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「宇宙のみなしご」読書会アーカイブ#2

読書会サークル「どくどくかい」の文字起こしアーカイブです。
課題本は、森絵都「宇宙のみなしご」
※今回は不登校経験者コミュニティでの読書会です。


〇今月の課題本

・著 森絵都 「宇宙のみなしご」



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問いを投げる



古川:次、「問いを投げる」コーナーいきますか。それぞれ1個くらい、テーマや全体で聞いてみたい問いみたいなのを投げ、それを元にディスカッションしていきたいと思います。時間の許す限り。

ゆか:では私からいきます。皆さんの話、面白いです。全然私と考えや視点が違うので。さっきのなすさんの話、ちょっと突っ込んで聞いてもいいですか。

なす:どうぞ。



理由は「ない」のか?


ゆか:「大人はすぐ理由を聞く」という陽子のモノローグ、私、なすさんと反対で共感できるんですね。共感できると思って、このセリフをピックアップしたんです。私も自分自身が考えていることとか、自分の行動原理とかを言葉にできないことがあって、最近あったのがすごい好きな作家さんに取材で会った時にブワーって泣いちゃったんですけど、なんで泣いたのって聞かれるとそれがうまく言語化できないっていうことがあったんです。確かに言語化する努力を怠っているからじゃないかと言われたらそれまでなんですけど…。実際には、うまく伝えられないから相手に分かる言葉でしか表現しないようにしているっていうことはよくあるんです。確かに、分かり合える少数の人と付き合うのは好きなんですよ。でもいつもできるわけじゃなくて。

なすさんみたいに言語化が上手い人からしてみたら、そういった「すぐには言葉にできない理由」みたいなものも、言語化してほしいという気持ちがあるんだなと、今すごい聞いていて思いました。

なす:そうですね。言語化してほしいというと、ちょっと違うかもしれないんですけど、「理由がない」と切るのは私には難しいと思っていて。「ずっとサッカーやってました」みたいな人に対して、「なんでサッカーやってたの」と聞いたときに、「小さい頃からやってたから」だけで返されると、別にそれ以上サッカーの話、そんなに聞こうという気になれなくて。こちらから質問したの返事で、「この人本当にサッカー好きなんだな」「こういうことやってるのが好きなんだな」って思えて初めて、人が見えてくるというか。そうですね、確かにうまく説明できないけど説明しようとする努力は大切だよなって思っています。

古川:今のお話いいですね。僕も多分なすさん側で、自分も他人も自覚はしていなくても理由はあると思ってるし、なんならどうにかしてそれを見つけて伝えたい、伝えてほしいと思います。とはいえ自分自身うまく伝えられない、言語化できない思いを、伝えきれないからって途中で話を諦め、やめちゃうことが結構あるんですよ。これを言っても伝わらないし自分でもまとまってないから、1から10までのうち6ぐらいまで喋ったけど1回やめちゃうみたいな。それする俺、よくないなって思ってたんですけど、「見つからないから分かりやすい言葉で完結させちゃう」という手段を安易に選ぶよりかは、途中でやめちゃったことを悔やんでる分、まだ成長できるのかなと思いました。

ゆか:なるほど。これって私、英語で話してる時とかもそうなんですよね。もっとちゃんと自分の気持ちを伝えたいのに、英語でどう伝えたらいいのか分からないから、なんか「happy」とか言って終わらす、みたいなのがすごいあるんですよ。

ボビン:僕もどっちかっていうと理由を詰められるとちょっと引いちゃう側の人間なんで、ゆかさん側なのかなって気はするんですけど、コミュニケーションによる傷と言ったら大げさですが、ちょっと嫌な思いがあったりすると割と早めに切り上げちゃうっていうのが僕の中にあるんですよね。理由を説明しようとして、ちょっとでも相手がけげんな顔したりしようとしたなら、すぐ引いちゃう。なんかこう、なんでしょうね、理由を説明しきるのも難しいし、かといって詰められまくるのも嫌だし。今も全然うまく言葉まとめられてないんですけど。

やっぱりそうですね。理由を深く求めない人と深く求める人の間にある差っていうのを突き詰めすぎちゃうと、お互い不幸になるのかなっていう気はしますね。SNSとかでもなんかそういうのが争いの発端になってるっていうか、なんでそうなの?みたいなのをどんどん突っ込む人はたぶん悪意はないし、特に理由なんてないよっていう人も別に突き放してるわけじゃないし、理由って難しいよなっていうのを今思いました。

ゆか:確かに。めっちゃわかります。でも話せないから、理由説明できないから察してよっていうのは、やっぱちょっと傲慢だなって思うから難しいですよね。

ボビン:僕も確かに「察して」というのは、やっぱちょっと傲慢だなって思います。難しいですよね。そうですね、陽子ちゃんの「大抵のことには理由がない」って言い切っちゃうのは、ああ理由を求める人からすればこの描写、モヤるんだろうなっていうのは今思いましたね。

なす:たぶん人に理由を突っ込みすぎるのはそれは違うとは思っていて。理由を晒せる関係値が築けてるかどうかでそこは変わると思ってるんですけど、ただ自分の中に放置をしまくるのはちょっと良くないかなと思っていますね。「言語化できないからしない」というのも微妙なところで、少なくともこの表現じゃないなっていうのはたぶん分かると思うんですよ。だからそのしっくりくる表現は、あれでもこれでもないんだけどなんかこういう感じっていうのがひとつ分かれば、それをそのまま伝えたい相手がいる場合ですけど、そのまま伝えてみたらなんか面白い答えが返ってくるかもしれなくて。

やっぱり自分の中でこの表現でもないしこの表現でもないしこの表現でもなくて、もし新しく作るならこういう表現っていうのがなんかあって、それを仮置きしておけば、後々それが自分の中で似たような表現を使いたいときに引っ張り出しててこれて。それが積み重なっていくと勝手にその言葉に意味はついてくると思うので。表現できないものに対して、少なくともこれは違うんだけど、方向性としては幸せ側なのかしんどい側なのか、なんかあったかいのか冷たいのか、高いのか低いのか、千人の小人が足音を立てている感じなのか一人の巨人が足音を立てているのか。分からないですけど、なんかそういうどうにか表現してみるなら多分これっていう仮置きをしておくのが割と大事な気がしてます。全部表現できるなんてことはありえないので

古川:気持ちを放置しすぎて「ないもの」にしちゃってたのが、割と自分の不登校の原因だったりするので、その点は自分にとって反芻したい部分でもありますね。



リンはなぜ体調をくずした?


ゆか:もう1個、別テーマでいいですか。キオスクが屋根登りに失敗し七瀬さんもちょっとよそよそしくなったころ、リンが調子を崩した理由っていうのが分からなくって。これってどう思いますか。

古川:リンが七瀬さんに怒鳴っちゃった後ですよね。屋根登り失敗で一気に全員崩れていく。なかでもリンの落ち込んだ理由。そういえばさっきのなすさんの解説でヒントっぽいところありましたね。

なす:そうですね。時系列ってどんな感じでしたっけ。

古川:時系列表チャットに送りますね。チャットも見つつ。7章あたりですかね。

なす:ありがとうございます。やっぱり好きな陸上やって誘った人が一緒にしか走らなかったら、まあ嫌ですよね。その人に自分でも走ってよって言ってモゴモゴされるのも嫌だし、それで結局怒ってしまうのは怒り慣れてないとしんどいですよね。怒り慣れてない人が怒るのは難しいし、エネルギー使うし、何も調子よくなくなっちゃいます。

古川:僕もたぶんそんな理由かなと思いました。

なす:一緒に走ろうとしてたらなんか走ることが目的じゃないんじゃないの?って思っちゃった。別の打算的な考えが強くてきたんじゃないの?ちゃんと見てないんじゃないの?って思ったらまあショックですよね。その上で怒ってしまって、しかもあんま伝わってなかったりするかもしれないし、この場合は伝わったのかどうか分かんないですけど、結果的にめちゃくちゃ落ち込ませてしまったというのはしんどいですよね。本当は言い合いがしたかったんだと思うんですよね。言い合いというか、いやこう考えてたからこうだって言い合ったり、対等にぶつかれると思ってたら対等にぶつかれなかったという。すかされたりとか逆に相手だけ落ち込んじゃったりするのは、リンにとって効いてるんじゃないかなと。

古川:七瀬さん、泣きながら帰っちゃったって言ってましたね。

なす:うーん、それはやっぱりしんどいですよ。



手紙とショートメール


ゆか:そう考えると七瀬さんの描き方めっちゃ上手いですね。最初もしかしたらリンくんに気があるかも、みたいな風にも受け取れるように描かれてたり。

古川:結局、七瀬さんはリンが好きだったんですか。そんな描写ありましたっけ。

ゆか:クラスでちょっと噂があってみたいな。だから読んでる方ももしかしてそうなのかなって惑わせてきたあたりが、すごい森先生お上手だなと思って。結局入った理由は手紙で明かされるんですよね。走ることが好きだし、グループから抜け出したかったって。

古川:そういや足早かったんですね。ところで、手紙で言い訳するってもうないですよね現代。読書してるとちょいちょいこういうシーン出てきますけど、最近の作品でも手紙の存在で物語動くとかありますけど、今10代20代で長文の手紙で気持ちを伝えるとかないですよ。

ゆか:ないんだ。

古川:ないと思いますね。LINEやInstagramばっかなはず。何かしらのショートメッセージですね。

ゆか:LINEでめっちゃ書くとかないんですか?

古川:長文を送り合う、とかはないんじゃないですかね。学生ならなおさらないと思います。ゆかさんの時はありました?

ゆか:ありますし、私、全然今でもめっちゃ手紙書きます。夫に喧嘩した時とか。

古川:本当ですか。めっちゃいいですね。俺もやろうかな。……めちゃめちゃ女々しくなりそう。

なす:なりますよ、手紙は。なります。私、チャットの距離感がすごい苦手でLINEにメールみたいなレベルで文量書いちゃいます。メールももともと手紙だと思うので、やっぱり性質的には私はチャットのやり取りよりも手紙気質な文章の方が得意だと思ってます。

ボビン:確かにチャットはメールよりも軽いものっていうのは、なんかありますよね。チャットは取り消せるじゃないですか。サービスにもよりますけど、メールは1回送ったら基本相手に送ったら向こうにも形が残っちゃうんでしっかり書かないといけない、みたいな意識はありますね。だから結構文章もしっかり書こうと僕は思いますね。

なす:チャットの相手待ちで返信考える感じがすごい好きじゃなくて。レスポンスがいつ帰ってくるかはどっちでもいいんですが、誰か誘ったり誘われたりするときに「いつ空いてる?」だけ送られることがすごい嫌。いついつこういうことをしたくて、何人ぐらい来るやつで、何時から何時ぐらいでこういうことしようと思ってるんだけど来る?って聞いてほしいんですよ。自分でメール書くときもLINE送るときも、大体それを整えてから送っちゃうし、すごい微妙な表現で伝えたいときにチャットの感覚だと否定したい文章を先に書いて後からポンポンポンって出すつもりが否定したい文章だけ伝わっちゃうとか、確かにこうじゃないけどこっち寄りでその中でもこれ、みたいなのを言いたいときに全然言いにくくて。切り取って伝わっちゃうとなんか感じ悪いなみたいな思われるのは嫌ですね。

古川:手紙とショートメールでいえば、作中でもう一個それが出てきてて、たぶん、通常の不登校の集いでこの本をテーマにあげるのであればもうちょっと話題になってるかもしれないところだと思うんですけど、キオスクが自殺未遂してからクラスメイトたちからの寄せ書きの手紙をもらうじゃないですか。あれも手紙でありショートメッセージですよね。あれ見てキオスクは「なんかアホらしくなった。自分の人生なんだったんだろうと感じた」って言っていましたが、みなさん、もらったことあります?「みんな待ってるよ」的なやつ。

ボビン:僕はなかったかな。

ゆか:私もたぶん、なかったです。

なす:なかったはずです。なんかあったような気も若干するんですけど、ただ覚えてないってことはどうでもよかったんだろうなって。

古川:俺もなかったんですよ。高校だったんでさすがにそんな空気ではなかったので。ただ昔、ラボにいた方がそういう寄せ書きメッセージをクラスからもらい、それを今でも管理して取っておいているっていう人がいて。嫌すぎるから読まないで保存だけしてやろうと思ったらしく、語り口にすごい怨念を感じました。

ボビン:ほぼほぼ喜ばれないんですかね、あれは。先生が主導して欠かせるか、もしくはいじめた子たちが保身として書くかの大体どっちかですからね。

なす:保身として自分から書く子っているんですかね?なんか繊細、繊細っていうかそんなうまい立ち回りできるんですか?

ボビン:いやーいるんじゃないですか。ヤンキーチックな子よりどっちかというと陰湿タイプな子たちは、やっぱこれが親に伝わったらちょっと俺たち怒られんじゃねえかみたいな考えで保身に走りそう。ちょっとしたお遊びだったんで、ほら心配してるんで、みたいな雰囲気を出したりするかもしれないですね、分かんないですけど。

なす:一個思ったんですけど、「保身」があるとしたら周りへのアピールのための保身じゃなくて、自分の気持ちの方じゃないですか。人を傷つけちゃうような自分が嫌だからっていう、自分へのケアやリカバリーな気がする。

ボビン:そうですね。ちょっとどっかしらで埋め合わせしようみたいな。

なす:相手のことがどうかというよりは、自分の中で謝ったっていう実績が欲しいんじゃないかって気がします。

ボビン:気持ちよく眠るために、みたいな。

ゆか:そういう場合ってそもそも自分への保身で行動していることに気づいていなかったりしますよね。自分はよかれと思ってやってたり、子供だとそこに気づくのもなおさら難しいでしょうね。子供の問題じゃないかもしれないですけど。


つづく



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