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余力が必要

しばらく仕掛っていたが、"アリの本"をようやく読み終えた。内容は全般的に生物の進化に関する話なので、組織論だと思って買った人は面食らうかもしれない。ビジネス書としてではなく、理系の専門書のつもり読んだほうがよい(それでも一般の人にもわかるように平滑に書かれていると思うが)。前回の記事も以下に引用してみる。

生物学の研究は不必要と思われる対象らしい。「こんな研究をやるなんて、余程暇なんですね」といわれたこともあると、本書内で明かしている。生物の生態を地道に追うことほど、大変なことはない。何せ相手は生きているのである。いつ、何をするかなどわからない。暇どころか、血反吐が出るほど大変なのだと思う。もっとも、筆者はそういわれて、むしろ喜んだそうだが…。

(そういえば、知人でグッピーの研究している人がいた。グッピーの様子を観察するために24時間撮影し続けた動画を見る。それが研究の内容である。同じように見える動画を、隈なく見続けるのを想像しただけでも、おぞましい……)

産業や人間活動の発展に繋がるもの、流行のものには研究予算がたくさんつく一方で、地味な研究にはお金が付きにくい。おそらく筆者は、そういったところでも大変な思いをしているのかなと思った。お金が無くなると、そういう地味な研究から削ぎ落とされていく。時間のかかる基礎研究などもその一つだ。そういった研究を疎かにしてきたからこそ、未だに国内で新型コロナウイルスへのワクチンを製造することができない。

短期的に見れば、効率良くしていくことは大事だ。しかし、効率ばかり考えて、無駄をなくしてしまうほど、不測の事態が起こった時の対処ができなくなる。長期的に見れば、ある程度の遊びがあったほうが長く存続が出来ることをアリの生態が教えてくれる。一見、無駄だと思われることに力を注ぐ余力があるか。それは研究に関わるうえでの考え方としても大事だが、もっと大きい視点、組織レベルとか国レベルとかでも当てはまることなのかもしれない。

また、論文投稿の際に、自分の主張とは異なる査読者が付いた時になかなか受理されないという苦悩も書かれていた。ただ、異なる主張を持つある査読者に対して根気よく説明していった結果、ちゃんと認められて論文が受理されたという話もあった。違う主張を持っていても、相手のほうが正しいと判断できれば、それを認めてあげる。そういう姿勢も、これからの世の中で大切なことの一つなのだろう。

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