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2022オリックスバファローズと3つのリベンジ③〜日本シリーズ〜

(↑の続き)

最後に、ヤクルトスワローズへのリベンジです。
前回の投稿に書き記したように、オリックスは激闘の末パリーグ優勝を果たし、クライマックスシリーズも勝ち上がって日本シリーズ進出を決めました。相手はセリーグ王者のヤクルトスワローズ。2021年と同じマッチアップとなりました。

2021年の日本シリーズは、第1戦で吉田正尚のタイムリーによる逆転サヨナラ勝ちと良いスタートダッシュを決めたものの、第2戦で高橋奎二に完封負け、第3戦第4戦ともにリリーフ投手が打たれて敗れ3連敗。4戦先勝方式のため、あと1敗すると敗退確定という窮地に追い込まれてしまいます。後がなくなった第5戦、オリックスは3点リードのまま終盤に突入するも、8回裏にセットアッパーのヒギンスが大乱調で山田哲人に3ランホームランを浴び、同点に追いつかれてしまいます。それでも9回表、代打で登場した元メジャーリーガーのアダム・ジョーンズが勝ち越しホームランを放ち、1点差でなんとか勝利を収めました。

第1,2戦は京セラドーム大阪、第3,4,5戦は東京ドームで開催されましたが、第6戦はほっともっとフィールド神戸という球場に舞台が移りました。本来ならばオリックスの本拠地である京セラドームで開催されるはずだったのですが、レギュラーシーズンの試合消化ペースの遅れにより日本シリーズの日程が変更となり、以前から予定されていたアーティストのドームライブの開催日程と重なって京セラドームが使えない、という事情がありました(同様の事情で、ヤクルト側の本拠地神宮球場も使えず東京ドームで開催)。そこで、オリックスが2004年以前に本拠地球場として使っていたほっともっとフィールド神戸に白羽の矢が立ったのです。しかしほっともっとフィールドは屋外球場で、試合日は11月27日、ほぼ真冬。グラウンドの気温は10℃を下回り、とてもプロ野球が開催されるような環境とは思えませんでした。
そんな寒さを吹き飛ばすかのように、オリックスのエース山本由伸は熱投を見せます。自己最多となる9回141球を投げ1失点と堂々の結果を出しましたが、ヤクルト投手陣も手強く、試合は1-1のまま延長戦に突入しました。お互い得点を奪えないまま迎えた12回表。延長は最大12回なので、ここを凌げば少なくともオリックスの負けは無くなります。簡単に2アウトを奪ったものの、そこから塩見泰隆にヒットを許し、パスボールで2塁に進まれた後ヤクルトの代打の切り札・川端慎吾に勝ち越しタイムリーを打たれてしまいました。その裏オリックスは得点を奪えずゲームセット。5時間を超える激闘に敗れ、オリックスは日本一にあと一歩届きませんでした。


2022日本シリーズは、戦前の解説者の予想ではほぼ互角か、オリックス優勢と見る意見が少し多かったように記憶しています。その根拠の多くは、山本由伸というスーパーエースの存在でした。
2021年に最優秀防御率・最多勝・最多奪三振・最高勝率・沢村賞などありとあらゆる投手タイトルを総なめにし、その年のMVPに輝いた山本由伸は、2022年もノーヒットノーランを達成するなど圧倒的なパフォーマンスを見せ、前述した投手タイトルをすべて今年も獲得、2年連続のMVPが確実視されています。記録や数字の凄さもさることながら、山本由伸を最もエースたらしめているのは「大事な試合で必ず好投すること」です。優勝争いが白熱したシーズン終盤の首位ソフトバンクとの直接対決や、クライマックスシリーズの初戦、あるいは日本代表として投げた2021東京五輪の開幕戦など、ここぞという試合で山本由伸は確実にチームを勝ちに導く投球を見せてきました。そんな大エースが順当に行けばシリーズで2回先発登板できるのだから、オリックスはそれだけで確実に2勝が計算できるだろう、という声が多く聞かれました。

しかしそんな皮算用は、初っ端から脆くも打ち砕かれます。満を辞して第1戦、神宮球場のマウンドに上がった山本由伸ですが、初回先頭打者の塩見泰隆に初球をヒットにされると、ピンチを招いてオスナに2点タイムリーを打たれてしまいます。直後になんとか追いついたオリックスでしたが、山本由伸は3回,4回と連続でホームランを浴びて4失点するなど調子を取り戻せません。さらには5回の投球中に脇腹を痛めて負傷降板となり、以降の試合でも登板できなくなってしまいました。チームもそのまま敗れ、オリックスは初戦を落としてしまいます。
一説には、神宮球場の独特のマウンドでは落ちる変化球が見極められやすく、フォークボールを武器とする山本由伸は相性が悪かったのではないか、とも言われています。なんにせよ、戦前に予想されていた山本由伸による「2勝」はあっさりとその可能性が断たれてしまいました。


続く第2戦の先発投手は、山本由伸に次ぐ11勝をマークした宮城大弥か、あるいは20試合に先発して防御率2.66と安定していた田嶋大樹ではないかと予想されていました。しかし、中嶋監督が先発に指名したのは山﨑福也でした。シーズン成績だけ見ればローテーションの5番手である山﨑福也を第2戦に持ってきた理由はいくつか考えられます。
1つは先述したように絶対的エースの山本由伸が苦戦するほど独特な神宮球場のマウンドに慣れた投手を使いたかった、という点です。山﨑福也は明治大学の出身であり、同大学が加盟している東京六大学野球のリーグは神宮球場で試合が行われています。大学時代から慣れ親しんだ球場であれば、相性は問題ないとの判断だったのかもしれません。
もう1つの理由としては、山﨑福也の打撃力です。日大三高時代に春の甲子園(センバツ)に出場した山﨑福也は、エースピッチャーとしてチームを準優勝に導くと同時に、全試合合計で13安打を放ちセンバツ1大会における通算安打の最多タイ記録を樹立しました。「二刀流」としてメジャーで活躍を続ける大谷翔平ほどではないものの、山﨑福也は並の投手より打撃に期待できるというわけです。普段はDH制のあるパリーグに属しているためその類稀なる打撃力を生かす機会がありませんが、セリーグとの交流戦の際には打席に立ち、ヒットを放ったことが何度もありました。日本シリーズのセリーグ本拠地開催試合はDH制が適用されないため、山﨑福也を打席に立たせることができます。

そんな期待に応え、山﨑福也は投打に活躍を見せます。3回表1アウト3塁のチャンスで見事先制タイムリーを放つと、続く安達了一のヒットで2塁に進み、宗佑磨のライト前ヒットの処理を右翼手がもたつく間に三塁を回って一気に本塁を陥れ、2点目のホームを踏みました。投げる方でも4回5奪三振無失点の好投で、2番手山﨑颯一郎にバトンを繋ぎました。そこから山﨑颯一郎・宇田川優希・ワゲスパックと無失点リレーで3点リードを保ったまま試合は9回に突入、阿部翔太がマウンドに上がります。
「戦前の予想に反して先発登板となった山﨑福也が見事なピッチングで山﨑颯一郎に繋ぎ、最後は阿部翔太で締める」という流れは、最初の記事で書いた佐々木朗希へのリベンジ試合と全く同じ流れです。多くのオリックスファンが「1勝1敗に戻して第3戦を迎えられる」と思ったことでしょう。しかし、勝利まであと一歩のところに落とし穴が待っていました。
阿部はノーアウト1,2塁のピンチを招くと、代打内山壮真に同点3ランホームランを浴び、土壇場で追いつかれてしまいます。そのまま延長戦に突入するもオリックスは勝ち越すことができず、結局3-3の引き分けでゲームセットとなりました。負けはしなかったものの、掴みかけた勝利を目前で逃したダメージは、結果以上に大きなものだったと思います。


第3戦はオリックスの本拠地京セラドーム大阪に舞台が移ります。心機一転、嫌な流れを断ち切りたかったオリックスですが、昨年の日本シリーズで完封を許した高橋奎二に今回も抑えられ、中盤まで無得点に抑えられます。さらにオリックスの先発宮城大弥はそれまで不調だった山田哲人に3ランホームランを浴び3失点で降板。あとを受けたリリーフ投手陣も失点を重ね、1-7で大敗を喫しました。
正直、この時点で自分含め多くのオリックスファンが暗澹たる気分になっていたと思います。0勝2敗1分という結果以上に、1年間積み上げてきた「オリックスの勝ち方」を圧倒的な力で押し潰されているかのような試合内容だったからです。
これは自分の主観になりますが、2022オリックスのシーズン中の勝ち方はだいたい「①山本由伸が圧倒的なピッチングで相手を制圧する」「②拙攻でチャンスを潰しながらもなんとか2,3点とってリリーフ陣の継投で逃げ切る」「③先制されながらも僅差で持ち堪えて終盤に勢いで逆転勝ちする」のどれかに分けられたように思います。ところが第1戦で山本由伸が4回4失点で降板・第2戦でリリーフが逃げ切りに失敗・第3戦では先制されたあと僅差で持ち堪えられずどんどん点差を広げられるという展開で、先述した勝ちパターンを1つずつ丁寧に摘んでいってるような、そんな絶望感がありました。


第4戦、ここで少し流れが変わります。オリックスは3回裏に1点を先制、先発の山岡泰輔も中盤まで無失点と好投を見せます。しかし5回、塩見泰隆に三塁打を許し1アウト3塁のピンチを招くと、中嶋監督は投手交代を告げ、宇田川優希をマウンドに送りました。
シリーズ終了後、多くの解説者が「ここが日本シリーズの勝負の分岐点だった」と指摘していましたが、自分もこの采配が1つ大きなポイントだったと感じています。5回途中まで無失点投球を続けていた投手を三塁打1本打たれただけで交代するというのは、普通の試合ではありえない采配です。しかし、この日本シリーズという特別な試合においては、この投手交代がシリーズの潮目を変える名采配だったように感じました。
1アウトランナー3塁というケースは、ヒットを打たなくても緩い内野ゴロや犠牲フライなどが出れば得点が入るため、確実に無失点で終えるためには三振が欲しい場面になります。宇田川は起用に応え、続く山崎晃太朗・山田哲人を連続三振に斬りピンチを脱出、続く6回も無失点に抑えました。打線は追加点を取ることができませんでしたが、7,8回は山﨑颯一郎、9回はワゲスパックが無失点で凌ぎ、1点差を守り切ったオリックスはなんとかシリーズ初勝利を挙げました。


1-0で終わった第4戦とは一転して、第5戦は点を取り合うシーソーゲームになります。先発田嶋大樹の調子上がらず序盤に2点を先制されますが、4回に紅林弘太郎・若月健矢の連続タイムリーで同点に追いつくと、5回にそれまで不振だった主砲吉田正尚にシリーズ初ホームランが飛び出し1点を勝ち越します。
このまま前日と同じようにリードを守り抜きたかったオリックスですが、この日は第4戦で好リリーフを見せた宇田川優希・山﨑颯一郎がベンチ入りメンバーから外れていました。2人はともに前の試合で複数イニングを消化し30球以上投げていたため、疲労を考慮され休養日となっていたのです。長丁場となるレギュラーシーズン中であればこのような運用はしばしば見受けられますが、日本シリーズでは少し珍しい光景です。賛否両論ある手だとは思いますが、リリーフ投手の故障リスクを減らすことを最重要に考えるオリックス首脳陣らしい投手運用と言えます。
結果、第2戦・第3戦で好投を見せていた近藤大亮が1点リードの6回に登板しましたが、打ち取った当たりがヒットになるなどの不運も重なり、2失点で逆転を許してしまいました。なおも2アウト2,3塁のピンチで山田哲人を迎えますが、首脳陣はここで阿部翔太を起用します。痛恨の同点3ランホームランを浴びた第2戦以来の登板となった阿部は、その汚名を返上するかの如く好投を見せピンチ脱出、続く7回も0に抑えました。8回は平野佳寿・9回はワゲスパックがそれぞれ無失点投球で、1点差を保ったまま試合は9回裏に突入しました。

ヤクルトは守護神マクガフを送りますが、オリックスは去年の日本シリーズ第1戦にて、この日と同じ京セラドームの試合の9回裏に登板したマクガフから3点を奪い逆転サヨナラ勝利しています。その再現を願うオリックスファンの想いが届いたのか、四球と犠打で1アウト2塁のチャンスを作ると、西野真弘が放ったピッチャー返しの打球が相手のエラーを誘い、土壇場で同点に追いつきました。2アウトになった後、万雷の拍手が鳴り響く中打席に立ったのは吉田正尚です。何を隠そう、先述の2021日本シリーズでマクガフからサヨナラタイムリーを放ったのは彼でした。
1ストライクからの2球目、甘く入った変化球を吉田正尚が渾身のフルスイングで振り抜いた瞬間、京セラドームを埋め尽くしたオリックスファンは総立ちになりました。痛烈な勢いで飛び出した打球はぐんぐん伸び、ライトスタンドの5階席に突き刺さります。2年連続、日本シリーズの舞台で劇的なサヨナラ打を放った彼の勇姿を、オリックスファンは一生忘れることはないでしょう。


2勝2敗1分のタイに戻し、第6戦は再び神宮球場に戻ります。本来のローテーションなら山本由伸が先発するはずでしたが、第1戦で怪我をしてしまったため、山﨑福也が間隔を詰めて中5日での先発となりました。神宮で2度目の登板となった山﨑福也は、味方の好守備にも助けられ5回1被安打無失点と第2戦に続いて素晴らしいピッチングを見せました。
援護したい打線は6回表、シリーズでの好調ぶりを買われてこの日から1番打者として起用されていた太田椋のヒットを皮切りにチャンスを作ると、4番吉田正尚が敬遠の四球で勝負を避けられながらも5番杉本裕太郎のタイムリーで1点を先制します。するとその裏から継投に入り、第5戦で疲労回復のためにベンチメンバーから外れていた宇田川優希・山﨑颯一郎らが休養の甲斐もあって無失点の好投。9回に相手のエラーもあって追加点を入れると平野佳寿・ワゲスパックも含めリリーフ陣がリードを守りきり、ヤクルト打線をわずか1安打に封じ込めてこの試合も勝利を収めました。
先ほど「2022オリックスのシーズン中の勝ち方」について記しましたが、第4戦・第6戦は「②拙攻でチャンスを潰しながらもなんとか2,3点とってリリーフ陣の継投で逃げ切る」、第5戦は「③先制されながらも僅差で持ち堪えて終盤に勢いで逆転勝ちする」のパターンになっていることにお気づきかと思います。出鼻をくじかれたオリックスでしたが、第4戦以降はきっちりシーズン同様の戦い方ができるようになっていました。


日本一に王手をかけて迎えた第7戦は、好調の太田椋が日本シリーズ史上初となる初回先頭打者初球ホームランで幕を開けます。さらには5回、先頭打者がヒットで出塁したのち送りバントを狙った打球が2連続で絶妙なところに転がりオールセーフになるなど、思わぬ形でノーアウト満塁のチャンスが訪れました。そこから1点を追加しなおも2アウト満塁という場面で、杉本裕太郎が打席に立ちます。1ストライク1ボールからの3球目、外角ストレートを弾き返した打球は左中間へと伸びていきました。守備範囲の広いセンター塩見泰隆が追いついたかに見えましたが、すんでのところでこれを落球。この間にすべてのランナーがホームに生還し3得点、スコアは5-0と大量リードになりました。
5点の援護をもらった投手陣は、第3戦から中4日で先発した宮城大弥が5回無失点の好投を見せると、2番手宇田川優希が6,7回をきっちり抑えます。ところが、このまま逃げ切れると思われた8回に波乱が待っていました。それまでシリーズ5イニングを投げて1度も失点していなかった3番手山﨑颯一郎がピンチを作り、ヤクルトの4番村上宗隆にタイムリーヒットを許すと、5番オスナには3ランホームランを浴び、一気に1点差まで詰め寄られてしまいます。ヤクルトファンで溢れかえった神宮球場のボルテージは一気に上がり、流れが大きくヤクルトに傾いたかに思えました。
この劣勢を覆すべく、オリックス中嶋監督が切ったカードは今年で40歳を迎える大ベテランピッチャー比嘉幹貴でした。圧倒的アウエーな雰囲気の中で登場した比嘉は、続く6番中村悠平・7番サンタナをきっちり抑え、反撃ムードを断ちました。

日本一まであとアウト3つまで来た9回、マウンドに上がったのはワゲスパックでした。当日ベンチ入りメンバーから外れていた選手たちも、26年ぶりの瞬間に立ち会うべくグラウンドの裏でこぞって待機しています。想像できないようなプレッシャーがかかるであろう場面でしたが、ワゲスパックは冷静でした。先頭の長岡秀樹をセンターフライ、第2戦で9回に同点ホームランを放った代打内山壮真をショートフライに打ち取ると、最後は塩見泰隆を自慢のストレートで空振り三振。瞬間、ワゲスパックは興奮のあまり自身のグラブを天高く放り投げ、キャッチャー若月と抱き合います。グラウンドの中心に出来上がった歓喜の輪を、割れんばかりの拍手が包みます。
0勝2敗1分という厳しい滑り出しから怒涛の4連勝。昨年2勝4敗で日本一の座を献上したヤクルトスワローズ相手に、4勝2敗(1分)という裏返しの数字で「リベンジ」を果たしました。


以上、2022年のオリックスバファローズを「3つのリベンジ」という観点から振り返ってみました。もう少し簡潔にまとめるつもりだったのですが、いざ書き始めるとシーズン中のいろいろなシーンが思い起こされ、ついあれもこれもと書きたくなり、どんどん膨れ上がってしまいましたね…。
2023年のオリックスバファローズも今年同様たくさんの感動を届けてくれることを願いつつ、擱筆とさせていただきます。

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