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【初投稿】真実は闇の中? 第一話


「今日の配信も楽しんでくれたかな?それではまた次の配信でお会いしましょう!おつひなでした!」
 
私が画面の向こうに居る人達に挨拶をすると画面端のコメント欄が一斉に動き出す。おつひなでした、と言ってくれる人も居れば、終わらないで、と悲しむ人も居た。時にはアンチコメも流れてくるが、そんなものは気にしていられない。だって私はみんなのアイドルなんだもの。
 
とはいえ、ここで配信を切るのは炎上になりかねないため、
「私もみんなと離れるのはすごい寂しいよ。でもひな、時間はきっちり守りたい派なの‼」
 そう言うと視聴者達はしょうがないよね、といった反応をくれる。そこで私は終わりを告げると配信を切った。別に本当は時間をしっかり守りたい派ではない。逆にルーズに近いくらいだ。本当の“私”を嘘で囲めばみんな私を見てくれる。配信を切ってもなお動き続けていたアバターの“私”は元気そうな顔を見せた。

ひな、という活動名は自分の本名、ひなた、からとった。女なのにひなた、という男の子っぽい名前には生まれてきてから何度も悩まされた。活動してから三年。私はいろいろな企画をしてファンを増やしてきた。はじめは自分の趣味でもある絵を描く配信をしていた。だが、同じ配信だけではファンは増えるどころか減る一方だった。もちろん、このときから見てくれていて今日まで推してくれている子もいるのだが。そこで私は、歌を歌ったり、絵本を書いてみてそれを読み聞かせしたり、時にはVTuberなのに実写配信してみた、など私のやりたかったものとは全く違う配信内容でVTuber界隈の高みへと登り詰めていった。有名になるためだったらなんでもする。そうしないと捨てられていくんだ。私はそう実感した。でも別に平気だった。何をしてもダメダメな私に配信者という天職が見つかったのだから。

町中を歩いているとたくさんの“一般人”がいる。でも私はたくさんの人に愛されている特別な人間で、毎朝満員電車に乗って揺られている人達とは違うという謎の優越感に浸った。
こんなに苦労してでも何故まだ続けるのかと友達に言われた。私は当然のごとく答えた。

「売られた喧嘩を買っているだけだよ。」

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