変化する社会において、『越境学習』が求められるたった1つの理由-見えなくなったニーズを掴み、イノベーションを推進する人を育てる-
お世話になっております。リディラバ石井です。
今回は、イノベーションを推進する人材を生み出す手法の一つである、越境学習の必要性を、日本の社会と企業の組織・戦略の変化を追いながら明らかにして参ります。
近年、ビジネスの領域では、「越境学習」という言葉を耳にする機会が増え増した。特に人材育成部門の方々は、社内に越境学習を導入することがひとつのミッションとして課されていることでしょう。
しかし、なぜ越境学習が注目されているのでしょうか。検討・導入は進めているものの、越境学習そのものが手段から目的に替わってしまう、そんな状況に陥ってしまうケースも、少なくありません。
人材育成改革を含む、企業の意思決定の背景には、その時代に必要とされるビジネスの在り方があります。そして、そのビジネスの在り方には、戦後から現代に至るまで「変化する社会」が大きな影響を及ぼしています。この「変化する社会」を直視することこそ、これからの時代に本当に必要な社員の学び方を見出す鍵を握っているのです。
本文では、戦後から現代にかけて変化する社会と、それに応じて形を変える企業のあり方を辿りながら、今の社会において越境学習が求められる理由をご紹介します。
ビジネスとは本来、誰かのニーズに応え、解決すること
社会の変化について触れる前に、改めて企業の本来的な意義を振り返ってみましょう。
企業とは、営利を目的として、経済活動を行う組織を総称します。
その経済活動、所謂ビジネスは本来、その多くが誰かのニーズに応えることや解決することで収益を上げ、成り立っています。例えば、テレビなどのメディア産業は「国内外で起きる、あらゆる複雑な情報を、素早く、分かりやすく知りたい」といったニーズに応えるビジネスです。メディア産業は、消費者が抱えるニーズを満たす価値を生み出すこと(商品やサービス
提供)を通して、収益を上げています。言い換えるならば、ビジネスを通して得ることのできるお金は、誰かのニーズを解決したときに初めて支払われる対価だと言えます。
ビジネスパーソンにとっては最も基本的なことですが、消費者のニーズを適切に見極め、そのニーズを解決することは、企業が持続可能な事業活動をする上で最も重要な要素なのです。
-「ない」を「ある」に変える- ニーズが明確だった時代の日本社会とビジネス
では、これまでの社会において、人々のニーズはどのように変化してきたのでしょうか。ここでは、戦後から現代を中心に、人々のニーズの背景にある社会の変化に着目して解説していきます。
戦後、多くの人にとってのニーズは「経済が発展した幸せな社会」で暮らすことでした。その背景には、戦争によって疲弊した日本の街が、食糧や住宅をはじめとする極度のモノ不足やインフレ、衛生環境の悪さに悩まされていたという状況があります。敗戦によって日本の誰もが直面した最大の社会問題は貧困だったのです。貧困は特定の誰かに限らない、まさにみんなの問題です。「経済が発展した幸せな社会」で暮らすという大きく、分かりやすいニーズは、社会問題が明確であったが故に生まれたものだと考えることができるでしょう。
1950年代以降、このニーズに影響されるように、日本は高度経済成長期を迎えます。設備投資や技術革新は工業化を促し、農村から都市への大量の人口移動が起こりました。この人口移動は雇用者の増加、つまり人々のサラリーマン化につながっていくのです。かつての日本の経済はこの労働力に支えられていた、といっても過言ではありません。
前段の社会状況は日本企業のあり方をも形作っていくこととなります。というのも、貧困という明確な社会問題をビジネスで解決するための有力な方法は、「早く」「安く」「大量に」商品やサービスを提供することでした。マス向けの大量生産型ビジネスを実現するにあたっては、一定レベル以上の同質的な労働力とチームワークが必要不可欠でした。日本企業の特徴と言われる新卒一括採用、人事ローテーション、年功序列、 終身雇用などは、大量生産・大量販売に適した組織の姿だったのです。これを言い換えるならば、「人々にはどんなニーズがあるのか(=what)」や「なぜそのニーズがあるのか(=why)」が明確だったからこそ、企業は「どうやって人々のニーズを満たすのか(=how)」という視点を重視して作られた組織の最適解ということです。結果、与えられた仕事をこなすことができる従業員たちのチームワークによって企業を発展させるという答えが導き出されたと言えます。
-社会の成熟とニーズの複雑多様化- 求められるものが、見えない・分からない時代の企業経営
高度経済成長期が過ぎた後、人々のニーズには変化が起こります。生活の変化に伴って、貧困を代表とするみんなの課題の消滅を背景として、より多様化・複雑化していったのです。
たとえば、大量生産・大量販売によって物質的な豊かさを手に入れた人々は、快適さや自由といった新たなニーズを持つようになりました。また、衛生環境の改善に伴う平均寿命の上昇は、高齢化や社会保障費の増大といった悩みを生み出しました。加えて、人々の都市部への流入とサラリーマン化は地域間格差の他、男女の役割の差異を生み出し、それらを解消してほしいというニーズにつながりました。
社会が発展すればするほど、「特定の誰かに限定されない大きな問題」は消滅し、発展の副産物として新たなニーズの数々が登場するようになったのです。それに加えて、誰がそのニーズを持っているのか、そもそもなぜそのニーズがあるのかを見極めるのも難しくなりました。
変わる社会の中でこそ求められる、本質的なイノベーション
このような社会変化の中、日本の企業はこれまで通りの戦略・組織体制で戦い続ける事の限界に直面しています。
実際、今や企業は「人々にはどんなニーズがあるのか(=what)」や「なぜそのニーズがあるのか(=why)」というニーズの本質から考え、これまでにない商品やサービスを生み出すことを求められています。
今、企業が必要としているのは、与えられた仕事をこなすことができる社員ではありません。むしろ、既存事業・新規事業問わず、ゼロから仕事を生み出すことのできる社員を育成することが重要になるのです。
イノベーションの源泉、社会のリアルなニーズに自ら触れに行く「越境学習」という手段
戦後において分かりやすかった人々のニーズは、現代にかけて社会が変化していくことで多様化・複雑化しました。ビジネスの始まりであるはずの誰かのニーズが、今の社会では見えづらくなったのです。
そしてこのような社会的背景があるからこそ、企業は「自ら主体的に物事の本質を見出し、新たな価値を生み出そうとする人材」を育てる必要に迫られるようになりました。ただ、人々のニーズを探し出すといってもそう簡単ではなく、会社の中で、数字に向き合って考えていて見つかるようなものではありません。これからの時代の価値創造は会社の外、つまり社会というニーズの最前線で社員が学ぶことが求められているのです。
そこで不可欠となるのが「越境学習」だと言えます。
「越境」とはそもそもある境界線を越えることであり、ビジネスの世界で考えるならば、社員が所属する企業や組織の枠を越えて、普段とは異なる環境に身を置くことを意味します。
社員が越境先の環境で主体的に学び、新たな価値観や知識に触れることができるからこそ、「越境学習」は「自ら主体的に物事の本質を見出し、新たな価値を生み出そうとする人材」の育成につながるのです。
越境学習についてもっと知りたい方はこちら↓
越境学習の効果を決定づける、2つの重要な要素
以上を通して、これまで以上にニーズが不透明な社会に変化しているからこそ、困りごとの最前線で、主体的に新たな学び・気づきを得られる越境学習は不可欠になると書かせて頂きました。
では、企業が「自ら主体的に物事の本質を見出し、新たな価値を生み出そうとする人材」をより確度高く育成するためには、どのような越境学習を導入すればよいのでしょうか。
先述したように、このような人材が求められている背景には、ビジネスの始まりとなる人々のニーズが見えづらくなっているという社会の変化があります。そのため、越境学習では以下の2つのポイントが重要となります。
①越境先のフィールドが、社会課題を代表とする、ニーズ・困りごとが溢れる最前線であること、そして、②越境先での学びが社員に新しい価値観をもたらし、社員の主体性を喚起するものであることです。
本当の意味で人材育成につながる越境学習を行うためには、単に普段とは異なる環境に社員を送り込むのではなく、この2つのポイントを意識することが大切になります。
そんなフィールドはどこにあるのか?
一方で、理想的な越境学習の環境を自社内で整えることには、想像以上のコストがかかります。そして、その環境で、正しく、本質的な議論や課題解決を行くことは容易ではありません。
リディラバでは、フィールドアカデミーという、企業人が慣れ親しんだ会社の外に飛び出して、社会のリアルな課題にゼロから挑む、越境型の人材育成プログラムを提供しています。
リディラバの越境学習は、単に取り組むお題目を提示して、どの様に解決するかを考えるケーススタディではありません。
私たちは社会課題のプロフェッショナルとして、企業人の人材育成に最も適した社会課題の現場・トップランナーを選定。NPO・行政・企業・市民など社会課題に関係する様々なプレイヤーを繋ぎ、参加する企業人が自ら取り組むべき課題を決めて解決の提言まで一気通貫で取り組むプログラムのご提供を通して、主体的に課題解決や価値創造を行うことができる人材を育成します。
社会課題は、これまでの常識が通じない、最も解決することが難しいとされる領域です。
社会課題という最もハードなフィールドで、ゼロから課題解決に取り組む経験を潜り抜けた企業人は、「今、社会で何が求められているのか」「本質的な課題は何か」を自ら探索し、企業で新たな価値を生み出す人材となります。
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