ライトノベル第一章五話【DOOMSDAY始動】

 サポートメンバーの募集を出してから数日後、少しずつ問い合わせの連絡がくるようになり、ある程度の人数が集まったところで、用意した曲で選別テストをした。数名、対バンで見知った顔もいたが、だからといって曲のイメージに合うわけでもないし、また自分の求める力量やカラーであるとは限らない。今は少しポップ調が好まれるが、俺はあえてその点を意識して排除した。ほかと同じ事をしては意味がない。俺の求める音楽の系統を主張しすぎるのもよくない。ほどよく俺の音楽性を軽めに取り入れ、ハード系のロックを基調とした、やや硬派な曲を用意した。
 譜面通りに問題なく弾きこなす者もいれば、曲調が合わず苦戦している者もいる。それでも惹かれるものがある者もいれば、そうでない者もいた。俺は当たり障りのない力量で、腕の差がないようにサポートメンバーを揃えた。
 そのメンバーで数回練習をし、サポートメンバーが見つかってから二ヶ月後、初のライブを決行した。サポートメンバーとして活動しているだけのことはあり、基本的に俺の作った曲に意見する者もいないし、譜面通りに弾く。ライブはナマモノで、譜面通りに弾くだけでは面白味がない。その辺りのパフォーマンス的なところは意見交換したが、今までのメンバーのように激しく自己主張を押しつけたり、俺の意見を真っ向から否定する者もいない。精神的にも、音楽に向ける意欲のようなものも、こんなにも直向きに浸れたのはどのくらいぶりだろうか。
 今度のライブは絶対に成功する!
 俺はその確信とともに、スポットライトに照らされ、マイクに顔を近づけた。

 四〇人も入れば隣と肩がぶつかるくらいの小さなライブハウスは、まだ無名のバンドが手探り状態ではじめるのにはちょうどいい。時折、凱旋ライブと称して、そのライブハウスから巣立った中堅くらいのバンドがライブをすることも少なくない。俺はたまたまも中堅クラスのバンドの凱旋ライブの対バンのひとつとして誘ってもらえた。メインのバンドはラスト、俺はそのひとつ前の出演。目的のバンドがラストに控えていることもあり、思っていた以上に客が入っていた。
 が、まだ無名の俺たちを真剣に聞こうという客はほぼゼロだろう。目的のバンドの場所取り的な感じで、まばらに人がいる。
 それでもいい。
 数人程度では話にならない。
 ここからが本番だ。
 俺の曲、俺の歌声で、ここにいる奴ら全員を惹きつけてやる。
 ベースがリズムを刻み、ギターがメロディを奏でる。ドラムが洒落たリズムを刻みながら参加してから、俺は第一声を放った。音が鳴り曲となっているのにも関わらず、誰もこちらをみようとはしない。
 しかし、曲も終盤にさしかかると、パラパラと人がステージを見始め、そして前の方へと近づいてきた。
 一人が体でリズムを取り始めると、押し寄せる波のようにライブハウス全体に広がっていた。三曲目を奏で始める頃には、後ろの出入り口まで人が入り、その場にいた誰もが俺たちを興味の眼差しで見ながら、体で音楽を体感している。
 つまり、この場の人たちの興味を鷲掴みできた・・・てことだろう。
 成功といってもいい。
はじめから予定していた五曲を終えた俺たちは、MCなどもなくそのままステージを後にした。

 後日、その場にいた一人のギタリストと長い付き合いになるとは、思いもせず。俺はただ、はじめてのライブ成功の余韻もほどほどに、次の段階に進むための曲作りしか頭の中になかった。次のメンバーは、今回の成功でもう少し技量のある者が集まるだろう。それに合わせ、曲の難易度も上げなくてはならない。着実にプロへの道を歩いている・・・そんな実感を得られたのも、もしかしたらこの時が初めてだったかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?