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【ネタバレあり】『夜明けのすべて』 読書感想文

映画公開してるみたいだけど、読書の感想。
『そしてバトンは渡された』が淡々とした面白さがあったので、他の作品も読みたいと思い読んでみた。
一気には読めない(続きが気にならない)が、コツコツ読んで考えさせられる感じで『そしてバトンは渡された』と同じだった印象。
他に、印象に残ったシーンとその感想をまとめてみる。
以下、ネタバレあるので、注意。

1.山添君の可能形の好き

1-1.空間の心地よさ

山添君の話していた好きでもなくて嫌いでもなくて、好きになれるみたいな感情。
山添君が藤沢さんといる空間だと落ち着けて好き、みたいなニュアンスだと自分は捉えていて、それは藤沢さん単体に向けた好意ではないもの。

パニック障害については単語レベルでしか知らないが、身を置いている空間に発症が左右されるように描かれていると自分は読み取った。
そして、山添君にとってのパニック障害を意識しない空間を作り出している人が藤沢さんだったということだろうか。

1-2.既存の空間

山添君はパニック障害になる前の人間関係では既に空間が出来上がっていたと予想する。
具体的には、家族の中での良い子供という役割のある空間、明るい友達という役割のある空間、恋人としてふさわしい行動を取る必要がある空間。

自分の振る舞っていた行動(期待されていると自分が勝手に思っている行動)に合わせなければいけないという緊張感がパニック障害になった山添君には辛い。

1-3.新規の空間

一方で、藤沢さんといる空間では、期待される行動などない。
パニック障害を発症した場面も見られており、パニック障害を患った後のありのままの自分を見られているからだ。
猫を被ったりカッコをつけたり必要がないということで、緊張感が生じない関係と理解している。

また、藤沢さんが山添君の感情スイッチを無自覚にポチポチ押しまくっている気もする…笑
笑いの感情(散髪)、興奮の感情(音楽)、心配の感情(駅までの見送り)、仕事を楽しむ感情(倉庫)などなど。
他者と関わる中で生まれる感情があり、それが行動につながり、行動の結果で経験が溜まり、世界への見方が変わるみたいな形なのかな…

1-4.藤沢さんの空間を変える能力

藤沢さんのほぼ関わりのない人への爆発的な行動力がネガティブにはPHSによる怒りとして表現され、ポジティブには山添君の行動を変えるきっかけとして表現されているように感じる。

1-5.焼きそば屋の空間

あと、空間と考えていて思い浮かぶのは、山添君が焼きそばを買っている場面。
焼きそば屋のおじさんからも期待される姿などないのでは?と思ったが、まず、パニック障害になったところを見られたことがない。
さらに、店主と客という関係の中で、焼きそばが完成するのを待つという緊張が強いられる。
関係が生まれると、何らかの緊張が何かしら生まれてしまう、っていうのが、日常では忘れがちなのかもしれないと感じた。
(ある種の期待された振る舞いをしている要素をパニック障害の症状をとおしてあぶりだしているようにも思えた)

2.藤沢さんのPHSの症状

藤沢さんのイライラの症状は一定の周期で、やってくることがわかっているので、時間に左右されるものと理解。(山添君の空間との対比で考えてみた)

具体的なイライラ症状の例として、山添君、新卒時代の上司、ジム友達にそれぞれイライラをぶつけてしまう。
最後は盲腸とPHSのタイミングが重なり、イライラの症状は現れず。
個人的には、最後の症状が現れなかった部分が気になったので、考えたい。

2-1.変化のきっかけを作る怒り爆発

藤沢さんの行動や生活を変えるきっかけになったPHSの症状が、小説の中では描かれている。
具体的には
①山添君と一緒にいることが多くなった炭酸飲料へのイライラ
②仕事を辞めるきっかけになった新卒時代のイライラ
③山添君にPHS発症のきっかけを発見されたイライラ
④ヨガによってPHSが改善されていないように見えるジムでのイライラ
の4つ。

④に関しては、長年続けてきたPHS改善の方法とは別の方法に変化することを示唆したいのかな?と捉えた。

2-2.盲腸が変化させたもの

PHSが藤沢さんの行動や生活を変化させてきたのに対し、盲腸は山添君の行動を変えたように見受けられる。
具体的には、病院のお見舞いに行くための自転車購入から顔色が少し良くなり、最後には企画書の提案につながる部分。

結果として、PHSが発症しやすい日程に休みを取れるような会社へ変化していく流れ。
ヨガや薬などで抑えようとしたPHSに関して、無理に抑えようとするのではなく、抑えるのを諦めて休みをとるという方向に動いている。

3.お守りについて

作品の途中でお守りが山添君のポストに投函されている部分がある。
藤沢さん、社長、山添君の元上司の3人からと順番に判明していく。

誰かからもらうお守りはポジティブな見守りを象徴しているように感じた。
パノプティコンの「まなざしの内在化」がネガティブなイメージで捉えられるのとは逆のイメージ。
誰かに見守られながら安心して行動できるというポジティブなまなざしを内在化しているように感じられた。

最後に

それぞれの症状が、
山添君は空間に左右され、藤沢さんは時に左右されていると思ったときに、
ポケモンのディアルガとパルキアみたいだなあ…笑
と思いながら、感想書いてた。


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