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ノスタルジック京都:高校で自由を満喫する

私が通った高校は大徳寺の境内を抜けたところにありました。大徳寺の一角に高校があると言った方が適切かもしれません。環境は抜群でした。私は毎日境内(お借りしたヘッダーの写真)を歩いて通学していました。名物和尚として知られる大仙院の尾関宋園さんに時折声をかけられたのも懐かしい思い出です。

京都の公立高校は小学区制だったので私は選択の余地なくこの高校に行きました。学区が決まっているので生徒たちは近隣の生徒ばかりです。みんな入れると思っていたので受験対策はほとんどした記憶がありません。自由と規律をモットーに生徒の自主性が重視されてiた高校で3年間自由を謳歌して過ごしました。制服はなく、校舎内は土足です。かつての女学校を京都市が買い取って設立したため、年代を感じさせる古い木造校舎が残っており歩くとギシギシと音を立てます。敷地内には女学校時代の茶室もあり落ち着いた雰囲気でした。

授業は2時間続きで行われました。だから1日に3教科しかありません。先生が休むと2時間休講となります。その時間はどこで何をしても構わないので校庭で遊んだり、中庭でおしゃべりをしたりする人もいれば、教室や図書室で勉強する人もいました。校外に出て喫茶店などに行くことも自由です。家が近い生徒は家に帰って昼寝をするなどということもありました。私はもっぱら友達と行きつけの喫茶店に行っていました。ジュークボックス(懐かしい響き!)で由紀さおりの「夜明けのスキャット」がいつも流れていました。

すぐ近くには「あぶりもち」で有名な今宮神社がありました。今宮神社は「玉の輿」の語源となった徳川五代将軍綱吉の生母桂昌院が寄進して造営されたと言われる神社です。神社の門前に「あぶりもち」の店が2軒あり、休講の時はその店に行くこともたびたびありました。

徳川五代将軍綱吉公の生母桂昌院は、一説に西陣の八百屋に生まれ、その名を「お玉」と呼ばれたと伝えられます。三代将軍家光公の側室となって綱吉を生み、その後、将軍の生母として大奥で権勢をふるい、従一位の高位にまで昇り詰めた事から「玉の輿」の言葉の起源ともいわれています。

桂昌院は故郷を忘れず西陣の興隆につとめ、その氏神である当神社が荒れていると聞くと、今宮神社再興に社領百石を寄進して社殿を修復し、四基の鉾も新たに作られました。その由来にちなみ、感謝を忘れない心暖かな幸せを願う御守です。

今宮神社ホームページより


あぶりもち

担任は1年の時は男性の美術の先生、2,3年の時は女性の物理の先生でした。美術のU先生は当時の私からするとおじいさんのように見えましたが、授業になると俄然若返って別人のようになります。作品も奇抜でした。物理のN先生は奈良女子大学の出身でお母さんのような先生でした。生徒からも慕われ、数年前に亡くなるまで同窓会に毎回参加され、いくつになっても「お母さん」でした。

先生方はみんな個性豊かで魅力的でした。カリキュラムに縛られずそれぞれが自由に授業を行い、同じ教科でも先生によって進め方が全然違いました。学究肌の先生が多く、博識で授業はとても面白かったです。国語のT先生(女性)はいつも和服姿でした。京都らしいなと思っていましたが、雨の日は休むことが多かったです。生徒たちは着物を濡らしたくないからだと言っていました。だからと言って非難するわけではありません。休講になれば生徒は嬉しいですからお互いに「ウィンウイン」の関係だったのでしょう。ダークスーツをピシッと着こなす数学のN先生(男性)はいかにも頭の切れそうなジェントルマンでした。ただ雨の日は長靴で出勤し授業中も長靴をはいたままでした。先生の黒い大きな長靴が教室で異様に目立っていたのを覚えています。英語のT先生(男性)は生徒に大人気の先生でした。私はReadingの授業を受けていましたが、先生は教科書の読解をしながら内容に関わる様々なお話をしてくださいました。小説、映画、演劇がお好きで興味深い話が次々に飛び出しました。話が上手なうえ、話し出したら止まりません。たった一つの単語から様々な話題に広がっていきます。だから授業はほとんど進まず、2時間の授業で教科書の2,3行しか進まないなんていうこともよくありました。それでも生徒たちは満足していました。必要な勉強は自分でやればよいとみんな思っていたようです。先生の授業で私は英文学を専攻することを決めたぐらいです。

世界史のM先生(男性)の授業も変わっていました。山川出版社の教科書を使っていましたが、それ1冊で学習を完結させます。受験対策もそれだけですが、「受験に強い」と生徒には大人気でした。授業が始まると先生は教科書の解説をしながらひたすら板書します。そしてそれを教科書の指定された場所に書き写すよう指示します。生徒は言われたとおり教科書に書き込みます。書く内容も書く場所も書き方もすべて指定されます。だからどの生徒の教科書も同じ状態です。でも教科書各ページの空きスペースは広くはありません。だから書き込みがなされたページは端から端まで文字でぎっしり埋まっています。生徒はそれを繰り返し読みます。丸暗記ではなく読み込みながら歴史をひとつの流れとして頭に叩き込むのです。効果的だと言う生徒はたくさんいました。それゆえ世界史を選択する生徒は多く、先生のクラスはいつもいっぱいでした。履修枠から漏れた生徒は夏休みに先生の補習クラスを受けていましたが、それも満員盛況で教室は生徒でぎっしりでした。もちろんあまりにも独特のやり方なので受け入れられない生徒もいました。私もその一人です。だから私は受験科目は日本史を選択しました。

国語のS先生(女性)は有名な戦国武将の末裔です。ある時、先生は他の先生と琵琶湖北部の賤ケ岳に出かける計画をたてました。休日に小型バスをチャーターして出かけるそうで、その際に生徒たちにも声をかけ「いっしょに行きたい人はだれでも参加していいわよ」と言ってくれました。賤ケ岳は柴田勝家と羽柴秀吉が決戦をした場所として有名なところです。先生たちは研修として計画したようです。私は興味があったので友人と2人で参加しました。参加した生徒は5人ほどでしたが私にはとても有意義な体験でした。「賤ケ岳の戦い」について現地で詳しく学び、途中で立ち寄った「木の本地蔵」にも魅せられました。先生達とは家族でお出かけしているような気分ですごく楽しかったです。

参加費は500円くらいです。バス代にも満たない額です。現地でもいろいろと解説をしてくださり、私たちにはすごくいい勉強になりました。教室では得られない知識もたくさん得ました。先生が休日に行う自分たちの研修に生徒を自由に参加させてくださるなど、今ではちょっと考えられないのではないでしょうか。自由が大事にされていたのだなと思います。

高校ではどの先生も生徒一人一人を大人として扱ってくれていたように思います。そして生徒も先生の個性を尊重し、人生の先輩として尊敬していました。多様性の尊重がそこにはあったように感じます。自由な校風は学校という枠に捉われない教育の中から生まれるように思います。

忘れられない授業をひとつ紹介します。1年生のときに履修した地学の授業です。地学のY先生はこれまた熱心な方で、毎年履修者全員をフィールド調査に連れて行きました。調査は春から秋にかけての日曜日に数名のグループに分けて行われ、先生は毎週のように休日返上で引率します。実習場所は大文字山などの市内の山から比良山など市外の山まで何種類か設定され、年度初めにそのうちの1つを選んで申し込みます。高校に入学したばかりの私は友人2人といっしょに遠足にでも行く気分で秋に行われる最終回の「比良山」に申し込みました。秋なら気候もいいし、楽しめると思ったからです。ところが申し込みをしてから何カ月も経っていたので当日は3人とも実習のことをすっかり忘れ、参加を逃してしまいました。最終回の実習だったのでもはや代替となる実習はありません。実習に参加していないと単位はもらえません。先生に相談したところ3学期に救済のための追加実習を実施してくれることになりました。他にも何らかの理由で参加を逃してしまった生徒が複数いたからです。

追加実習は1月15日(当時は成人の日で休日でした)に行われることになりました。ところが当日はなんと大雪になってしまいました。京都市内では雪がほとんど降らず、降ってもすぐに溶けてしまいます。ところがそのときは何年ぶりかの大雪となり、大文字山も雪で真っ白になりました。でも実習は決行され、私たちは冷たい雪の中を凍えながら歩きました。まるで雪中行軍のようでした。秋の比良山で紅葉を眺めながらのんびり遠足をするつもりでいた私たちにとって冬の雪中行軍は大きな誤算でした。

最後に行事にまつわる記憶です。体育祭や文化祭などの行事もさかんでした。特に文化祭ではクラスごとに仮装して学区を練り歩きます。すごく楽しかったです。前夜祭にはキャンプファイヤーが行われフォークダンスが行われました。フォークダンスにはカップル用と一般用の2種類があり、彼氏や彼女のいる生徒はカップル用に参加しずっと同じ相手と踊ります。一般用は通常の形式で相手がどんどん変わります。みんなやはりカップル用に参加したいので相手のいない生徒は直前に相手を見つけて「にわかカップル」として参加したり、最初から参加しなかったりでした。私は相手のいない者同士の「にわかカップル」として「正規カップル」を羨ましく思いながら参加しました。でも結局面白くないので途中でやめて「にわかカップル」数名でおでん屋に行き、そこで盛り上がりました。なんだか中年サラリーマンのようですが、フォークダンスよりおでん屋の方が楽しかったです。





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