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ブスの神様 5

梨沙の事は友達とは思っていない。
だから夏美に友達はいない。
だから誰にも相談できない。
相談する事は幼少時から苦手だった。
何か報告する事も
苦手な夏美だった。
自分を表現する事ができなかった。

密かに描いていた将来の夢…
絵本を描く人になりたいって言えなかったし
歯科検診で歯科矯正をお勧めします?みたいな
用紙も親に見せる事ができなかった。
もっとピアノやりたいから
ピアノ教室変えたいとも言えなかった。

特に親の影響はないはず。
運動会で頑張ったら褒めてくれるし
成績表を見れば褒めてくれるし。
ただ、自分から頑張ったって言えない。
もっとこうしたいとかが言えない。
今もそうだった。

面白味のない人間

ごく一般的な経験はさせてくれた家庭だったはずなのに。
なんで友達いないんだろ。

ずっと本を読んでいたからかな。
本の中の世界にいると
幸せで興奮して何か満たされた気持ちだった。
クラスメイトが「遊ぼ」って
家に電話をかけてくれた事もあったけど
断ってた。

全て自分の責任

そりゃ友達いないか。
本が友達って真面目に思っていたけど
本の中の素敵な言葉達には夏美を救えない。

「本が友達って言える人すごいよ」
そう言ってくれる人がいたな。

夏美はもがいて足掻いて
数少ない携帯電話のアドレス帳の中を
必死に必死に探し続けた。
本当に数が少ないから何往復もして
救いを求めた。

ふと1人の人物の所で手を止めた。

「あ
 同じ高校の人か」

夏美は地元から少し離れた工業高校へ
通っていた。
中学の同級生がいない所へ行きたかったから
夏美の中学で誰も受験しないような
離れた田舎の少々治安が悪そうな工業高校にした。
自宅から自転車で駅まで行きそこから30分電車に揺られる。そこからまた自転車で45分程かけて学校へ到着。
入学当初こそ、この通学スタイルに意気揚々としていたが
女子高生デビューの夢も虚しく
遠くて面倒くさいし、そもそも女子が少な過ぎて
女子高生やっている感じがしない。
田舎だから遊ぶ所もない。
夏美は入学してすぐに地元でアルバイトをはじめた。

そんな学校の1つ上の先輩が
ある日、声をかけてきた。

「メアド交換しよ」

誰?
赤いネクタイだから1つ上の学年という事はわかった。

夏美が体育の時間にボーっと昇降口に座っていた時だった。
授業中、生徒が校内をウロウロ歩いているのが不思議ではない学校だったから
特に驚きもせず少しだけ目を合わせた。

「あ
 はい。」

低い声で夏美は返事をして携帯電話をポケットから取り出した。
赤外線だったか?
本当にボーっとしていたから
何も考えずメアドを交換したあっという間の出来事だった。

「夏美ちゃんだよね!」

「あ
 はい。」

これまた特殊で
工業高校のように極端に女子生徒が少ない学校は
何故か知らない人が自分の名前を知っていたりする。
この学校に入ってから
度々知らない人に名前を呼ばれた事があるから
この人もかーくらいにしか思わなかった。

何目的で夏美のアドレスを訊いてきたのかは知らないが卒業するまでに1回向こうからメールがきたと思う。
「今、何してるの〜?」みたいな。
記憶の片隅の破片くらい何もなかった。

まぁ、だからメールしようと思ったのかな。
何も夏美の事を知らないこの人
夏美もあなたの事を何も知らない。

助けてくれないかな…。

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