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小説 「シャークス・ラブ」 VOL.22

むしゃくしゃする気持ちを落ち着けるのは映画しかないとばかりに、村上はビデオレンタル屋「スマッシュ・ヒッツ」に来ていた。しかし、映画を選ぶことさえ集中できず、パッケージを手にしては戻すことを繰り返している。

「万引きは犯罪ですよ。ちょっと事務所まで来て下さい」

背後からの突然の声掛けに慌てて声を荒げ「いやいやいや、万引きなんて」と振り向いた先には店員の太田と細田の二人がいた。

「そんな慌ててどうしたんだよ。冗談に決まってんじゃん」
「冗談に付き合ってる余裕なんてないんだ」

村上が太田の言葉に対し、ムスッとした表情で答えた。

「その感じはまた振られたな」
「振られてなんかない。まだ」
「まだ…ってもう振られたのも一緒だろ。ま、同情はしないどな。なんだかんだ彼女いつもいてさ、こっちなんかもう何年いねーよって話じゃん。なっ」

隣にいるビデオのパッケージを抱えた細田に同意を求めるが、細田は首を横に振り「俺はいるよ」と太田を突き放す。

「えっ!?」

村上と太田は思わず続きの「その太った体型で彼女いるの!?」という言葉を呑み、細田をそしてお互いを見つめた。

「ま、とにかくだ。何があったんだよ?」

村上は元カノとの関係、今カノに疑われた状況を渋々告げた。腕を組み、太田は開口一番、そりゃお前が悪いじゃんと憤慨した。

「ああ、分かっているさ」
「分かってねぇじゃん。なんで彼女いんのにセフなんて作る必要あんの?今の彼女、まなちゃんだっけか?まなちゃん大事にしたらいいじゃん」
「だから、分かっているんだ、そんな事は。だが、据え膳食わぬはってのもある。相手が迷惑だったら、こっちだってしない。望まれたから応じたまでだ」
「応じたまでだ。じゃないよ…結局感づかれて、振られたら意味ないじゃん」
「だから、まだ振られてはない」
「女の感って凄いの知らないの?絶対バレてるって。なっ」と細田に同意を求めるが、細田は細い目を更に細くし、じっと何かを考えている。

「ん?細田、どうしたん?」
「ポイントは、そこじゃあない」と呟いた。

「ポイント?どういう事だ?」

つづく


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