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広告代理店入社から体調を回復するまで 負け犬の新人君・クラブで踊る中年女性に吐き捨てられる 3話目

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2か月を過ぎたころ、自分自身の感覚がかなり麻痺しているようだった。ただ、その瞬間にマヒしているかどうかは全然わからない、これが問題である。最初の配属日からほぼ毎日のように続く一日六時間の飲み会は3か月たっても引き続き続いていた。当時はストレスを感じていたはずだが、全くそんな気がしなかったのを覚えている。当たり前になりすぎていた。ストレスを感じていることさえ忘れるのである。

運よく終電で帰宅できたとき、1時半ごろに近所の公園で同僚に泣きそうになりながら電話したのを覚えている。あの時、俺もうだめかもしれない、と言っていた。相当に追い込まれていたのだろうと感じる。

よく監禁された人がその場から離れたくなくなる、というような話を聞く。外から見たら異質なのに、中にいるともうそれが当たり前になり、外に出られなくなるのだ。さも今の環境が素晴らしいと思うようになる。そう思い込まないとやっていられないからだ。まさに、自分がそれだった。

3時間睡眠が基本で普段から寝不足だったので睡眠をどこかで取らなければと考えていた。帰りはタクシー、45分くらいはタクシーの中で寝られていた。完全に横になって睡眠をとっていた。会社ではトイレで寝てはいけないと上長に言われていたため人が通る階段で寝ていたのを覚えている。今考えると変な若手だっただろう。でも、そこしか寝る場所がなかったのだ。

5月終わり位からはクライアントの接待に行くこともあった。そのお客は必ずミーティングを5時か6時頃に入れてくる人で、代理店から飲みに行きませんかと言わせるように仕向ける担当者だった。3次会、4次会まで行くこともあった。その時の5次会がどこかのクラブ(踊る方)だった覚えがある、夜の3時頃だ。その場の輪にクライアント、上司や営業のほかに中年女性が混じっていた。その場で上司が声をかけたのだろう。いまだに覚えているが、

「あんた、負け犬みたいだね」

と言われた。今考えても、確かに間違ってないなと思う。負け犬だった。眠気はマックス、ほぼ発言もせずにその場にいるのは奴隷に等しい。そのお客とは取引が1年ほど続いたようだが、その後はやり取りがなくなり、自然とそのような話もなくなった。

飲みの場でいろいろと言われたことで、いまだに印象に残っているのは

「飲みの場を楽しいものなんて思うな」

という言葉だ。正しい、何にも楽しくない。もうむしろそれが当たり前過ぎて何も感じなくなっていたのだ。飲み会というものは上司という絶対神がおり、その絶対神をサポートするための奴隷、それが新人であった。自分の上司が死ねといえば死ぬ、というような状況である。

ある時服を脱げというようなことを言われてなぜかそれは自分の意志がある程度あったのか、嫌ですといったことがある。その時に言われた言葉は

「お前に人権なんかねーんだよ」

という言葉だった。40代の営業、一応チームをリードしている人である。広告代理店の新人には日本国憲法に記載のある基本的人権の尊重は適応されないようだ。当時は何も感じなかったが、今考えるとかなりパンチが効いている。犬には人権はないな確かに。犬だから。でも犬にも権利はある。






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