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美しい嘘
嘘には2種類あるのよ。
小学生のころ、母にそう教わった。美しいものとそうでないものと。
*
「わたしのにも蟻が入ってるよ」
ガールスカウトの活動としてキャンプに行ったときのこと。9歳の夏休み。
一緒にテントで寝泊まりしていたYちゃんは、リュックに蟻が入ってしまったと半泣きになって蟻を追い払いはじめた。
簡易なテント。都会では見かけない虫とも常に背中合わせ。よそものは人間であって、自然を受け入れるしかない状況。
Yちゃんとは学校も同じだったけど、仲良しではない。けれど、嫌々キャンプに来ているというのはよく分かった。わたしも同じ気持ちだったから。そもそもガールスカウト自体、本人の意向で入団していないんじゃないか。
Yちゃんをどうにか救ってあげたい気持ちに駆られた。
「わたしのリュックにもたくさん蟻入っちゃった」
たぶんみんなのにも入ってるよ。咄嗟にわたしは嘘をついた。
タイムスケジュールはパンパンで、退治している余裕なんてない。リーダーに言ったところで、"仕方ない"の一言で片付けられるに決まってる。
だから嘘をついた。
*
帰宅してからこのことを母に話した。
嘘には2種類あるのよ。美しいものとそうでないものと。
その教えは昔から聞いていた。だから、蟻が入っているという嘘はきっと"いい"ほうだ。そう思ってついたのだ。
美しいね。
予想通り母は褒めてくれた。
憧れの街への引っ越し資金とさせていただきます^^