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掌小説【 傘がない 】

蒸暑い夜だった

突然のゲリラ豪雨に遭遇したわたしは
傘がなく
商店街の一角で足止めを食らう

その隣りで 似たように
傘を持たず 雨宿りする子どもを見かけた

母親らしい人影もなく
ひとりで ずぶ濡れのからだを震わせている

印象的だったのは
その強い眼差し

思わず足をとめて
声をかけようと思ったが
それを眼差しが拒んでいた

数十分ほど経っても
雨足は弱まるどころか
ますます強まっていく

意を決し
わたしはその子に声をかけようと
距離を縮めた すると

強い眼差しがわたしを睨みつけ それ以上先に進めなくなくなりフリーズした

そのとき気づいたことだが
子どもはボーイッシュな女の子であり
また頬には絆創膏が一枚貼られていた

〜ちゃん お待たせ

振り返ると声の主は
茶髪の派手な様相の若い女性であった

女の子は先ほどまでの強面とは打って変わって 満面の笑みである

母親?

のように見えたが、それにしては扱いがぞんざいのようにも感じた

なにか後ろめたいことでもあるのだろうか

威嚇するように わたしを一瞥すると
ボロボロのビニール傘に子どもを迎え入れ、そそくさとザーザー降りの夜の街なかへ消えていった



 あのときたしかに違和感を感じながらも何も出来ずにいたじぶんを思い出すたび 複雑な気持ちになる

 あの子は 今ごろどうしているのだろう

 幸せに 暮らしているのだろうか


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