#7 映画「怪物」考察
こんにちは。RICOです🌙
ずっとみたかった作品「怪物」をみてきました。
この作品、深いメッセージを持ちながらも、視聴者に解釈をゆだねる部分も
多かったと思ったので、今回は自分なりの解釈を書いてみます。
(※ネタバレ含みます)
「視点」のものがたり
この映画の演出、本当に巧みだと思う。(笑)
断片的に見ているものが、いろんな角度から観た時につながっていくような綺麗さを感じる。そして、いかに自分たちが偏った視点で出来事をみているのかと空恐ろしくもなる。
①「早織」の視点
・湊:いじめられてる?と思うほど、不可解な行動をしている。そして、自ら命を絶つんじゃないかと思うほど、思いつめている。
・保利先生:息子のことをいじめている?落ち着きがなく、話がまったく伝わらない、怪物のような人。
・校長先生:感情がぜんぶ抜け落ちてしまったかのような怪物のような人。
・依里:明るく快活で、湊と仲が悪いようには見えない。
②「保利先生」の視点
保利先生の視点に切り替わると、いかに「普通」の人物で、しかも割と優しく、怪物要素が見当たらないことがすぐにわかる。
・湊:自分がやってもいないことをやったと言って嘘をつき、はめた。依里をいじめている?何を考えているか分からず、怪物。
・早織:あれほど怪しい息子を信じて疑わないモンスターペアレント。
・校長先生:感情が抜け落ちており、「事実なんてどうでもいい」と自分のことを売る。実は孫をひいたんじゃないかという怪物のような人。
・依里:明るくてとても良い生徒。なのに、いじめられている。
③「湊」の視点
そして最後のパートである子どもたちの世界。これまでの不穏な出来事のすべてが、ただ純粋な愛の気持ちと好きな子との思い出だったことが分かる。
・早織:良いお母さん。「普通」であることを求めているが、それが湊にとっては苦痛。
・保利先生:優しい先生だが、嘘をついてはめてしまう。罪悪感。
・校長先生:自分の罪悪感を、放つ方法を教えてくれた。
・依里:大好きな人。友情をこえた愛だと薄々思っているが、認めることも怖い。
その人たちの目に「異様」に見えているものを、「怪物」のような人という言葉で表してみた。こうやって見ても、立場、噂話、心の余裕で、同じ人物でも全然違った印象で見えていることが分かる。
たぶん湊が苦悩しているのは、自分と依里が同じだと思っていて、
そんな依里は父親から「豚の脳、人間じゃない」と言われている。
だから依里=怪物=自分だという怖さに苦しめられてるんだと思う。
そして大人たちからの目線であんなに異様に映っていた子どもたちが、ただ純粋に好きな人と楽しんでいただけだったと思うと、わたしたちの偏った目が一番怖いなーーとも思う。
ただ、校長先生に関しては、ほんとに怪物じゃない?って思うようなサイコパス感がある(笑) あれだけは本当に理解できなくて、もう一回観て消化したいことでもある(笑)
「普通」と「らしさ」に対する問題提起
かなり印象的だなと思ったのは、なんども出てくる
「男なんだから」
「男らしく」
「普通に結婚して普通の家庭を築いてくれたらいいんだよ」
というセリフ。
男だったら、女だったら、というのは私たちにタトゥーのように植え付けられた偏見だな~と思う。自然に言ってしまうのがまた怖いところ。
依里にとっては「男らしく」は当てはまらない。
湊にとっても、「普通」が結婚して子どもをもつことなら、自分は「普通」じゃないんだと思わざるをえない。
湊も、ひんぱんに先生から言われる「男」ワードを聞くたびに悩むことになっていたから、余計に「先生にやられた」という嘘がとびだしてしまったのかも。
音楽と音響効果
①坂本龍一さんの遺作
オープニングからシンプルな音のくりかえしだけで、映画の不穏な空気感を完全につくりだしてしまうのは本当に職人技だなと。
このOPは書下ろしではなく、亡くなる前に書いていたものやけど
病床での気持ちの不安定さが表されていて、登場人物の心の不安定さと見事にマッチしてるなあと思った。
②不安をあおる不協和音
いや、これすごいな!?と思ったのは、湊と校長先生が吹くトロンボーンとホルンの音色。早織や先生の場面では、ふるい金属製のドアがきしむ音のような絶妙に映画の行く先の不安さをあおる音になってる。
最後にむかうにつれて、湊たちが吹いているのが分かる。
この不安定な音は、湊と校長先生の罪悪感のかたまりなんだなあと。
この時の音が逆に綺麗にハモってたりしたら、罪悪感を吐き出しているようには見えないから、やっぱり音響効果って考え抜かれてる。
釈然としない部分もたくさんあったけど
このテーマは誰かがいつか描かなければいけなかったようなものにも感じて
それが、日本最高峰の監督、脚本家、音楽家で映画化されて良かったなぁ。
湊と依里は、ふたりでいられて良かった。ひとりで苦しんでいる人がどれほどいるのかと思うと、やっぱり観てよかったなと思う。
読んでくださった方、ありがとうございます✨
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