はプールに飛び込み、水と戯れる。
水面に彼女のペディキュアの赤がチラつきます。
ホテルのプライベートプールか何かでしょうか。
赤の色はポインセチアに繋がり、情景全体が「ポインセチアの夜の夢」とまとめられます。

出だしは何が起こったのかよく分からないけれど、ハッとする。
そして、次第に怪しげな世界に誘われてゆく感じの構成です。


では、一旦(A)の映像をきれいにリセットしてから、(B)を追ってみましょう。

(B)は、タイトルコールのように、「ポインセチアの夜の夢」から始まります。ペディキュアの赤はどこを舞っているのかはっきり分からず、抽象的な印象です。
夢の中なのか現実なのか、それとも僕の妄想でしょうか。
そこで突然パスワードが囁かれ、僕はハッとします。
そして彼女を追ってプールの中へ。
ストーリーを締めくくるために、最後の行は言葉を付け足しました。


(A)(B)の大きな違いは、ざっくり言うと
(A)現実的→夢のようにふわふわ
(B)夢のようにふわふわ→現実的
と、逆の流れになっていること。

そして、〝ペディキュアの赤〟が舞っているのが
(A)プールの中
(B)どこか分からない
という点。


耳で聞いてゆく『歌』の歌詞は、どんな順番で伝えてゆくかがとても大事です。
聞き手の頭の中に流れてゆく映像を想像しながら、どうイメージを作り上げてゆくのか。

作者は、「当然こう伝わっているだろう」という思い込みを捨てて、どう伝わっているかな?という想像を常にしてゆくことが大事です。
思い込み無しに、純粋に想像ができていないと、意図と違うものが伝わってしまう可能性があります。

先ほどの例で言うと、彼女のペディキュアが水の中を舞っているイメージを伝えたいなら、(A)の方が良いですね。
(B)の順にしてしまうと、はっきりとそうは伝わってくれません。
逆に、全体を抽象的な感じにしたいなら、(B)の方が効果的だと思います。


ところで、子供向けの遊びで『ぱぴぷぺぽ星人』っていうのがあるそうですね。
宇宙語のように、ぱぴぷぺぽだけで会話して、笑いながら楽しく仲良くなれそう。

大人がするには馬鹿らしいでしょうか。
そもそも、誰にも付き合ってもらえないかもしれませんね笑。
でも、ボキャブラリーを豊かにして、必要な時に表現の引き出しがパッと開くように、そんな遊びもきっと役立つと思います。

そこで、『ぱぴぷぺぽ星人 ひとりごとver.』、やってみませんか?
子供の遊びと同様に、普通の言葉をぱぴぷぺぽに変化させて話すのも新鮮な発見があると思います。
意味不明な造語で、サウンドの良さを求めてゆくのも良いですね。

普段やらない方法で言葉と戯れることは、きっと頭を柔らかくしてくれます。
そして、いざ表現をする時に、今まであまり動いていなかった脳のどこかが稼働してくれたりもするんじゃないかと思います。

ぜひ、ひとりでも声に出してやってみて下さい。
声に出した方がより言葉の実感があるからです。

何より、そういう言葉遊びも、「馬鹿らしい」「やらなくても分かる」と切り捨てずに、まずやってみること。
そしてどう感じるか、何が得られるか、観察する。
そういう姿勢で居続けることが、表現の可能性をずっと広げ続けてくれるのではないかと思うんです。


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《ことばのドリルVol.44》

「夏」「海」「泳ぐ」「私(僕、俺)」
4つのことばを好きな順番で一度ずつ使って、
短い文章を作って下さい。「泳ぐ」は活用しても構いません。

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。


ありがとうございます!