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読書が趣味で、特に小説を中心に読んでいます。読んだ本のうち面白かった作品や気になった作品について、感想を書いていきます。 好きな作家:米澤穂信、今村夏子、九段理江

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2024年6月に読んだ本の一言感想

 6月は土日の読書会に計3回参加しました。 1.「ぼくらは回収しない」/著:真門浩平 何で見かけたか忘れてしまったけど、雑誌か何かで大々的に取り上げられていたので、興味を持ち読んでみました。  特に最初の二編は、事件は解決するもののモヤモヤは残る感じが好きでした。タイトルから、作中いろいろな思わせぶりな伏線っぽい要素がちりばめられているけど、本当の伏線しか回収されないというような話なのかなと想像していましたが、それとはまた違った意味で「ぼくらは回収しない」という話でした。

    • 【感想】「バリ山行」(著:松永K三蔵)

      概要 第171回(2024年上半期)芥川賞候補作。Amazonの群像在庫が復活したため、「いなくなくならなくならないで」、「サンショウウオの四十九日」、「海岸通り」に続いて、四作品目として本作を読みました。四作品の中では本作が一番好みだったけど、最近の芥川賞作品と比べると、正直どれもピンとこない印象。受賞作なしか、しいて言えば海岸通りが受賞かなあという印象です。 感想社内バタバタが楽しい  本作は、外装リフォーム等の施工を行う新田テック建装に勤める波田を主人公として、中小

      • 【感想】「海岸通り」(著:坂崎かおる)

        概要 2024年上半期(第171回)芥川賞候補作、「いなくなくならなくならないで」、「サンショウウオの四十九日」に次いで三作目を読了しました。奇しくも三作品とも、二人の女性を軸にした物語。そういう観点で各作品を対比してみるのも面白そう。 感想いろんな対比が技巧的  出版社HPのあらすじにあるとおり、「正しいこと」と「まちがっていること」、「本物」と「ニセモノ」のような対比構造が所々にちりばめられています(サトウさんのニセモノの娘を演じる主人公・久住と本物の「娘さん」とか、

        • 【感想】「サンショウウオの四十九日」(著:朝比奈秋)

          概要 2024年上半期(第171回)芥川賞候補作です。「いなくなくならなくならないで」に次いで、2作品目を読了しました。 感想 本作は、結合双生児として1つの体(正確には、右半身と左半身とが結合した体)で2つの人格を持って生まれた結合双生児・濱岸杏と瞬の物語。2つの人格が同時に活動していて、体を共有しているから、お互いが考えていることまで相手に共有されてしまう。理論屋の杏と行動派の瞬が、陰陽図(=白と黒のサンショウウオ)のように、お互いを補完しながら生きていく。  本作は、

        2024年6月に読んだ本の一言感想

        • 【感想】「バリ山行」(著:松永K三蔵)

        • 【感想】「海岸通り」(著:坂崎かおる)

        • 【感想】「サンショウウオの四十九日」(著:朝比奈秋)

          【感想】「いなくなくならなくならないで」(著:向坂くじら)

          概要 先日、2024年上半期(第171回)の芥川賞候補作が発表され、その中で本作のタイトルが一番気になりました。掲載されている文藝夏季号がまだ入手できたので、早速購入し読みました。  本作の著者 向坂くじらさんの作品は、私は本作が初めて触れたのですが、向坂さんは詩人として活躍されている方とのことで、文章のリズムや言葉の使い方が特に面白いと感じました。  他の候補作である「サンショウウオの四十九日」が掲載されている新潮五月号、「海岸通り」が掲載されている文學界二月号も入手できた

          【感想】「いなくなくならなくならないで」(著:向坂くじら)

          【感想】「オン・ザ・プラネット」(著:島口大樹)

          概要 三月に読んだ「鳥がぼくらは祈り、」以来、島口大樹さん二作目。本作も、なかなか実験的な小説だった(と自分は捉えました。)。  ちなみに、第166回芥川賞候補作5作のうち、これで3作を読んだことになりました(Schoolgirl、皆のあらばしり、オン・ザ・プラネット)。ほか二作も面白そうなので、近いうちに読破したいです。 感想物語の枠を超越しようとする作品  本作は、その大部分が、映画を撮るために横浜から鳥取に向けて移動する途中の四人(善弘、スズキ、トリキ、マーヤ)の会

          【感想】「オン・ザ・プラネット」(著:島口大樹)

          2024年5月に読んだ本の一言感想

           5月は、土日の読書会に2回参加し、文学フリマにも行った。 1.「私雨邸の殺人に関する各人の視点」/著:渡辺優 結構久しぶりに、しっかりとした本格ミステリを読んだ気がして、満足だった。 2.「冬期限定ボンボンショコラ事件」/著:米澤穂信 米澤穂信、安定の面白さだった。アニメ化も楽しみ。 3.「他人事」/著:平山夢明 上記のあらすじにあるとおり、「理解不能な他人たちに囲まれているという日常的不安」に関する短編集だが、自分的にはあまり合わなかった。もう少しイヤミスっぽい感じ

          2024年5月に読んだ本の一言感想

          【感想】「水たまりで息をする」(著:高瀬隼子)

          概要 最近お気に入りの高瀬隼子さん作品。本作は単行本購入後しばらく積んでいたところ、文庫版が出てしまったので、これを機に読了。  本作は、突然夫が風呂に入らなくなり、体臭がきつくなった結果、これまでの生活が続けられなくなっていく話。  ちなみに、5/19の文学フリマ東京を訪れたところ、(お話はできなかったけど、)京都ジャンクションのブースで高瀬隼子さんご本人をお見掛けすることができました。 感想愛するとは?  自分が本作を読んで考えたのは、「愛するとはどういうことか」と

          【感想】「水たまりで息をする」(著:高瀬隼子)

          【感想】「Planet Her あるいは最古のフィメールラッパー」(著:九段理江)

           先日、九段理江さんの「しをかくうま」の感想を書きました(すごすぎる小説だったために、全然頭の中が整理できていなかったけど読後の衝動をとりあえず記録しておきたいということで、感想になっていないような感想ですが。)。  その記事のコメントで、雑誌「ユリイカ2023年5月号 特集=〈フィメールラップ〉の現在」に掲載された本作を紹介いただき、さっそく通販で購入して読みました。 感想 わずか7ページの超短編だけど、九段理江らしさ全開の超名作でした。自分的本作のポイントとして3点挙

          【感想】「Planet Her あるいは最古のフィメールラッパー」(著:九段理江)

          【感想】「私雨邸の殺人に関する各人の視点」(著:渡辺優)

          概要 本格モノでクローズドサークル(嵐の山荘)モノの本作。ちょっと前までは本格ミステリばかり読んでいたのに、最近は少し離れてしまったのですが、特徴的なタイトルに惹かれて購入。  自分が本格ミステリばかり読んでした一昔前ですら「もうやり尽くされている」感があった気がしますが、それでもなお現在に真正面からクローズドサークルを取り扱っているのは、それだけで評価したいくらい個人的に好感が持てます。最近のミステリ界隈は特殊設定モノが注目を浴びている感じがしますが、こういう地に足ついた(

          【感想】「私雨邸の殺人に関する各人の視点」(著:渡辺優)

          【感想】「冬期限定ボンボンショコラ事件」(著:米澤穂信)

          概要 米澤穂信の<小市民>シリーズ第5作です。「秋期限定栗きんとん事件」が2009年刊行なので、(2020年刊行の短編集「巴里マカロンの謎」をはさみつつ)15年ぶりの新作。春期限定から始まったシリーズも冬季限定となり、(少なくとも「季節限定」=長編?は)いったん完結でしょうか。  本作は、主人公の小鳩くんと小佐内さんの出会いや、二人が小市民となることを志すことになったきっかけ、二人の互恵関係が結ばれた経緯などが明かされ、シリーズのラストでありながらエピソードゼロ的な位置づけで

          【感想】「冬期限定ボンボンショコラ事件」(著:米澤穂信)

          2024年4月に読んだ本の一言感想/印象に残ったフレーズ

           新年度で部署を異動して仕事が少し忙しくなった。帰りの時間が遅くなったので読書ペースも少し落ちた。 1.「しろいろの街の、その骨の体温の」/著:村田沙耶香 小学生~中学生くらいのときの衝動的な行動が、無意識的に他人を傷つけてしまうことってあるなあと思った。主人公結佳の行動は突飛ではあるけど、そのまわりの友達間の人間関係や、環境が変わってクラス内カーストが変化するところとか、読んでてつらいけどリアルで面白かった。 2.「黄色い家」/著:川上未映子 2024年本屋大賞候補作。

          2024年4月に読んだ本の一言感想/印象に残ったフレーズ

          【感想】「くるまの娘」(著:宇佐見りん)

           宇佐見りん第3作。「推し、燃ゆ」⇒「かか」⇒本作の順番で自分は読みました。 感想情景描写が美しい  自分は文学的素養があるわけではないので、専門的・技術的なことは全く詳しくないですが、それでも、本作の文章表現、特に情景描写の言語表現の美しさは、読んでいて気持ちよかったし、なかなかほかの作品にはない点だと思いました。例えば自分が好きなのは、 という詩的な一節。作品全体を通してですが、短文が多いことで文章全体にリズムがあり、表現の美しさと相まって本作特有の文章になっている

          【感想】「くるまの娘」(著:宇佐見りん)

          【感想】「列」(著:中村文則)

          概要 BS12で放送されている本に関する情報番組「BOOKSTAND.TV」の著者ご本人が出演した回を見て、購入しました。  中村さんの本は、「カード師」だけ読んだことがあって、そちらは自分の好みとはちょっと違ったのですが、本作は面白かった。 感想 本作は三部からなる物語で、第一部は主人公が何かの列に並んでいる場面から始まり、何の列なのか、列の一番前・一番後ろはどうなっているのかの様子も見えず、自分がなぜその列に並んでいるのかもわからないまま、なかなか動かない列にじっと並

          【感想】「列」(著:中村文則)

          【感想】「いい子のあくび」(著:高瀬隼子)

          概要 4月に入ってから何冊か小説を読んだけど、なかなか自分好みの作品に出会えていなかったので、こんな時のためにとっておいた本作を読んだ。自分にとっては、「おいしいごはんが食べられますように」に続いて、高瀬隼子さん2作目。時系列的にも、「おいしいごはん…」の次に刊行された作品ですね。  集英社HPのあらすじに集約されているのだけど、本作は「社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たち」が登場する物語。「おいしいごはん…」の読後に著者の高瀬さんのインタビュー記事をいくつか

          【感想】「いい子のあくび」(著:高瀬隼子)

          2024年3月に読んだ本の一言感想/印象に残ったフレーズ

          1.「私は男でフェミニストです」/著:チェ・スンボム、訳:金みょんじん 韓国の男子高教師の著者によるフェミニズム論。「フェミニズム」というワードにいろんな意味合いや印象が付加されてしまった結果、なかなか現実で言葉に出せなかったり、ちょっと微妙な単語として扱われたりするのが素朴に疑問だったため、男性が考え実践するフェミニズムならとっつきやすいかなと思って手に取った。  内容的には、自分が期待したものとは少し違って、著者の個人的経験とそれによってなぜフェミニストになったのかとい

          2024年3月に読んだ本の一言感想/印象に残ったフレーズ