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小説 「シャークス・ラブ」 VOL.23

細田は抱えたビデオのパッケージを太田に渡すと、細い目を見開き、村上を指差した。

「お前がイラついたのはまなちゃんに疑われたからだけじゃないだろ?ポイントは台本が書けていないって事だ。お前はいい客だし、いい友達だ。少なくとも俺はそう思って接している。だからこそ言わせて貰うけど、どうでもいいんだよ、彼女ができたとか、振られたとか。東京来てからのお前しか知らないけど、まず何をしに東京に来たんだ?」

細田は周囲に置かれている数々の映画を見て、村上の反論を受け付ける間も与えず続けた。

「映画だろ、映画!映画が撮りたくて東京に出て来たんじゃないのか?『バック・トゥ・ザ・フューチャー』より面白い映画が作りたい、そう語ってたよな?彼女を作るために女とやるためにここにいる訳じゃないだろ? だから、今お前が落ち込んでいる、いや、落ち込んでいるフリをしているのはまなちゃんのことじゃあない。台本が進まないことに対しての落ち込みだ。逃げに使うなよ、女を。」

細田は言いたい事を言い切り、渡していたビデオを太田から受け取ると、いつもの穏やかな雰囲気へと戻った。

呆気に取られた二人は呆然と立ち尽くしている。

我に返り「いや…」といつもの軽口で言い返そうとする村上だったが、細田に言われた事全てが図星だった為、その口からはそれ以上は何も出てこなかった。

太田は村上の肩を軽く叩き、何も言わず微笑みと共に頷くと、細田と共に店の奥へと消えていく。

多くの映画たちに囲まれ、村上は一人その場に立ち尽くした。

つづく

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