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#179 半地下の寝そべり族

 精神疾患を抱える人が感じる辛さのうち、ひとつの大きな困難を、わたしは回避することができているように感じる。

 朝起きて、少しの用事をこなすか、あるいは何もしない(できない)で、疲れてきたら昼寝をする。夜も早めに寝床へ入り、翌朝起きてはまた、眠いだの怠いだのと呟いている。そのくせ、食事はそこそこ楽しんでいやがるのだ。

 もしわたしに同居人がいたならば、少しくらいは家事をやってほしいとか、出来るだけ早く仕事に復帰してほしいとか、筋トレでもすれば?とか、言われた瞬間に「できないんだよ…」と大泣きしてしまいそうな声をかけられそうなものである。

 わたし自身、現在の暮らしぶりを客観視して、ほんとうにそう思う。当事者ではない限り、「なまけ」と区別がつけられない。しかし少なくとも今現在、「頑張って社会復帰したい」などとは思わない。復帰した途端に薄氷を踏み割って、再び希死念慮の虜になることが目に見えているからだ。

「寝そべり族」が頭をよぎる…

「寝そべり主義」とは、簡潔に説明すれば“六不主義”である。「家を買わない」「車を買わない」「結婚しない」「子どもを作らない」「消費しない」「頑張らない」という六つを“しない”こと。そして、「誰にも迷惑をかけない、最低限の生活をする」ことを指す。

DIAMOND online 2021年7月28日 4:30
中国の過酷な受験戦争を勝ち抜いた若者が
「寝そべり族」になってしまう理由
 より引用

 中国の受験戦争は凄まじい。かつての日本の比ではない。わたしがいま陥っている、ミッドライフ・クライシス(中年の危機)の先にある境地を、若年世代がやっている。こうした小さな抵抗が、少子高齢化の進む中国の未来にどのような影を落とすのか。そのスケールの大きさもきっと、日本の比ではないだろう。

映画 『パラサイト 半地下の家族』

 わたしの大好きな映画の一つだが、本作で描かれるような社会が好きな訳ではない。周知の通り、韓国も日本人なら裸足で逃げ出す「超・お受験社会」であり、サムスンに代表される財閥系企業に就職することが人生の成功だ。そのため、英語の習得も欠かせない。

 本作は、韓国社会に蔓延る格差を様々な形で描くのだが、彼らは決して「寝そべり」はしない。金持ちに取り入って、上昇しようと試みるのだ。その過程が面白おかしく、しかし最後には、観客に複雑な気分を与えて終わる。多くの観客は、自分が「どちら側」かを悟ってしまう。個人的には、感服するほかない、完璧な物語だと思っている。

 しかし、これはあくまでフィクションである。現在の、現実の韓国には何があるのだろう。わたしの関心を惹くのは「非婚主義」だ。

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 現在、韓国では子供を産めば「愛国者」の誉を受けるらしい。過酷な競争社会(韓国人自身が、ヘル朝鮮と自嘲するほどである)で子供を育てる責任など負いたくはなく、経済的負担も大きい。夫婦二人だけで力を合わせて生きていくのが精一杯、という人が多いそうだ。

 しかし、韓国は侮れない。彼らの文化は「パリパリ(パルリパルリ)」である。早く早く!という意味だ。良くも悪くもせっかちで、それが急速な経済成長を促してきた面もある。この点においては、自民党に文句を言いつつも、彼らを当選させ続ける、保守的な日本とは真逆と言える。

もしかして…彼らから学ぶべき…?

 ひょっとして、と頭をよぎる。ままならないわたしの身体は、社会の建前として君臨する「勤労は美徳!」「働かざるもの食うべからず!」という価値観を無防備に受け入れすぎて、もうやめてくれ!と言っているのではないか。

 いっそのこと、半地下に寝そべってみたらどうだろう。ミニマリストを気取って、体よく「持たざる暮らし」をしてみたい。心を病まない収入源があれば、の話だが。

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