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中編

25
1話完結ものです
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ある夏休み。

ある夏休み。

「暑っ。」

猛暑日の続く8月中旬。カーテンの外。
日差しはベランダだけに飽き足らず、
窓際のソファーまで届いている。

「窓閉めてや、クーラーの風が逃げるやん。」

朝のニュースが終わって、
甲子園中継の始まったテレビを見ながら彼は答えた。

「テレビの子らだって暑いで。」

「この子らはええねん。青春やから。」

「ふーん。」

私は朝のテンション激低の彼に近づいて、引っ張った。

「何、今え

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最新のセーブデータから始めます。

最新のセーブデータから始めます。

えんじ色の電車を降りて、
左ポケットから定期を出した。

少し、喉が渇いている。

いつか貰ったこのワンピース。
エスカレーターに巻き込まれぬように、
そっと裾を上げた。

左腕のブレスレットは、赤と青のツートーン。
好きな色の組み合わせ。

あれ、右手じゃなかったっけ。

ふとやる気が失せるような音と共に音楽が止まる。
あぁ。充電してくればよかったな。

ガヤガヤ雑音が耳に戻ってきた。
私は思わ

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コーラフロート

コーラフロート

「、、、ここにもいないん?」

“1ーD”と書かれた夕方の無人の教室を開けて
5分前と同じ独り言を繰り返した。

もう何度目かの独り言か。
ふくらはぎにはずっと力が入っている。

攣るのもきっと時間の問題だと思う。

どの部分をとっても平均的なうちの学校のサイズが
怪物を住まわせる迷宮かの如く不気味に感じた。

そんな中ドアを開いた教室”1ーD“は、
2年前まで自分たちが使っていた場所である。

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華のOLは宝箱の中身を知らない

華のOLは宝箱の中身を知らない

指に血が伝うのがわかる。
けどそんなの見てられない。

絆創膏を探して三千里。
家中にある棚という棚をワナワナと探していく。
Amazonから来たワクワクを玄関に置いたままにして。

昨日あれほど絆創膏を置く場所を決めたのに、
その場所を覚えてない本末転倒っぷり。

ーーーガンッ

「痛ったぁい!!」

そしてぶつける右足の小指。
その衝撃で頭に落ちてきた絆創膏。

やっぱり私には運がない。

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死神彼女

死神彼女

〈例えば、明日死ぬとして。〉

ほんの少し、柔らかくなった紙に
淡い黒色でそう印刷されている。

自分で言うのは烏滸がましいけど、
そこそこ優等生だった私が唯一出さなかったプリント。

家具も本も洋服も
何もかもがダンボールに詰められた部屋でマンツーマン。

まだカーペットの跡が残る床に座る。

とりあえず、2時間考えてみた。
けどこのままじゃ、タイムリミットを過ぎるだけ。

そりゃそうだ。だって

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僕は君を知っている

僕は君を知っている

思い出せ

見かけたことはあるはずだ

気のせいだろうか

胸が締め付けられる

『やっぱり運命だったんだ。』

なぜかそう言っていた

「離して!」

思い出せ

初対面じゃないはずだ

ポスターとそっくりの人だったか、

ドラマに出ていた俳優だったか、

見間違えじゃないはずだ

「誰ですか?!」

名前も知らないあなたから目が離せない 

『誰かわかる?』

「わかんないです」

どこの誰だ

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こことあそこ

こことあそこ

外の世界は、どのようなものなのかな。

どんな空気で満ちているのかな。
どんな匂いがするんだろうかな。

日差しは暖かいのだろうか。
雨は冷たいんだろうか。

いつも見えるあの人は、どんな人なのかな。

話したこともない。
何かを挟んででしか見たことがない。

どんな雰囲気なんだろう。
どんな匂いなのだろう。

青春は、しているのかな。

青春ってなんなんだろう。
楽しいんだろうな。
眩しいんだろ

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例えるなら、薔薇のような。

例えるなら、薔薇のような。

「梅!」

「梅澤さん!」

今日もどこかで、こんな声が聞こえる。
声の主は先輩、同級生、後輩なんて関係なかった。

そんな人が、私の席の前にいる。

「おはよ!」

例えるなら、マンゴーフラペチーノのような爽やかさと

「昨日食べすぎちゃったぁ。」

キャラメルフラペチーノみたいな甘さだ。

だからこそ、私はいつだって

「それでも、梅は綺麗だよ。」

ホットスナックみたいな定型文しか返せない。

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隣の席の学級委員は律儀です

隣の席の学級委員は律儀です

「暇やぁ、、、。」

喉から搾り出すように出た現状報告。
でも、誰にも届くことなくクーラーに吸い込まれる。

なんの気なしに見るTwitterも
ただ更新の変な音を聞くだけに変わってしまって

たまぁに新しいツイートが出てきても
だいたい質問箱の自動ツイート。

もう嫌になっちゃう。

「Twitterサークルって結局なんやねん。」

もちろんそんな質問に答えてくれる人なんかいなくて
結局全部クー

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対抗リレー

対抗リレー

ーーーーーーパン!!

号砲が鳴る。
それを合図に一斉に走り出した私達。
目指すは君のもと。

思い返せば、
君との心の距離もこれぐらい遠かった気がする

期末テストも終業式も終わったのに
数学弱者だけが集められた教室。

「こんなことをするから余計やりたくなくなるんだよ。」

そんなことを言えるはずもなく、
ただ窓の外を眺めた。ただそれだけだったのに。

外で汗を流す君に恋をした。

有名な先輩

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ラブレターの差出人

ラブレターの差出人

拝啓、我が母。

美味しい秋の味覚に、
暑さで疲れた体が元気を取り戻す頃。

私は生命の危機を迎えてます。

「屋上に来てください。」

こんな文面が送られてたからです。smsで。
もう一度言います。smsです。snsではありません。
ショートメッセージサービスです。
電話番号しか記載されてません。

我が母よ、あなたは言ってましたね。 

「個人情報は大切にしなさい。」

齢18、それを痛感して

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イヤホンとコンポ

イヤホンとコンポ

Ooga-Chaka Ooga-Ooga
Ooga-Chaka Ooga-Ooga

玄関を開けて一呼吸太陽は
夏よりも優しい顔をしてる。

そしてイヤホンから流れる謎の掛け声。
でも、いつも少しだけ歩くのが楽しくなる。

大したことない道だけど、気分は宇宙旅行。
石ころ蹴飛ばし向かう先はインフィニティストーン
でもなんでもないちょっと気になる先輩だけど。

「遅いんだけど。」

「へ?」

「お

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頭の中の世界

頭の中の世界

お昼時、満腹感でいっぱいの私は本を開いた。

「ふーむ。、、、さっぱりわからん。」

私の部屋にある本は難しい。
一冊とて、読み切れたことはない。

幼い頃から漫画しか読んでこなかった私にとって
私の部屋にある本はまるで魔導書である。

すべて催眠魔法ではあるが。

なぜこんな状態になったのか。
理由は簡単である。
母のせいだ。

あまりにも漫画しか読まない私を危惧して
姉の読まなくなった本を私の

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