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「惑う星」リチャート・パワーズ【読書感想文】※ネタバレあり

シングルファーザーと息子を描いたSF。変わった子供のロビンは、母の事故死以降さらに不安定に。でも向精神薬を飲ませるのは嫌な父は、彼をキャンプに連れ出す。家では、地球ではない星で、地球とは違う形態で生きる生命の話をしてくれる。父があらゆる方法で息子を育てようとする姿勢が本当に素敵だ。

亡くなった母は絶滅危惧種の保護などを求める環境活動家で、この人の考え方も素晴らしい。
「完璧な人などいない、と彼女はいつも言っていた。でもね、私たちはみんな、完璧からの外れ方がすばらしいの」

希少種の絶滅、投票より「いいね!」で決まる民意、外国人差別、炎上、経済的に即効性のあるものにのみ投資をすること、この世界観、現在だよねと思う。
他の惑星の多様な生のあり方、絶滅危惧種の生態がロマンチックに挿入されるたび、いろんな方法があるんじゃないかって気がしてくる。
まだ発見されていないけど、パターン化されていないから誰も指し示せないけど、理不尽な世界に柔軟に対応する方法が。


=ここからネタバレ=


この小説のSF要素は、セラピー装置。脳の電気信号を解析し、それを落ち着いた状態に保つ訓練をするのに用いる装置で、これを用いてトレーニングすることでロビンは仙人のような柔和で、活発な人間になる。
内容的には今の認知行動療法と同じなんだけど、効果がすぐに出る。しかも作業内容がゲームっぽいので、ゲーム好きなロビンはすぐに変化する。
絵に描いたような明るく活発な彼は、なんか怖い。性格が変わって何もかもいい方向に向かうんだけど、恐ろしい感じがする。
装置っていうのがコンピュータの干渉だから恐ろしいのか、完璧でうまくいくこと自体が人間らしくない、そのことが気になるのかはちょっと分からないけど。

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