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システム導入における定性効果について

システム導入の際には、想定される効果を定量、定性の両面から検討し、投資すべきかどうかの判断を行います。この際の定性効果の扱いについて、考えをシェアします。

定量効果至上主義

多くの現場では、システム導入を始めとした投資の意思決定をする際に、定量効果至上主義の立場が取られているように感じます。実際に私が携わったシステム企画においても、「定性効果は考慮に入れるが、定量効果のみでROIがプラスになっていないと企画を上に持っていくのは厳しい」と言われたことがあります。個人的には、むしろ定性的な効果こそがそのシステム導入の本質だと考えており、定量のみではROIがプラスになることはないと考えていました。しかし、最終的にはその定量部分を盛りに盛って何とかプラスにした上で企画を通すことになりました。

その結果、実際にプロジェクトが始まると、数字しか見ていない意思決定者は騙せても、現場は机上の盛りに盛った定量効果には納得しません。現場を納得させるためには定性効果を説明する必要がありますが、そうすると、企画時点で推していたROI算出ロジックと矛盾する、という何ともやりづらい状況になりました。

定性効果とは何か

ここで、定性効果とは何か、改めて考えてみたいと思います。ググってみると、定性効果は数値では表すことができない、感覚的、主観的な効果、と説明されることが多いようです。

しかし、定性効果と定量効果の違いは、本当に「数値で表せるかどうか」でしょうか?例えばRPA導入の定性効果として挙げられる"人的ミスの防止"であれば"オペミスによる障害発生件数"、"サービスレベルの向上"であれば"1ヶ月当たりの問い合わせ件数"や"OLA/SLA順守率"など、それを測るためのKPI・指標を用意してしまえば、定量化することができます。

そのため、私の理解では、定性効果とは、効果のうち、現時点ではどんなKPI・指標で定量化すればよいかわからない、もしくは定量化のための数値計測が現時点では困難な効果、ではないかと考えています。

定性効果を予測・評価することが意思決定者の仕事

今はどんな企業であっても、情報システムが当たり前のように活用されています。そして、「自動化により手動作業の工数を●●人月削減」とか、「ペーパーレス化により紙代、インク代を●●円削減」といったような、誰でも理解できるような簡単な課題は少なくなり、今は「パイプラインによりに高頻度で安定したリリースを行えるようにする」とか「データを単一プラットフォームに集め、利活用を促進する」といったような、効果を直接定量化できないような、より複雑で不確実、困難な課題が増えています

定量効果を使った判断は誰にでもできます。定量効果に従った意思決定は、判断の根拠や責任を自分ではなく数字に求めることがでます。一方、上述したような、複雑で不確実、困難な課題に向き合わなければならない現代では、むしろすぐに定量化できない定性効果をいかに予測・評価するか、ではないでしょうか。定量効果と違い誰の目にも明らかでないからこそ、定性効果に基づいて判断をするためには、責任や経験、場合によっては勘が必要になるでしょう。意思決定者の役割は、この点にこそあるのではないでしょうか

もちろん定量化の努力は重要

とはいえ、定量効果が見えなくても、定性効果だけでなんでもGOを出せと言っているわけではありません。大前提として、定量効果だけでROIが出るようにすべきだし、そうでないなら定性効果を少しでも分析して定量的に表現できる方法を模索すべきです。それでも難しければ、実際にKPI・指標を仮置きしてスモールスタートし、定量効果を予測するためのインプットを集めるべきです。このような努力を行った上で、最終的な意思決定の場においては、定性効果に対しても責任と経験・勘を持って適切な評価を行った上で意思決定をすべきだと考えます。

以上です。

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