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『けむりと生きる・追想』第2章
『けむりと生きる・追想』(連作短歌+付属掌編小説)
連作短歌の全体像はこちら→ https://note.com/ricautoly/n/nf3878c47a95e
第1章はこちら→ https://note.com/ricautoly/n/n074c4ee61bb2
■■第2章■■
■風が吹きちょっとかがんで手を添えるあんな感じで守られたなら
あの国語教師は問題外だけど、3年生の時に新しく来た英語のレイコ先生は大好きになった。
堂々としてカッコイイ。厳しいときは厳しく、気さくな時は気さく。同僚にも生徒にも万人ウケするタイプではなかったけど、とっても輝いて見えた。
ある日あたしは、いつものようにダルい科目をサボったけど、アケミが見つからず、学校で屋上以外にもレアなポイントないかな? と思ってウロウロしていた。
たまたま授業のない化学室・家庭科室の前を悠々と通り抜けると、突き当りに非常口があった。使われたことなんてあるんだろうか?
『『あ』』
ふたりぶんの「あ」。ドアを開けたら、レイコ先生がタバコを取り出したとこだった。
「……見つかっちゃった」
長い髪の真ん中で眉をハの字にして、先生は苦笑いする。
「オトナなんだから自由じゃないですか? てゆうか、あたしがこんな所にいるほうがおかしいですね」
「教育に悪いもん、隠さなきゃダメな姿よぉ。ま、今回はお互い秘密にするってのはどう?」
悪戯っぽいウインク。こんなの公平な取引じゃなかった。憧れの彼女と秘密を共有して、新しい表情を知って、ふたりきりで笑って。こちらがおトクすぎるじゃないか。
すこし風が吹いてた。
「よっ……と」
先生は火が消えないように、タバコの先を左手で覆い、右手のライターを近づけた。なぜか同時に目を細める。なんだか大事なものを、そっと抱くように。
――色っぽい。
――あのタバコと入れ替わりたい。
唐突な感情が胸に強く湧き上がり、あたしはビックリした。普通にイケメンが好きだったはずなのに。今まで味わったことがない速さで心臓が鳴ってる。
非常口はどこだ?
■金属の重みでガチリ響く音世界撃ち抜くような指先
あたしは全学年の時間割をかき集めてきて、英語の先生の行動パターンを予測した。そして狙いすまして、あの特別教室棟の端にあるドアを開ける。なかなかの打率でタバコを吸う彼女に会うことができた。場所を変えたりしないんだから、あちらも嫌がっているはずはないだろう。
「なんか高そうなライターですね」
悪友アケミの使っていたプラスチック製のそれと違って、いま取り出されたのは金属の四角いカタマリ。機能以上の意味を持つかのような存在感。
「オトナですので」
またレイコ先生は眉をハの字にしながらタバコをくわえる。
カンッ、ジッ――ガチリ。
蓋を開け、火を点け、蓋を閉める。鈍く大きな音を響かせながら。それはまるで銃みたいだった。
あたし達より、何倍も大変な怪物を相手にしてるんだろう。そりゃあナイフくらいじゃダメだよね。
■「害がある」顔にはっきり書いてあるだけど会うのをやめられないわ
喫煙は、あなた
にとって心筋梗
塞の危険性を高
めます。
タバコのパッケージって謎だ。デカデカと警告が印刷されていて、買って欲しいのか買って欲しくないのかわからない。
レイコ先生は授業中こそしっかりやるけど、それ以外の時間はかなり自由人だということがわかってきた。あたしがわざと鉢合わせするようにドアを開けるたび、ワルい顔をしてウインクする。
ドキドキ死、しちゃうんじゃないの?
まだタバコの味はわからなくて、たまにアケミに付き合ってほっぺにけむりを溜めるだけ。それより、先生に対してあたしは中毒になっている気がする。でも、もっと先に進んでしまったら、とてつもなくキケンなことが待ってるんじゃないかっていう予感がある。
ああ、そうか! あれと同じことか。
――第3章へ続く――
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