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和製ホラーの好きな演出

 いきなりだが、和製ホラーの素晴らしさって何だろう?と考えたことがある。それを語る上では、そもそも和製ホラーってなんやねん?という疑問を自分の中でクリアにする必要がある。ここでは日本で作られたホラー作品という広義の意味ではなく、ある種の日本人独自の精神性を色濃く反映した狭義の意味でのホラー作品にスコープを絞りたい。

 一言で言語化するのは難しいが、個人的には恐怖という根源的な感情を日本人独自の感性というフィルターを通してローカライズし、描写し、演出などの付加価値を加え作品として昇華させた物だと思う。つまり我々日本人独自の感性が色濃く反映されているものと、ここでは定義したい。では、それを踏まえて海外ホラーと比較した時、和製ホラーのアドバンテージって何だろうか?

 (表題にもある通り、自分は和製が一番好きなので海外の作品はあまり詳しく無いので、あくまで一個人の感想と割り切って読んでほしい。)海外のホラー作品に目をやれば、最近でこそ(昔から有ったかもしれないが)it followsのように、あえて正体を詳細には明らかにせず見るものに考察の余地を残す作品も多いが、総じてパニックホラー的な、いきなり驚かす系の作品がやはり多い印象がある(ミストなどの例外もあるよ)。 

 パニックホラー系を否定するつもりは全く無いが、個人的に見た後に長期に渡って印象に残る作品もホラー映画の優良さを語る上で重要な指標になると考えている。鑑賞時のインパクトが抜群な心臓に悪い系の筆頭に来るQuiet PlaceやDon't Breatheよりも、リングや呪怨の方がより長く人々の話題に上がるのは想像に難くないはず(もちろん公開された時期の問題もあるけどね)。

 では、そうした和製ホラーの大きな特徴の一つとも言える「恐怖の持続性」を創出する上で必要なのは何か?自分は他ならぬ、監督の演出上の手腕だと思う。この演出が疎かだとマジで中身の無いつまらない作品になる。(この前の、ほ○怖マジでおもんなかった)ということで、ここからは180度方向を変えて自分の好きなジャパニーズホラーの演出をご紹介したい。(評論っぽいお堅い論調が続いてごめんね)

○ ジトっとした後味の悪さ(リング)

 鏡を使った秀逸なトリックをご紹介したい。このシーンを思いついた監督は控えめに言って天才だと思う。日常にあるものを使って、ここまで恐ろしさの純度を高められるのは、さすがホラー映画の監督だと思う。徐々に壊れていく人間時代の貞子の狂気性を見事に描き切った名シーンだと思う。ちなみに原作のリングでは貞子の生物学的な生物は男性で超能力者の息子(娘)であり、紆余曲折あって天然痘に感染したまま井戸に投げ込まれ、貞子の恨みと天然痘の生物としての生存本能が融合して、お馴染みの貞子さんが生まれるというSFチックな設定らしい。

○ 残酷さと美しさ(八つ墓村)

 心霊系ではないものの、ダントツで一番印象に残るのがこのシーンだと思う。三島由紀夫がかつて、日本の美的感覚にはある種の暴力性が内包される的なことを語っていたが、多分このシーンのことなんだろう。音楽といい桜といい本当に美しい。なぜこうも鬼気迫る存在が肉薄してくる迫力感と美しさの両立を我々は許してしまうのか、恐らくそれは遺伝子レベルで我々に刻み込まれた日本独自の美的感覚が潜在的にそうさせるのかもしれない。

○ 正体をあえて描かない不気味さ(女優霊)

 本物の幽霊が映ってしまったという話で有名。目ぼしい演出部分だけ切り取った短い動画が無かったので文字だけになるが、作品の中で女性が撮影現場(映画を撮っているシーンがある)の天井付近を見上げて何かに怯えるシーンがある。その際、あえて被写体を写さず女性の視線の先にある得体の知れないものを想起させるテクニックが使われている。重要な伏線になっており、ジワジワと我々を追い詰める嫌らしい趣向が凝らされている。

○ 実際に見える人の監修をもとに再現した緻密な描写(降霊)

 あまり馴染みない作品かもしれないが、この作品の特徴は実際に幽霊が見える人の監修をもとに、見える人にはどう見えているかを追求して描かれている点である。立体感が無く薄く見えたり、顔だけモザイクがかかったように見えたりと、他の作品との幽霊の描写の違いを楽しんでほしい。そう描くことで、より怖く感じるかどうかは正直、見る人によってまちまちな気はする。

○ 重畳する怪異の因果性(残穢)

 演出ではなく設定になってしまうが、一見因果性の無い様々な要素を散りばめ、一つの大きな真実へと帰結させる構図は、怪異蒐集家達をも唸らせる。これについては「怪談はいいぞ(初投稿)」で熱く語っているので、興味があれば読んでみてほしい。早い話、心霊スポットって実は遥か昔から曰く付きの土地だったりするよね、みたいなことだ。

○ 描写の多様性(仄暗い水の底から)

 予告編だけでも蛇口から髪の毛が出たり、レインコートを着た少女の足から水が溢れ出したりと、実に多様でアイデアに溢れる表現技法が駆使されており、見ていて飽きない。タレントが何か見て叫んで、お化けの顔が「はいどーん」とドアップで映し出されるような単純な構図など、どこにも無い。

 いかがであっただろうか。少しでも和製ホラーの素晴らしさが共有できれば本望である。過去の珠玉の作品を超越する作品はもう生まれてこないのだろうか。易きに流れがちな昨今のジャパニーズホラー業界から、再び後世に語り継がれるようなホラー作品が生まれることを切に願う。。。

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