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#29「春とトラック」

 先日、家の壁を小さな羽虫がてくてく移動しているのを見た。

 虫は苦手で共存しようとは思えないものの無用な殺生も好まないので、彼らにも彼らなりのライフスタイルがあろう、とあえてスルーした。君らももう外に出てきても平気な頃合いなんだね、と。

 ああいったものを見ると、やはり「春」を禁じ得ない。
 割と自然に触れやすいところに暮らしているので、季節が季節ならこれ以上に虫たちとの付き合いも強いられるのだが、このくらいの可愛らしいエンカウントならまだ歓迎できる。 

 日を追うごとに虫や植物の群れはその数を増していく。
 蕾は膨らみ、空気は湿り気を増し、なんとなく「命の数が増えてる感じ」をほんのり感じる。雨が増えて雪は降らなくなり、タイヤ交換なんとかしなきゃなあ、などと思っているうちに気温もどんどん上がる。

 そして例に漏れず、僕ら自身にとっても春はどこかへ出て行ったり、何かを迎え入れたりする時期であることは、もはや言うに及ばない。

***

 もやしスタイル、温室人間を地で行く僕には到底似つかわしくない仕事だが、ほんの一時期だけトラック助手として配送業のアルバイトをしていた時期があった。
 あの頃も確か春だった。今思えば懐かしいのだけど、当時はとにかく色んな事情があって、それ以外の選択肢が取れない(というと配送会社に失礼なのだが)状況だった。

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特に有益な情報はありませんが、読んだ方にとって普段目も向けないような他愛のないもの・ことに改めて触れるきっかけ、あるいは暇潰しになったら幸いだなと思っています。

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