三可村直希

物書きを目指しています。 好きなもの 旅と読書、食べ歩き

三可村直希

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最近の記事

拾ってくれた女

 ほたるとは新宿にある風俗店エーデルワイスで知り合った。彼女は指名ランキングで十位以内の常連で、それは彼女自身の誇りでもあった。反面、この店で働き続けること自体が恥であるとも私に語っていた。 「おにいさんはどうしてあたしを指名したの?」  事後、彼女は私の胸の上に倒れ込み、頬杖をついた。見下ろすような視線だった。室内は薄暗く、彼女の瞳はどこか幼く見える。好奇心を掻き立てられた子供の瞳のようにキラキラとしている。 「店の黒服に勧められたんだ」私は呼吸を整えながら言った。「

    • 閉じ込めれらる

       僕は幼い頃からよく閉じ込められることがあった。  それは僕が八歳の頃のことで、季節は八月だった。家族は出かけていて、僕は夏休みの宿題に取り組んでいた。アサガオの観察日記や、自由研究、両手に持ちきれないほどの問題集が山のようにあった。去年の夏休み、最後まで宿題に手をつけなかったことでかなり苦い記憶が残っており、今年はそれを回避するために真面目に、コツコツと、取り組もうと心がけていた。  たし算の筆算を解いているとき、玄関のインターホンが鳴った。戸を開けてみると、宅配業者の

      • 記念日

         朝目覚めるとまず目に入るのは白い天井だ。代わり映えもなく、明日も明後日も私はこの天井を朝一番に目に入れ、退屈な一日が始まったことを自覚する。ベッドから起き上がり、両手を組んでぐっと上に伸ばしていき、これ以上無理だと身体が悲鳴を上げるまで私は神経を解していく。そして両手を離すと、腕がだらんと落ちる。それを何度も繰り返して私はやっとベッドから出ていくことができる。  部屋のドアを開けると食卓で彼氏の夕希が食卓にうつ伏せになって寝ていた。ウィスキーグラスにはまだ琥珀色のウィスキ

        • ワンス・アポン・ア・タイム・アウトロー

           お前が聞きたかった昔話をしてやるよ。こんなに肉と魚を持ってきてくれたんだ、そのお礼だよ。  三十年近く前のことだよ。俺はまだ若くて、活力が溢れてた。仕事はなんでもやった。工事現場の作業員から工場での組み立て工に、警備員とか。まあ、今思い返すとどれも頭を使わない肉体労働ばかりで、今の農作業とたいして変わらねえな。  え? そのときは吸ってたかって。そりゃあ吸ってたよ。煙草みたいにマリファナを吸いまくってリラックスして、しっかりするためにアンフェタミンをキメて仕事に出かけた

        拾ってくれた女

          小林さん

           工場で一緒に働く小林さんはいつも金がないと嘆いている。どうしてそんなに金がないんだと尋ねてみても彼自身分からないと答えるしかない。 「給料が振り込まれたらすぐに貯蓄用の口座に振り込んでいるのに、月末になると不思議とそっちの口座に手を付けないと生活ができないんです」 「不思議だね」 「本当に不思議なんです」と小林さんは言った。そしてフィリップモリスの安くてまずい煙草をふかし、ボスの缶コーヒーを一口飲んだ。 「最近よく考えるんです。犯罪組織が自分の口座から金を吸い取って

          かけ声

           荷役役場での仕事はきつい。仕事は朝早くから始まり、トラックの荷台から荷物を受け取ると、「よっこいしょ」「どっこいしょ」とかけ声をかけて運んでいく。端から見れば威勢のいいかけ声をあげる祭りみたいに楽しそうに思えるかもしれない。しかし実際にやってみるとこの仕事は本当にきつい。重たい荷物を運び続けていると、かけ声は「くそったれ!」とかわり、荷物を床に投げ捨て、置き場まで汚れた安全靴で床を滑らせていく。夕方になると「このダボが!」と作業場にわめき声が響き渡る。仕事が終わるころには身

          博打の子

           ギャンブルを初めて経験したのは十歳の頃だ。当時、お盆や正月になると近所に住む親戚達が家にやってきては昼から飲み始めて騒ぎだし、夜になると反対に静まった。そして彼らは離れの一室に集まり、卓を囲んだ。互いに険しい顔を向けあい、昼間のどんちゃん騒ぎなどなかったかのように場の空気が張り詰めていた。普段は温和な父が真剣な表情を浮かべて牌を握り、母はいつもよりも気性を荒くして点棒を卓の中央に放り投げ、リーチやカンなど聞き慣れない言葉を口にしていた。  私は母に何をしているのかと尋ねて

          クラス会

           塗装部門で設備トラブルが発生した。急遽ラインが止まり、生産をストップすることになった。班長がライン上にいた工員たちを呼びあつめ、口頭で指示を出した。自工程の清掃及び、整理整頓。要は3Sを徹底しろということだ。しかし、ぼくを始めとした工員たちが素直に従うことはなかった。箒とちりとりを手にその振りをしているだけで、近くの工員とおしゃべりを始めた。監督するべき立場の班長も休憩所に腰を下ろして、スマホをいじっていた。  稼働再開がいつになるのかも分からず、ただ無為に時間が過ぎてい

          日常

           また一日が始まった。ぼくは夜明け前に目を覚まし、横になったままスマホに手を伸ばす。アラームを切り、もう少しだけ眠ろうと目を閉じるが、頭の中に「遅刻」の二文字が浮かび上がってきた。体を起こし、煙草に火をつける。うっすらとした暗闇の中、煙草の煙が揺らぐ。部屋の照明をつけ、壁にかけてある鏡を覗き込む。どんよりとした自分の表情を目にすると、ため息が出てくる。今日も昨日からの続きで、何一つとして変わらない生活が続くと思うと、なんのために生きているのかと悩んでしまう。考えても答えは出ず

          嫉妬について

          僕は嫉妬深い。自己嫌悪の荒波に自ら突っ込んでいく無謀なサーファーのように突き進んでいく。 貴方は誰に対して嫉妬しますか? 友人? 昔の恋人の成功? SNSで観る陽気な人たちの一場面? それとも街ですれ違うカップルたちですか? 僕が嫉妬しているのは昔の彼女の成功だ。詳しくは書かないけど、彼女はラジオのDJをし、ポッドキャストで番組を持っている。 嫉妬するぐらいなら、そんなものを観なければいいし、聴かなくてもいい。というか離れること、スマホのSIMカードを取り出してライターで焼

          嫉妬について

          障害ではない、これは特性です。

          自分がADHDとおまけの自閉症を併せ持っていることを考えて、今後どうするべきかと書くと、タイトルにあるようにこれは自分の特性として受け入れるつもりだ。「障害」と書くとネガティブなイメージを持ってしまうけど、前向きに考えるとADHDにもいい面がある。 その一つに過集中が挙げられる。自分の好きなことに関して時間も忘れ、体力の消費も省みず、没入することができる。事実、noteに連続して投稿していることが証拠だと思う(記事の内容も出来も全然ダメだけど…)。 衝動性もいい面がある。

          障害ではない、これは特性です。

          本当に僕はADHDなのか?

          遺伝子検査の結果に驚きつつも、障害について学ぶことができた。前向きに考えると自分を知ることができたと言える。でも、本当にこの検査は正しいのかと疑いたくなるのも事実だ。検査結果を知った翌日から日中考えることは本当にADHDなのか、その一点だけだった。   僕の仕事は工場でのライン作業で、コンベアに乗って流れてくる車のボディに細かな部品を取り付けたり、ボルトを締めることを延々と朝から夕方まで、または夕方から日付を超えて深夜まで続ける。 誰にでも分かるようにこの仕事は単純作業の

          本当に僕はADHDなのか?

          ADHDと分かった経緯について

          ADHDの特徴として衝動性がある。一本目の記事をなんとか書き上げたので、勢いに載ってもう一本書いてみる。 題名にあるように僕がADHDと分かった経緯について記す。 僕はアメリカの作家アイン・ランドが好きで、それを通じていろんな人たちと知り合いになることができた。そこで知り合った人のうちの一人が、以前遺伝子検査を受けたことを教えてくれた。検査の金額は三万円と決して安くないが、それを受けることで、自分の健康や得意とするスポーツ、それから祖先のルーツなどを知ることができる。

          ADHDと分かった経緯について

          僕は変わり者だった。

          つい最近のことだが、僕はADHD(注意多動性・欠陥障害)だと診断された。正確に書くと、ADHDでもグレーゾーンであり、自閉症を併せ持っている。 医者にADHDだ、と言われてもあまり驚かなかった。 昔から僕は衝動的に行動を起こしては家族に迷惑をかけていた。例えば、小学校低学年のとき通っていた公文からふと姿を消して、母親や教師を困らせた。 見つかったのは家に帰る途中にあるサイクリングショップだった。どうしてそこへ僕が向かったのかは自分でもよく分かっていない。母親が迎えに来る

          僕は変わり者だった。