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廊下の隅の破れ傘

傘が活躍する季節です。この季節になると思い出すことがあります。(以前の記事をリライトしたものです)

梅雨のある日、校長から注意を受けました。教室前の廊下に壊れたビニール傘が転がっていたからです。骨は折れており、ビニールは破れています。私が見た限り処分しても惜しくないような傘です。

校長はすぐに傘を片付けるよう私に言いました。そして「傘に気がつかなかったのですか」と咎める口調で言いました。環境にもっと気を配りなさいということでしょう。

傘は朝から廊下に転がっており、私はそれを知っていました。でもあえてそのままにしておきました。片付けることはできましたし、生徒に聞いて持ち主を探すこともできます。持ち主が出てこなければ処分してもよいかもしれません。でもそうしなかったのには理由があります。生徒に気づいてほしかったのです。誰かが傘に気づいて何かすることを私は期待していました。廊下に落ちている傘は誰の目にも触れます。本人が気がつかなくても、他の生徒が気づいて持ち主を探したり、教師に届けたりすることもできます。そうした気遣いを生徒に期待したのです。廊下に放置された壊れた傘は格好の指導材料になると思いました。

でも、傘はすっとその場に置かれていました。誰も気がつかなかったのか、気がついても何もしなかったのかわかりません。傘はずっと廊下に転がったままでした。残念ですがこれも現実です。

そして昼休みに校舎を巡回する校長の目に留まったのです。「破れた傘が放ってある。担任は何をしている!」と校長は思ったのでしょう。校長の気持ちは理解できます。壊れた傘が廊下に転がっている状態は決して好ましくありません。「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓も全て壊される」といういわゆる「割れ窓理論」を持ち出すまでもなく、校内に破損された備品やゴミが何日も放っておかれるのはよくありません。荒れた学校に多く見られる風景です。小さな見逃しが生徒に悪影響を及ぼすこともあり、校長の立場だったら私も担任に注意したかもしれません。

ただ、私はいつまでも傘をそのままにしておくつもりはありませんでした。昼休みには片付けて、帰りの学活で生徒に話をしようと思っていました。でもその前に校長がそれを目にしたのです。彼は1分でも傘が廊下に放置されていることを容認できず、「半日」なんてありえないのでしょう。だから私は「はい、すぐに片づけます」と言って、放っておいた理由は言いませんでした。言い訳に聞こえると思ったからです。

帰りの学活で私は生徒に聞きました。「廊下に壊れた傘が転がっていたけどだれも気づかなかったの? 気づいたけど何もせずにそのままにしておいたの?」と。多くの生徒が後者でした。私はそのことをすごく残念に思いました。気づかないのも残念ですが、気づいて何もしないのはもっと残念です。私はそのことを生徒に伝え、身の回りにもっと目を向けて行動してほしいと言いました。壊れた傘だって貴重な学習材料になると思ったのですが、私の気持ちがどれだけ伝わったかわかりません。

ちなみにその傘は別のクラスの生徒のものだったことがその後わかりました。




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