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2022オリックスバファローズと3つのリベンジ②〜10・2〜

(↑の続き)

次に、福岡ソフトバンクホークスへのリベンジです。
今年のパリーグはオリックスとソフトバンクで熾烈な優勝争いを繰り広げましたが、8年前の2014年も同じ組み合わせで優勝を争っていました。
前年まで5年連続Bクラス(6チーム中4位以下)で決して前評判は高くなかった2014オリックスでしたが、金子千尋や西勇輝、ディクソンといった粒ぞろいの先発投手陣と、平野佳寿・佐藤達也・馬原孝浩・比嘉幹貴・岸田らを擁する鉄壁のリリーフ投手陣を武器に開幕直後から快進撃を繰り広げました。一方、ソフトバンクは内川聖一・柳田悠岐・李大浩・長谷川勇也・松田宣浩・中村晃といった強力な打者を揃え、圧倒的打力で勝ちを重ねます。この2チームによる優勝争いはシーズン最終盤までもつれ込み、伝説の「10・2決戦」の日を迎えました。

この日はオリックスとソフトバンクの直接対決が組まれており、ソフトバンクはこの試合含め残り1試合・オリックスは残り3試合で、ゲーム差なしで並んでいるという状況でした。もしこの試合でソフトバンクが勝てばソフトバンクの優勝が決定、オリックスが勝てば残り2試合中1つでも勝つか引き分けでオリックスの優勝が決定となります。即ちこの試合に勝った方が優勝といっても差し支えない、天下分け目の大一番でした。
試合は2回裏にソフトバンクが1点を先制しますが、オリックスが7回表に同点に追いつき、延長戦に突入しました。激闘の末、延長10回裏1アウト満塁から松田宣浩のタイムリーが飛び出しオリックスはサヨナラ負け、そしてこの瞬間ソフトバンクの優勝が決定しました。

(画像は https://www.asahi.com/articles/photo/AS20211013002128.html より引用)

試合終了後に捕手を務めていた伊藤光選手が泣き崩れた光景は、多くのファンの心を揺さぶったことだと思います。
ソフトバンクとの死闘に全てを出し尽くしたオリックスはクライマックスシリーズ1stステージで敗退、続く2015年からウソのように負けを重ね、2020年まで6年連続Bクラスと再び長い低迷期に突入してしまいました。



2022年のオリックスは開幕直後から打線が低調で、7月半ば頃まで4位~5位をウロウロしていました。しかし夏場に入って徐々に調子を上げ始めると、前回の記事でお話しした9月2日の試合あたりから連勝を重ね、首位争いに殴り込んでいきます。
とはいえ首位ソフトバンクもやはり強く、9月9日の時点で3.0ゲーム差に離されます。ゲーム差というのは、単純に説明すると「自分のチームが勝つか相手のチームが負ければ0.5縮まる指標」という感じです。オリックスはその時点で9試合を残していましたが、仮にソフトバンクがその日以降の試合を勝率5割で終えたとすると、残り9試合を7勝2敗(勝率.778)でも+5、即ち2.5ゲームしか縮められず届かない、ということになります。首位チームでもせいぜいトータルの勝率が6割弱程度であることを考えると、これは相当苦しい数字であるということがお分かりいただけるかと思います。

そこでカギになってくるのが「直接対決」です。ゲーム差は相手チームが負けることでも縮まるので、直接対決で勝てばそれだけで1.0ゲーム差縮まります。オリックスは残り9試合中3試合がソフトバンク戦だったため、この3試合をすべて勝てば0ゲーム差に追いつけるということになります。とはいえ1つでも負けると残り6試合で2.0ゲーム差ということになるため、2勝1敗でも優勝はかなり厳しくなります。オリックスが優勝するためには、翌日9月10日から始まるソフトバンク3連戦を3連勝することがほぼマスト条件と言える状況でした。

実はオリックスは1年前、同じような状況に追い込まれたことがありました。2021年、その年はロッテと優勝を争っていましたが、今年同様にシーズン終盤で3.0ゲーム差離された2位という立場で直接対決3連戦を迎えました。第1戦・第2戦と連勝し、第3戦は9回2アウト2点ビハインドからT-岡田の逆転3ランホームランが飛び出すという劇的な勝ち方で3連勝を達成、その勢いのまま優勝に突き進んだ、という顛末です。

迎えた直接対決3連戦、直前まで6連勝と波に乗っているソフトンバンクを本拠地京セラドームに迎えての戦いとなります。6連勝中の平均得点は5.5点と打線が好調でしたが、第1戦でオリックスのエース山本由伸が9回4被安打完封と圧巻の投球を披露し、ホークス打線の勢いを止めました。すると第2戦は先発の宮城大弥から宇田川優希・山崎颯一郎・阿部翔太・ワゲスパックと無失点で繋ぎ、2試合連続の完封勝利となりました。
そして迎えた第3戦も初回に2得点・3回にも2得点と幸先良く先制します。しかし、守備の名手宗佑磨のまさかのエラーを皮切りに失点が重なり、6回には逆転されてしまいました。そのまま9回裏2アウトまで追い込まれたオリックスですが、土壇場で4番吉田正尚が起死回生の同点打を放ち試合を振り出しに戻すと、延長10回裏に先ほど痛恨のエラーを犯してしまった宗が名誉挽回のサヨナラタイムリーを放つという劇的な展開で接戦を制し、見事3連勝を達成しました。あとアウト1つで試合に敗れるという状況から奇跡の逆転劇で3連勝を果たすという構図は、奇しくも先述した2021年と全く同じ流れでした。選手もファンも「今年も行けるのではないか」という思いを抱いたことでしょう。



ところがソフトバンクはここから他球団相手にさらに勝利を重ね、再びオリックスを引き離します。9月を終えた段階でその差は1.5ゲームにまで広がり、ソフトバンクは西武・ロッテとの2試合・オリックスは楽天との1試合を残すのみとなりました。つまり、「残り2試合ソフトバンクが両方負けた上で、オリックスが最後の1試合に勝利する」というパターンしか追いつけないということになります(ゲーム差なしの同率に追いついた場合、シーズン直接対決で勝ち越しているオリックスが優勝という扱い)。その時点で西武・ロッテは順位が確定していたため、いわゆる消化試合(勝っても負けても順位に影響がないため、無理に勝つ必要がない試合)です。ただでさえ強いソフトバンクが、消化試合モードの2チームに連敗する可能性はかなり低く思えました。

10月1日、その日オリックスに試合はなく、ソフトバンクは西武との試合が組まれていました。勝つか引き分ければ優勝が決まるソフトバンクは1点ビハインドのまま9回を迎えますが、土壇場で主砲柳田悠岐にホームランが飛び出し同点、延長戦に突入します。このまま延長12回を終えれば引き分けで試合終了でしたが、11回裏2アウトから西武の4番山川穂高にサヨナラホームランが飛び出しました。ソフトバンクはあとアウト4つというところで優勝を決めきれず、オリックスは首の皮一枚繋がります。決着は翌日に持ち越され、まるで野球の神様がそう仕組んだかのように、8年前と同じ「10・2」に収束したのです。


迎えた運命の10月2日、多くのプロ野球ファンが注目することとなったこの日はパリーグのレギュラーシーズン最終日となります。オリックスは仙台で楽天と、ソフトバンクは千葉でロッテとのカードが組まれていました。オリックスは負けるか引き分ければその時点で敗退確定・仮に勝ってもソフトバンクが勝つか引き分ければ敗退確定と、依然として不利な状況です。2つの試合は、どちらも18:00にプレイボールとなりました。

必勝を期して臨んだオリックスですが、相手の先発投手田中将大の前に中盤までランナーすら出せず、逆に2点を先制されてしまいます。さらに千葉ではソフトバンクがロッテに2点リードしているという情報も入ってきました。ファンの間では、これはもうさすがにソフトバンクで決まりか…という雰囲気が漂い始めました。
しかし、今年何度も逆境を跳ね返してきたオリックスはこのままでは終わりません。5回表、それまで抑え込まれていた田中将大相手に満塁のチャンスを作ると、伏見寅威・福田周平の連続タイムリーで逆転します。すると千葉の方でもロッテが山口航輝の3ランホームランで逆転に成功、一気に流れが変わりました。リードを保ったまま9回に突入すると、最後は阿部翔太が三者凡退で締めてゲームセット。そのわずか2分後、千葉の試合も終わり、ソフトバンクが敗れました。奇跡の逆転優勝が成し遂げられた瞬間でした。

あと一歩で優勝を逃し、涙したあの日から8年。ソフトバンクに「リベンジ」を果たし、オリックスファンにとって苦い思い出だった「10・2」は、歓喜の色で塗り替えられました。

(③に続く)


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