ライトノベル序章【バンドとの出会い】


 人々が行き交う渋谷の真ん中で、人のざわつきと車体の音、そして様々な音が混ざり合い耳の中に届く中、俺の脳と心にダイレクトに入ってくる音があった。それが音ではなく音楽であることに気づいた俺は、都会の中で探した。
 商業ビルのオーロラビジョンに映し出された映像、そこから流れている曲、歌声だと気づいた俺は、人混みの中、周りだけ時間が止まっているかのように、動きが止まる。その歌に曲に、そして映像に釘付けになっていた。バンドを組んだ理由を聞かれれば・・・その理由の原点はここだと、はっきりと言える。
   俺は音楽というジャンルに恵まれて育った方だと自負している。親が無類の音楽好きで、特にバンドが好きだった。日本国内に留まらず、海外のバンドも愛していた。音楽のジャンルはソフトな感じからハードなものまで様々だったが、子が必ずそれに影響されるとは限らない。が、俺は興味を持った。
 音楽は曲と歌とがあるが、俺はどうも曲を奏でる方に興味を持っていたらしく、それが本格的になったのは、あの日、都会の中で偶然見たバンドの影響だろう。その影響は想定外の道を示した。
 歌に自信があったわけではないが、特別悪いという印象はない。自分の歌声が他人にどう影響するのか、俺にとっては未知であり、それは同時に音楽に対する本気、覚悟が定まらないものでもあった。それでも歌い手、ヴォーカルというポジションを選択したのは、身内からの誉め言葉があったからだと思う。
 楽器演奏の上手い下手は素人でも聞き分けられる人はいるが、歌はただ上手いだけでは相手の心に響くことはない。だからこそ、やりがいがあるのだろう。
 はじまりは身内からの誉め言葉だが、決めたのは俺自身。決して身内だから誉めたと言わせないためにも・・・。


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