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八千代工業の陸上部廃止に思う

八千代工業が陸上競技部を廃止するというニュースが駆け巡ったのは、昨日のこと。陸上ファンの間では悲しい出来事として伝わっていたようだ。

プレスリリースには以下のような記述がある。

当社陸上競技部は「従業員間で一体感ある企業風土の醸成」、「当社の認知度向上」を目的に1991年3月に創部いたしました。現在までの間、全日本実業団駅伝やマラソン大会等において、一定の成績を収めてきた他、地域の小中学校を対象とした「かけっこ教室」や、幼稚園児を対象とした「出前授業」の開催など次世代を担う子供たちの健やかな成長を賛助する…(中略)今後さらに、国内の事業健全化を目指し、改革を進めるにあたり、経営資源をより有効に活用するため、苦渋の決断ではありますが、今期末をもって活動を休止することを決定しました。
(2021.11.10 八千代工業プレスリリースより)

そもそも、八千代工業とはどんな会社なのか。ホンダ系の自動車部品メーカーとして、燃料タンクやサンルーフの開発・製造、樹脂製品・補修パーツの製造を行っている会社だ。従業員数は単体で838名、連結で6819名だから、そこそこ大きい会社である。ニューイヤー駅伝には、トヨタ自動車やホンダ、スバルなど、自動車メーカーの陸上競技部が数多く出場していることから、自動車と駅伝の相性はいいのかもしれない。

会社の陸上競技部などの運動部は、いわば広報部としての位置付けだと思う。前述の"従業員間で―"の件は、かっこよくいえば「インナーブランディング」で、"当社の認知度向上"の件は「アウターブランディング」である。本業は自動車部品メーカーだから、製造に携わらない代わりに上記のような広報活動を通じて、会社に貢献するというスタンスであろう。

しかし、八千代工業は2020, 21年とニューイヤー駅伝への出場を逃している。そして、先日行われた予選会で敗退してしまったため、2022年大会にも出場することができない。つまり、3年間、ニューイヤー駅伝に出場できていないのだ。もちろん、大手企業と比べると選手のリクルートが難しい側面があるのは否めない。さらに最近ではGMOインターネットグループなどの新興企業が上位に食い込むなど、実業団駅伝界にも新たな風が吹きつつある。

厳しい言い方をすると、3年間、全国中継の晴れ舞台に立てない、つまり、全国ネットでの広報活動ができるチャンスを3年も逃し続けている。プレスリリースには直接書いていないが、この事実はとても重いのではないだろうか。いくらニューイヤー駅伝が箱根駅伝に比べて注目度が低いとはいえ、正月に数時間TVをジャックするのである。目立つ走りをすれば、アナウンサーから企業名を何度も呼ばれる機会がある。そのスタートラインに立てなかったことに対しての判断だったと考えるのが自然だろう。

一陸上ファンから見れば今まであったチームが無くなるのは寂しいものだが、一社会人として考えると納得できる判断ともいえる。実業団に所属しているからプロではないといえど、結果が出なければ明日は約束されていない。スポーツに限らないが、一芸で身を立てることの厳しさを教えてくれる案件だと思う。

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