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人間関係の違和感。川上弘美『これでよろしくて?』

川上弘美『これでよろしくて?』を読む。

38歳の主婦・菜月は「これでよろしくて? 同好会」という、日々の「?」をあーだこーだ話す、女たちの奇妙な集まりに誘われる。

そこでは、夫婦、嫁姑、親子、同僚・・・。あらゆる人間関係の間に生まれる「些細な違和感」を題材に、ぺちゃくちゃおしゃべりするのだ。

「前向きになる」とか「思いのたけをぶちまける」とか「癒される」といった生産的なものを話す場ではない。ただ、そこには自分の居場所があるんだなと思わせてくれる、不思議な場所。利害関係なしに人と言葉を交わせる場所ってものすごく貴重だなぁ、と思う。日々のモヤモヤって澱のように溜まっていくから。

嫁姑や夫との関係での葛藤を経て主人公はこう思うようになる。

人と関係をつくるのは、実際、ひどく難儀なことなのである。仕事の場の関係も難儀だし、友だちとの関係だって難儀だ。ましてや、人生のなかばで新しくつくりはじめた家族関係ならば、そりゃあ、大変なことは百万とあるはずだ。そろそろわたしは、その難儀さを認めなきゃ。

はっと、させられた。最近は、「新しい人間関係」に対して臆病になっていた。ましてやこの非接触社会。新しい人間関係を築くのって、面倒だし傷つくことも多いじゃないか。けれども、そもそも「難儀なこと」だと思ってしまえば少しは「新しい人間関係」への臆病さもなくなるんじゃないか。

嫁姑問題について書いた本かと思いきや人間関係全般について描いた本。読み終わったあとは不思議な開放感があった。

そのほか、「台所一つに女二人は争いのおおもと」「結婚正社員」「『不健康』と『鈍感』が一緒になった男はいちばん悪い組み合わせ」といった名言が次々と出てくる。なんども思わず膝を打ちたくなった。そして、嫁姑問題をよく取り上げる『婦人公論』が初出というのも納得!




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