梨沙の事は友達とは思っていない。 だから夏美に友達はいない。 だから誰にも相談できない。 相談する事は幼少時から苦手だった。 何か報告する事も 苦手な夏美だった。 自分を表現する事ができなかった。 密かに描いていた将来の夢… 絵本を描く人になりたいって言えなかったし 歯科検診で歯科矯正をお勧めします?みたいな 用紙も親に見せる事ができなかった。 もっとピアノやりたいから ピアノ教室変えたいとも言えなかった。 特に親の影響はないはず。 運動会で頑張ったら褒めてくれるし 成績
成熟した大人の失恋とは 出口がわからない迷路にポンと置いていかれたような。 今日だけは枕を濡らさせてもらいます。 明日から出口を探します。
笑ってる…。 妊娠して赤ちゃんを堕ろすって… 大変なんだ… ってそんな状況なのに笑ってる。 私達、18歳だよ… 夏美は悲しくなった… 夏美は切なくなった… 夏美は辛かった… 夏美は梨沙との電話を切り 母親の部屋へと向かった。 夏美は本当に今、お金を持っていなかったから。 いや、持ってはいたけど1万円はなかった。 今泣き出したい 今叫び散らかしたい 母親の部屋の扉をノックしそっと開けた。 深夜1:00を過ぎているこの時間 もちろん母親は眠りについている。 ごめんね、お
メールを送った人は 高校生の時の1つ上の先輩。 メールをしたのは初めて。 昨夜も夏美は呼び出しを受けていた。 梨沙。 一生、この名前に怯えながら生きくんだという 恐怖。 夜の着信は震える… 今日は連絡きませんようにと願い眠りに着く日々だった。 「友達が妊娠してさ、堕ろすお金足りないから 1万円貸してくれない」 梨沙からの着信で目を覚まし 電話に出ると一言目が信じられない内容だった。 深夜1:00 出たくなかった。 でも、気づいてしまったし出なかったら 明日どうなるか知
駅に着いた夏美は 生まれ育ったこの街を捨てる。 自分自身で決めた。 川越か… いくら必要? 切符を買うために料金を確認する。 もう後戻りはできないから、この時の夏美は 前を向いていた。後ろは決して振り向かない。 なんとかお財布の中に入っていたお金で足りたので一安心した。 まぁ、わかってはいた事だけど片道分しかない。 やっぱり帰るなんて弱音は吐けない状態だった。 電車に乗るのは久しぶりだな。 今まで遠出もした事ないし、友達と遊びに行く事もなかった。 家族旅行はいつも車だったし
「絶対に見捨てない」 彼はどんな気持ちで「絶対」という言葉を選んだのだろうか。 心の底から出てきたのか 酔っ払ったノリで出てきたのか。 夏美は、ビロビロに伸びた母親の下着を干しながら ボーっと考えていた。 夏美は洗濯物を干し終えると自分の部屋に引き篭もりベッドへ寝転んだ。 彼のその一言で救われた。 今年も桜を見る事が出来たのは 彼が言ったその一言があったから。 もう桜を見る事は出来ないと思ったのに…。 大人になった今なら いくらでも言えるのに いくらでも選択肢がある事
ずっとずっと言ってくれていたんです。 「君の文章は繊細で人を惹きつけるよ」って。 私は嬉しくて 心が舞い上がりました。 不器用だから、この嬉しさが伝わっていたのかは わかりません。 本当に私は不器用なのです。 可愛くない顔を見られる事が不安で 笑顔が下手です。 酔っ払った彼のひとつひとつの言葉が面白くて笑っていると 「幸せそうに笑うね」と言ってくれました。 可愛くなくても幸せを感じていようと思えた。 でも、やっぱり 「君は可愛くない。ブスはブス」 彼の言葉は いつも事