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待望の成瀬シリーズ第2弾!『成瀬は信じた道をいく』の読書感想

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
衝撃的な書き出しから始まり、閉店する西武大津店を全力で見送け、幼馴染とM-1グランプリ予選出場したりと予想不可能な行動をする唯一無二の女子高生、成瀬あかり氏の天下道が描かれた「成瀬は天下を獲りにいく」に続編が出ました!

シリーズ1作目の感想も昨年書いているので是非、ご覧ください。
本もこの記事も2作目から読んでも楽しめます。

シリーズ1作目では成瀬あかりの高校時代が描かれていましたが、本作は京都大学に進学した彼女が地元滋賀県大津市でまたも予想不可能な武勇伝を巻き起こす物語です。

前作は成瀬の幼馴染であり『ゼゼカラ』というユニットを組んで、M-1予選出場や大津市膳所をPRしたりと、彼女の相棒であり親友でもあった島崎みゆきの視点で成瀬の行動が描かれていました。
しかし、本作からは島崎は東京の大学に進学してしまったため2人の絆は強く結ばれたままでもそれぞれの道を進んでしまいます。
その代わりに本作では大津市に住んでいる人や家族の視点で成瀬が描かれています。個人的に島崎の語り口は好きだったのでショックでしたが。

今作と前作の違いは、前作は視点主である島崎も成長していましたがどちらかというと唯一無二の存在である成瀬にフォーカスが当てられて、読者が成瀬から目が離せない物語になっていました。
今作では、語り口が成瀬との出会いを通じて語り口自身も成長していく物語になっていると感じます。

それは本作で成瀬が『ゼゼカラ』の2人が別々の道に進むことを悲しんでしまった小学生を励ますために放ったセリフ「――『ゼゼカラ』は小さな存在かもしれない。でも、小さな歯車が欠けても仕掛け全体が回らなくなるように、『ゼゼカラ』の存在がどこか大事なところに入っていたということだ」(P25より)に詰まっており、成瀬は確かにとんでもなく面白い存在で、目が離せないけど、皆何か社会で重要な役割を背負っていることをこの本は教えてくれます。

私はこういう考え方が大好きで、2016年に放送された大河ドラマ『真田丸』で主人公真田信繁が家康に刃を向けることを覚悟する一因にもなった信繁の祖母のセリフ「誰にでも、それぞれの定めがある。それに気づくか、気づかぬか」というが今でも心に残っていたり……

アイドルマスターシャイニーカラーズで登場するアイドルユニット『ノクチル』のメンバー福丸小糸ちゃんのソロ曲『わたしの主人公はわたしだから!」という曲が大好きです。

話が逸れましたが、本作では全5章、章ごとに変わる語り手は成瀬と出会い彼女は変だけどとんでもない大物だと思いながら、語り手自身のなりたい姿や強さに気がついていく素晴らしい物語です。

記事では面白かった後半の2章を詳しく語りたいと思っていますが
第一章では大津市に暮らす女子小学生の北川さんが『ゼゼカラ』を知り、それから成瀬あかりを学校の調べ学習の時間で高校時代までの歩みを調べて発表することで、友達と仲良くなったり『ゼゼカラ』みたいになりたいと成瀬を通して夢を抱きます。

第二章では成瀬が大学進学と同時に家を出て行ってしまうことを心配する父親が登場して、悩みながらも娘の成長を見守り父親として応援する姿が描かれています。
個人的には成瀬の両親はどんな人なんだろうと気になっていて、それが知れて良かったです。

第三章では成瀬がバイトしているスーパーに通うクレーマー主婦が主人公で、自分がクレーマー体質というめんどくさい性格と分かりながらもやめられない彼女が成瀬と一緒に万引き犯を捕まえようとすることで、自身を受け入れていきます。
この章について少し語りたいのですが、クレーマーが語り手の物語というのは私は見たことがなく、いろいろ不満を漏らす語り手に当初不快に思いながらも読んでいく内に、クレーマー=細かい事に気が付ける人・単純に不正を正したい人なんだと気づかされたり、キャラクター描写のバランス感覚が絶妙でした。

特に面白かった後半2章は詳しく紹介していきます。

第4章では成瀬が大津市の観光大使として活動する姿が描かれます。
京都の大学、島崎が東京の大学に進学したことで『ゼゼカラ』としては活動出来なくなってしまった成瀬。
しかし、成瀬には活動ができなくなったからといって落ち込むという思考はありません。
思考は常にポジティブ、さらに活動を大津市全域に広めようとすれば良いと、ひとり大津市の観光大使に応募した結果見事任命、そこで出会った相方篠原かれんと活動していきます。
そのため第4章は篠原視点で進みます。

篠原かれんは父親が大津市の市会議員、そして母もその祖母も大津市で観光大使をしていたということで大津市では地盤が強い家の生まれでした。
親族が大津市と関わり深いこともあり、幼い頃から大津市の事をよく知っていて、さらに大人のマナーや外国人観光客にも大津市をアピールできるように英会話を習っていたりとまさに大津市をPRするためのサラブレッドとして育てられました。

そんな彼女が最初成瀬と出会った時、成瀬の事を変わり者としか思っていません、それは当然です。
連絡先を聞こうとしても「スマホを持っていない」と今の時代では、連絡先を断るための口実みたいな理由で断られたり(成瀬は本当にスマホを持っていません)どんな人にも敬語を使わず「~だ」「~している」と淡々と話す口調で、大津市観光大使に任命された際、インタビューでどうして観光大使をやろうと思ったのかという質問に対して「私以上の適任はいないと思ったからだ」と答える大物っぷり。
どんな人にも丁寧に接することを教えられた篠原にとってはまさに水と油、それでも篠原は面倒くさい相方と組まされてしまったと思いながら自分の強さを活かします。

磨かれた観光アピール技術と、リアルでのアピールだけでなくSNSを使いこなしインスタではインフルエンサーだったことで大津市の情報を様々なツールを使い発信していきます。
そんな順風満帆そうな篠原にも悩みがありました。
それは両親から受けている影響が強すぎて、自分が本当は何がしたいのか分からなくなっている事。
2代揃って観光大使をした家に生まれた篠原かれんは生まれながらにさらに家をさらに盛り上げていくぞという期待という名のプレッシャーをずっと背負わされて、まだ大学生にも関わらず、母親から縁談を持ち掛けられたりもされます。

一方、成瀬とは大津市を盛り上げるという志は同じなものの、集合マンションで育った家庭の生まれで、特に人付き合いが得意というでもなく、自分がやりたいこと優先で誰かに認めて欲しいとも思っていない。
篠原は成瀬の自由さの魅力に取り込まれながら彼女の自由さを羨ましく思っていきます。
そして、転機が訪れます。それは観光大使-1グランプリという全国各地の観光大使が集まり誰が一番地元をアピールできるかを競う大会に成瀬と篠原が大津市代表として出場した時でした。

大会ではロープレ形式で観光客に見立てた審査員が観光大使に地元の名所や無理難題な質問をしてその対応力が問う競技が開催されるのですが、その審査員は2人に大津市を通る鉄道に関するマニアックな質問をしてきます。

成瀬は京都大学生で成績自体は優秀で、待ち時間に『ファイマン物理学』を読むほどの知識欲がありますが、鉄道の知識はカバーしていませんでした。
そこで、篠原が代わりに対応することで無事試練を乗り切りました。
篠原はSNSの裏垢で鉄ヲタ垢を作り活動する程鉄道好きでしたが、周りの目があり、それを外に打ち明けられませんでした。
しかし、その知識が役に立ち、成瀬と篠原はお互いの良さを認めながら補えるパートナーらしい関係になります。
また、自分の好きな鉄道の知識が役に立てたことで、今までは祖母、母がやっていてその3代目という肩書を背負ってやるのではなく、自分で好きなように大津市をアピールしようと成長していきます。

周りに期待や運命を背負わされた人の抗いは物語ではテッパン中のテッパンですが、そのプロセスが綺麗でまさに成長物語の黄金パターン。
それと、流石に対外的な受け答えをする際には成瀬がちゃんと敬語で話すシーンがあり「敬語使えたの?」と驚く篠原に対して「その気になれば使えます」と心の中では自分を貫き、大物っぷりが出ているのが面白いです。

第5章には『探さないでください』とサブタイトルがついていて、大晦日に成瀬が実家に「探さないでください」と書置きを残してどこかへ行ってしまい、それを心配した島崎や今作で成瀬と知り合った人たちがどんどん集まって成瀬がどこにいってしまったか考えるミステリー仕立てになっています。
これまでの4章も通して伏線がいくつも散りばめられおり、章ごとに登場していた人物も登場することで、成瀬失踪事件を通して交流が生まれます。
また、この章は物語の中心的人物でありトラブルメーカーである成瀬が失踪してしまうという事件が起きることで、成瀬は何を考えているんだ!と考えているんだという、前作のような面白さがあります。

成瀬がいない時にも思わず成瀬を語ってしまう、それは様々な時代でスターを生み出した秋元康がスターとは何かを語った際「皆が語りたくなる。それがスターの条件じゃないですか」という定義に一致しています。

まさしく成瀬は本作のスターではありますが、登場人物達のおかげで成瀬の捜索に進展が生まれるので、スターだから特別ではないというのがテーマになっていると思いました。

ラストは大津に帰省した島崎が久しぶりに成瀬と合って、初詣に行くシーンで終わるのですが、まさしく島崎の心境が読者と一致していると思います。
――これからもずっと、成瀬を見ていられますように

続編を楽しみにしております。

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