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コンプレックス 19

■コンプレックス 19

この時代、結婚したばかりでもあったが二人でフルに働いていたので今までの人生の中で一番お金があったような気がする。
その日は、新宿歌舞伎町で呑んでいた。
メンバーは、ボクの先輩と後輩、ウチの奥さんのお店のスタッフの女性、そして我々夫婦の合計5名だったと思う。
妙な取り合わせだが、特に何か意味があったということでは無く、偶然派生した行きがかり的な展開だったと思う。
そうとしか思えない取り合わせである。

歌舞伎町のそのお店は、先輩の行きつけのお店だった。
こうやって書くと、きっとこじんまりしたスナックみたいなお店で、カラオケがあって、いつも同じ客しか来ないようなお店だろ!フン!!って思う方がいると思うが、これが全然違うのである。高級クラブのような大きなボックス席が、沢山並んだ大きなお店で、実際結構高い店だったんだと思う。
先輩と一緒でなければ、先ず我々が近寄るタイプの店で無いことは間違い無かった。

一度だけ、そのお店でエドモントの宴会サービスの忘年会をやったことがあった。それはもう、凄い忘年会であった。
宴会サービスで20数名、宴会予約で15~16名、宴会セールス10数名、これだけで50名弱いるのに、更にそこにテナントで入っている「美容室」(これが凄くて、そしてコワイ!)、「写真室」「衣装室」「ビデオ屋」、更に司会やら音楽事務所やら配膳会やらの会社の社長だとか、担当者だとか、ウジャウジャ来るので、もう誰が誰で、何が何で、え~い!面倒くせぇ~い!
という状況なのだ!100名くらい軽く集まるのだ!!

余談だが、この時代関連業者に囲まれて仕事をしていたので、
盆暮れには付け届けが山のように届き、塩鮭やら、ビール券やら、洋酒やら、処理に困った(うそ、うそ、喜んでいただいていた)。
ボクごときでこんな状態だったので、宴会支配人のところなどは、きっと凄い松坂肉やら、フグやら、吟醸酒やら、お仕立券付きのスーツやら、もうありとあらゆるものが届いていたんだろうと思う。うん、マチガイナイ!!

『クワンプワァ~イ!!!』と始まったと同時に佳境になり、
あとはエスカレートする一方であった。

A氏は、いつものようにお店の丸いスツールを拝借して『スツールダンス』を始めた。
指笛を吹いて盛り上げているのもいれば、美容室のバアサンを相手にチークを踊っている奴もいる(正気か?)。
本当にあの美容室のバアサンたちは、居心地良さそうに、まるで自分たちが主催したパーティーかのようにエンジョイしていた。
そして、怖いので、誰もはむかう者もいなかった。

その日はお店を貸切なので、何時まででもOKだったが、場所が新宿のど真ん中なので、途中で抜け出してワルサをするのが当然のごとく出てくるのだ。
街にある丸い大きなゴミ箱に誰か(うちわの人間)を入れて、歌舞伎町の中を転がしたり、知らない若い女性に抱きついていったり、もう、ただのバカ、いやバカ以下である。
こんな奴らと一緒に仕事をしているのかと思うと、情けなかった。

更に話はそれるが、ホテルでの話。
大晦日に仕事だった連中が当然のように早い時間から飲み出し、
もう面倒くさいからこのまま宴会場で寝ようということになったらしい。
それだけなら、話として理解出来るし、まあ大晦日だしね!ってことにもなるが、彼らは、そんなに生やさしく人種では無いのだ。
皆でグデングデンに酔っ払って、そして皆で素っ裸(勿論下も出して)になって、宴会場の床にゴロゴロ転がって寝たそうな!?

翌朝、掃除のおばちゃんが鍵を開けて明かりを点けて、
バキュームをかけようとしてビックリ!
『ギャーーーーーーー!!!!!』と、なったそうな。

彼らの凄いところは、そのおばちゃんに
「おばちゃんワリ!俺ら、酔っ払って寝たもんで・・・
それより正月から真面目に掃除なんてやめて、一緒に飲もう!」と、そそのかし、
場所を宴会事務所に移動して、また酒盛りを始めたそうな。

おばちゃんも、最初は遠慮がちだったものの、日本酒をガンガン飲むうちに本領を発揮してきて、そのうち自分から、
『一曲歌います!』とか言って、詩吟だかなんだか訳の分からないものを歌い始めて、今度はおばちゃんのストップが効かなくなってしまったそうな。

果てしなく話がそれてしまった。
要は、そんな時代の先輩と後輩と、女房のお店の子と飲んでいたわけである。

女房が連れてきた女性は、ルックスはイマイチ(失敬!)だったが、武蔵野音大卒でやたらと歌がうまく(声楽科らしい・・)、デュエットで歌うと、即興でハモッてくれるのだ。
これには、男性陣痛く感動してしまい、ノリノリになってしまったわけである。
人間、何か特技があると強い!

すっかり盛り上がって、さてそろそろと時間を見ると、終電はとっくのとうに終わっている時間であったわけである。
当時、東武東上線の鶴瀬にマンションを買ったばかりのころで、
タクシーで帰るとちと高くつく。
女房がマンションで待っているのであれば、どうやってでも帰らないと怪しまれるが、
その女房は一緒にいるわけで・・・
こりゃ、別に無理して帰る必要も無い。
近くに泊ればギリギリまで寝てられる・・・
「どっか近くのツレコミみたいなとこに泊らない?」
「いいよ!」(何かを期待したのかな!?)
タクシーに乗り、う~ん・・・近場でそういう場所って・・・
「そうだ、湯島だ!運転手さん、湯島の場末の安そうな泊れるとこ、ヨロシク!!」
運転手さんは「分かりました!」とクールに応えた。
そして、ボクのリクエストにピッタリの場所へ連れて行ってくれた。

ボクはタクシーに乗っていたときから、大きい方がしたくなり、もぞもぞしていた。
部屋についたら速攻で行こうと、心の中で決めていた。
女房にも正直にその決意を伝えたわけでは無いが、横でもぞもぞするので察していたかも知れない。

和風の部屋で、なんか妙に凝っていた。
カラクリがあるわけでは無いと思うが、とにかくなんか複雑な部屋だったのだ。
ボクは、すぐにトイレを探した。
そんなもん、初めての部屋であろうが、だいたいの察しはつくものだ。最初の勘が外れても、じゃあ、ここだな!って分かるものである。
ところが、ところがである。
あそこかな?という場所が見つからないのである。

もう切羽詰まっていたボクは、女房に
「ねえ、ねえ、ねえ、トイレ、トイレ、トイレ、どこ?どこ?どこ?」と泣きそうになりながら聞いた。

「トイレね~、あれ、無いね・・不思議だね!」
ダメだ!いつものテンネンである。

もうこうなりゃフロントへ電話だ!!
「あ、モシモシ、あのさっきチェックインしたものですが、あの、あのですね、
トイレに行きたいんですけど、必死で探しても分からないですよ!この部屋の中にトイレって、勿論ありますよね?」

フロントの彼は、私の切羽詰まった言い方と、質問の内容が可笑しかったのか、笑いをかみ殺した言い方で説明してくれた。

トイレはあった。確かにあった。言われてみれば、そうか、ここがトイレか・・・
という場所でもあったが、ああいう状況では視野が狭くなっていたんだろう・・
では、女房はどうなのか・・・そう、彼女の場合はテンネンである。
ようやくスッキリしたボクは、心置きなく爆睡した。 


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