「宇宙のみなしご」読書会アーカイブ#3
〇今月の課題本
・著 森絵都 「宇宙のみなしご」
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続・問いを投げる
ブレイクスルーの象徴人物
古川:他に全体で聞いてみたいことはありますか。
ゆか:はい。聞こうと思ってたことが、お母さんの友達、さおりさんの物語的な役割についてです。考えてたんですけど、ボビンさんが今回のテーマはブレイクスルーって言ってくださっていて、さおりさんの存在もそういう意味なのかなと。主人公の2人姉弟にとって、さおりさんのところは家庭とも学校とも違う場所でもあるし、お酒をよく飲んでるっていうのもある種、ブレイクスルーの象徴かなと思っていて、さっき一人で納得しちゃったんですけど、どうですかね。
ボビン:それもありそうですね。あとはなんか、大人の世知辛さを演出する役、これ含めてブレイクスルーなのかもしれないですけど、そういうのを演出して今いる学生の時間が尊いものだよ、みたいなことを伝える役なふうに僕は感じました。
古川:いい意味で、年食った子供って感じしますよね。子供として見られてる、子供として扱われてる。いい意味で。中学生の主人公たちと一緒の立場じゃないんだけど、同じ子供っていう役割で書かれてる感じはしますね。
ゆか:前の担任の先生のすみれちゃんとはまたちょっと違う感じですよね。
古川:海外行っちゃいましたからね、あの人。
ゆか:これもブレイクスルーっていう話を聞いて、なるほどと思って。そういう突破が大事だっていうことを伝えてくれる人ですよね、すみれちゃんは。
なす:それを思うと最初の担任の先生は、「転職」というか学校は違うって思ってやめて、多分楽しい方向に向かってますけど、さおりさんの「転職するから」は会社が潰れちゃうからの意味で。
ゆか:確かに対照的ですね。
ボビン:捨てざるを得ない変化と自分から望んだ変化みたいな。
ゆか:いやちょっと読書会、すごい面白いですね。ありがとうございます。
古川:これを毎月しますからね(笑)。なんなら作者に感想文を投げれるかもしれない。
なす:それこそあれですよ。記事にして送るときに手紙もいっしょに送ってもらえることありますから。私は送ってもらったことがあるので。
ゆか:えー、やりたいですそれ。
陽子ちゃん、言い方キツくない?
ボビン:もし森絵都先生にこの記事を送るなら、僕が今から言うことはバッサリ切ってほしいんですけど、陽子ちゃんが自殺した疑惑のあるキオスクに結構強めに詰めてたじゃないですか。正直あそこだけは、キツいなって思ったんですよね。僕が割と精神疾患を抱えてる人とコミュニケーションを取ることが多い環境で今までいたんで、自殺未遂とかっていう話も結構聞いてきたから余計反応しちゃうっていうのもあるんですけど。陽子ちゃんは「キオスクは自殺してない」っていう、間違いない確信があったっていう前提はあるとはいえ、仮にもこう自殺したかもしれない子にああいう詰め方するのは、ちょっと僕的には、そこだけはうーんってなっちゃったんですよね。
古川:全然送っていいんじゃないですか。おもしろい指摘だと思います。
ボビン:ほんとですか。関係性あってこそっていうのは間違いなくあると思いますし、陽子ちゃんはやっぱキオスクと一番話したから、ある程度分かってるから、なんでしょうけど……。ここら辺もやっぱ部外者の年齢を重ねた大人の意見なんでしょうかね。そういうところが気になっちゃったんですよね。
古川:先日の森さんの取材に同席したんですけど、森さんは相当強い人だと思いますよ。強い側にいた人です。その人が書いてる青春小説で、中学生の子が主人公なんで、他の作品でもサバサバと言わないまでも、達観した感じの強い側の主人公を書いている気はしています。だからそのキオスクを詰めるシーンが関係性的に共感できる一方で、やっぱ作者側の強さというか思想?考え方みたいなところも間違いなくにじみ出た部分ではあるんだろうなと。
ゆか:取材面白かったですよね。
なす:それで言うと、陽子が本当に自殺未遂だと思ってたらキオスク家に行ってないだろうなっていうのは聞いてて気づきましたね。自殺未遂だと思ってたら、この人との関係を続けようとたぶん思ってない気がする。 何か、その信頼感というか、もっと面白いやつだと思っているからできた行動な気がする。
ボビン:確かに。そこら辺の信頼感みたいな描写を、僕はうまくキャッチしきれなかったですね。
なす:その上で、実際にそういう状況でそうするかと言われたら、絶対しないです。そんなことはしないです。
ゆか:確かに言われてみると、自分の思い込みだけで「自殺なんかするわけない」っていうの結構思い込み激しいですね。
ボビン:もし本当にキオスクが自殺を試していたとしたら、もうちょっと気を使ってあげないと、ちょっとキオスクこれから先怖いなって思っちゃったんですよね。
ゆか:なるほど。それはやっぱりボビンさんだからこその視点ですね。
なす:そこはそれであれな気がしてて。たぶん、この人は気を使わないといけない相手とは話さないと思うんですよね。相手が分かってるから気を使われたことがショックで引っ込んだろするんだと思うので、そこの関係で気を使わないといけないというか、わざわざ会いに行って大丈夫?って声かけに行くような関係であれば、これはどっちにとってもよくないコミュニケーションなんだと思うんですね。本音で話さない間柄になっちゃう。
ボビン:キオスクが逃げたところも、ちょっと陽子ちゃん優しくなったじゃないですか。気を使われたキオスクもそこら辺が引っかかった、みたいな感じはありますもんね。
なす:私、古川さんに優しくされたらちょっとしんどいです。優しくされたらっていうか、大丈夫?できる?っていうテンションでこられたらしんどい。
古川:(笑)やっちゃうんすけどね、ちょこちょこ。
なす:もし、会に来れますかって聞かれたらいきますけど、いや来れなかったら来なくても、とか、出るのしんどかったら本当に大丈夫なんでっていうテンションを全面に押されたら、いやそんな弱くないよってなりそう。それまでの関係性を含めて。
古川:えー。がんばりまーす(笑)
この関係性がすごい!
古川:もう2,3テーマくらい、なんか話しますか。……煮物が多くなります?イラついてたら。
ゆか:面白い(笑)。ありましたね、そんな描写。
古川:これ俺全然わかんない。むしろなんか気分いいときに煮物とか鍋作る。
ボビン:僕もあんまりわかんないですね。そもそも気分悪い時は絶対料理しないので。ああでも確かに気分悪くて落ち込んでる時に、煮物ってあんまり火の管理とか気使わなくていいじゃないですか。1回中火にしたら放っておけるっていうか。火は気をつけなきゃですけど。だから落ち込んでるときに他のこと考えるのしんどいなっていう時は、ぼーっとできる煮物が増えるっていうのはあるかもしれないですね。
古川:それ面白い。作中、「調子良かったら炒め物」って言ってます。あれは火の管理結構必要ですもんね。
ゆか:私もいいですか。親との関係の理想、どういうのが理想とかこういう関係で嫌だったとかみたいなのってあったりします?
古川:ボビンさんはお姉さんがいたとか。それでもそこまで仲良くはなかったっておっしゃってましたよね。
ボビン:そうですね。どうでしょう、ぶっちゃけ子供としてはある程度の年齢、小学校4,5,6年とかになっちゃうと、親の過干渉みたいなのが嫌だっていう気持ちはあるのかなって思いますかね。かといって全く無関心になられると自分は愛されてないのかなってグレちゃうし、すごい難しいですよね。僕、山田太一さんっていう作家さんがいて、その人がつい最近亡くなられちゃったんですけど、その人が子育てについて語ってることが一番しっくりきたのが「語りすぎず子供を心配していることを伝える」というもので。それが印象的で、言葉っていうのは便利なのは間違いないですけど、そこに頼りすぎちゃうと子供はちょっとしんどいのかなって感じています。
ゆか:なるほど。その「語りすぎず子供を信頼する」を実践してますよね、この小説の両親は。
古川:ご飯食べてねーぐらいですもんね。
ボビン:姉弟仲がいいからこそできる、いいからこそ大丈夫な放置の仕方ですよね。
ゆか:しかもこの親すごいのが、戦略的に年子の弟を産んでるみたいで。私もいま子供が1歳なんですけど、これからもう1人生まれるって考えるともうとんでもないなって思っちゃうので、やっぱりすごい大変だっただろうなって。
なす:私もこの家庭環境すごいいいなと思ってて。中学生だからどこまでか分かんないですけど、彼女たちを大人として扱ってますよね。呼び方はママパパですけど、ある程度大人として扱っていて、自分たちで生きていける子たちだから学校という選択的に与えられた「仕事」というか、普通に過ごすんだったら学校行ってなさいよって。学校に行ってるという仕事をこなしてるんだったら家もご飯も提供しますよっていう感じで。もし学校という仕事をこなさないのであれば、自分で仕事見つけてきて、やって、そしたら住む権利があるよっていう、そういう雰囲気を感じます。共同生活をする上で少ないながらも何かしら陽子やリンも提示する、自分で見つけた仕事をこなして共同生活の一員としてこなしてほしいんだっていうがあると思っていて、それが何かしらができてるから共同生活を一緒にする大人の一員というか、そういうふうに扱われている感じがすごいある。
それとあとたぶん、両親の仕事の忙しさって好き勝手やってる忙しさだと思っているので、もう働かないとどうしようもない家だから働いてるんじゃないと思うんですよね。それこそ冒頭の小人さんたちの力の使い方というか、エネルギーの使い方が分かった上で、どうしようもならない衝動が仕事に向いていて、それが楽しくて楽しくてしょうがないっていう人たちだと思います。さっきの語りすぎないっていう話に近いかもしれないんですけど、自分たちがこう過ごしたら幸せになるからこれやってるんだよっていうのが、行動で分かる人たち。
親がそうあってくれるのが私はすごい好きで話もしたいんですけど、話をするよりも親自身が自分の幸せのために何をしているのかという方が大事なので、それでいい。仕事が楽しくて楽しくてしょうがなくて、子どもたちとの関係性もごめんねと言いつつ仕事をちょっと優先しちゃうけど、時々ここしかないというタイミングで帰ってくるなり、自分たちの信頼しているさおりさんを召喚するなり、そういうことをしてくるはず。きっとこの両親は長い手紙を書くタイプじゃなくて、ちょっとした小物と性格が出るメッセージカードをサクッと、センスいいやつを1枚2枚置いてってくれる感じですかね。
古川:ちゃんと遺伝してるんでしょうね。このクリエイター親にしてこの子あり、といったところでしょうか。
ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから
古川:最後に1個だけいいですか。キオスクは最後、学校に行ったと思いますか。屋根のシーンで終わるんですが、みんな宇宙のみなしごだからという話をキオスク自ら話し始めましたが、それを本心で納得できているんだろうか。飲みこみ切れてるのかな。
ボビン:行ったんじゃないかなって僕は思いますね。あのお母さんが慣れてないかんじなんで「行かされる」かもしれませんが。
なす:別に学校に行ってても行かなくてもどっちでもいい感じで言っていると思います。特にやることないから行くわっていう感じもなっている気がする。
ゆか:そうですね。孤独でも友達と手を取りあってと言っていますし、一応学校に行ったら他の3人には会えるわけだから、通いたいっていう気持ちになってもいいのかなとは思います。
古川:そう考えるとすごいですね。それを30年間に書いてる。今の価値観でいうと、学校行っても行かなくてもどっちでも大丈夫だよーみたいな感じじゃないですか。この時代、学校に行かないのもありだよねみたいな論調。ただ、30年前にこれやって、「登校拒否」って言われてた時代に、よくこのキオスクの今後を明記しないラストやれましたね。時代の割に、尖ってる気がします。
ゆか:確かに。キオスク、現代もいそうですよね。
古川:全然いそう。てかこの時代にインターネット手出してますからね。有望ですよ。30年前。
ボビン:マイクロソフトがやっと日本に来たぐらいじゃないですか1994なんて。
古川:先駆者かもしれない。図書館で借りたやつが初版だったんですよ。すごいなんかね、古い感じ。味があります。これが94年11月10日第一刷。
ボビン:パソコン=オタク、みたいな感じがまだある。
古川:それすらないんじゃないですか。95年とか6年ですよねインターネットが。
ゆか:「Windows95」ですもんね。
なす:94年はセガサターン発売ですって。
ボビン:セガサターン、あ、じゃあネットありますよ。不登校描写に関しても、なんか尾崎豊的な登校拒否なのかなっていうのは思いました。
なす:尾崎豊的登校拒否がわからない……
古川:盗んだバイクで走りだすんですよ、きっと。
感動したシーンを振り返る
古川:さて、ここまでを振り返って改めて心に残った言葉やシーンを1つ発表してもらおうと思います。
ボビン:
僕はやっぱり、キオスクのシーンが好きでした。キオスクが毎日8時に電話かけてきて、なんかゴニャゴニャやるだのやらないだの、屋根登りをって言ってるところが好きで、そこにキオスクの散々堂々巡りして考えたんだろうなというところを感じられたからですね。性格も出てるし、「ブレイクスルー」っていうところをどうしてもこの作品から感じた僕からすると、ブレイクする前のちょっと気の弱い少年のゴニャゴニャ感が見れてよかったです。
なす:
私は冒頭と、七瀬さんからのお手紙をしまったところとかの温度感を持った感じが全体的に。シーンで言うと、今聞いてて思ったんですけどキオスクが結局自分で一回登って見て落ちたっていうのは好きだなってふと気づいて。さっきのボビンさんがいってた、堂々巡りをしながら電話をかけてきたっていうのが、やっぱりこの人にとって屋根登りは面白いことと最初は思ってなかったんだなと。屋根に登るにしろグランド走るにしろ、別に誰かと一緒にやる必要ないんですね。誰かと一緒にやる必要がないものに対して、誰かにすがって一緒にじゃないとやらないと思ってたのが、でも何か変わるかもって思って自分で一人で登ってみたというその行動の仕方は、今聞いていてそれいいなと思いました。
ゆか:
私は自分一人で読んでるときは陽子ちゃんに引っ張られちゃってたんですけど、今日話聞いて、すごいキオスクにもっとちゃんと注目してあげないとなって思いました。特定のどこってわけじゃないんですけど、特に前半の弱いキオスクをちょっと注目して、これからまた読んでみたいと思います。
古川:
僕は覚醒キオスクのシーンですね。最後、家での陽子とキオスクのやりとりは、改めていま話していくと、やっぱ関係性あってこそあれほどの突っ込み方ができたんだな、よく突っ込めたんだなっていうのは、言葉にできてよかったですね。最後の方で話した、親はこういう人じゃないか?から親子関係みたいなのを考えたときに、最後のシーンの両親の手紙2つ、めちゃめちゃいい関係だなと思います。振り返りがいがあるなと思いましたね。お父さんとか、たぬきの旅館に予約してる。
本日の感想
古川:はいじゃあ最後、本日の感想をいただきます。先ほどの順番で。
ボビン:
すごい楽しかったですね。自分が読んだ本の感想を吐き出して、かつ他の人からの感想をキャッチするっていうのがすごい新鮮でした。ただオーディエンスの人が少なくて、記事にして外には出ると思うんですけどそれもnoteアカウントの中じゃないですか。こんな楽しくて素晴らしい読書会がここで終わっちゃうの、マジもったいないなって思うので、もっとこの楽しさを伝えられるような仕組みができきればと思いましたね。
なす:
楽しかったです。来月も楽しみにしてます。読書会こういう感じでしましたっていうレポートだけじゃなくて、会前の感想文と会後の感想文などをバンと出して、読書会全体のページやリンクが置いてあったら、それがもっとさらに別のものや形になったら、さらに面白くなるなと思っています。はい。
ゆか:
1人で読んでる時とは全然違う意見や視点がすごくたくさんあって、本当に1人で読書してるのってもったいないなというか、本当に作品の魅力を一部しか理解してなかったなって思いました。すごく楽しかったです。ありがとうございました。また来月もよろしくお願いします。
古川:
最後、僕です。そうですね、一緒に読書しながらいろんな人の感想を聞けたのもそうですし、今回は作者さんにも直接お話聞いたりできたので、いろんな視点からひとつの物語を見れたなっていう実感がとてもありました。広報に関しては、めっちゃ頑張ろうと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
それではまた来月も。ありがとうございました。
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