連作短歌『けむりと生きる』
『けむりと生きる』
(連作短歌26首)
とうさんはじょうきをふいてめがひかるきかんしゃみたくおしごとしてた
あの父がタバコをやめた妹のためで私のためではなくて
反抗は肺まで容れず浅はかに記号を纏うだけの時代さ
限りなく優しくという名を持った細いつるぎが似合っているね
風が吹きちょっとかがんで手を添えるあんな感じで守られたなら
金属の重みでガチリ響く音世界撃ち抜くような指先
「害がある」顔にはっきり書いてあるだけど会うのをやめられないわ
宵闇の川べりをゆく一匹の蛍を追って知ってゆく恋
誰だって口汚い子は嫌だろう引き換えるのは戦うチカラ
吸い込めば儚く消える燃えながら短い希望もう少しだけ
くちびるが寂しいのねと心理学まで持ち出してあの手この手で
ゆるやかな自殺をやめてゆるやかな心中にしてみたらどうかな
今夜はねあなたのために踊るから送ってきてね光る信号
脱ぎ捨てた抱きしめられた事実ごとでもまだ髪が憶えてるんだ
白々とはかれた嘘と言い訳はけむりに巻かれ指すり抜けた
いつだって顔色ひとつ変えないねそろそろ灰がボロを出す頃
燃え尽きる前に終わった愛だから未だにそこで燻っている
寄り掛かるものがなくなり立てなくて真夜中だって走ってしまう
忘れよう代用品を探すんだなのにどれにも満たされないよ
なにもかも運び出しても遺るのは心焦がした丸い足跡
番号を告げずに済んでやっとだね新たなわたし街に溶けてく
名前だけ変わって味は同じです教えてあげた過去の住人
朝もやに気付いたのなら公園へ罪を隠してあの日に還ろ
禁煙に五回成功したんだと自慢する友離婚も五回
マッチ箱いまはもうない店の名を記念日ごとに心へ灯す
おばあちゃん灰皿の前ニンマリとこの世の嘘を暴いたように
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※Twitter発表時からほんのわずか変更しました。
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