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【連載小説】#09 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

まだ小雨が降り続ける駅までの道、
山崎さんは笑顔が混じる悲しそうな顔でつぶやいた。

「阪尾君、君の言う通りだったな。イメージ広告では、やっぱり売れなかったか」

「そうですね。ダメでしたね」

こういうケースの場合は一体どうしたらいいのか?

泥臭い広告の方なら、売れただろうか?

仮に売れたとしても、クライアントは満足しただろうか?

私は答えが出なかった。

会社に戻ると、大久保部長が待っていた。

「部長、ダメでした。一つも売れていません」

私は帰社の挨拶もそこそこに、すぐに敗戦の結果を伝えた。

大久保部長は少しの間黙っていたが、
おもむろに立ち上がると私の目を見て言った。

「レスポンス広告はまだまだ多くの人が知らない。だからどうしても今回のようなことが起きる。このような事故を防ぐためには、しっかりと説明ができなければいけないんだ」

説明ー。

どんな説明なら、相手は納得しますか?

そう言いたい気持ちを私はぐっと堪えた。

イメージ広告を作れない大久保部長もまた、その答えを見出せずにいたからだ。

レスポンス広告という言葉さえ、世の中には知られていなかった約25年前。

出口を探して、私たちは懸命に走り続けていた。



一生忘れられないレスポンス0という経験をした後、
悶々とした日々は続いていた。

レスポンス広告とは、単に通販だけにしか通じない広告なのか。

いや、そんなことはない。

サンプルの無料請求というレスポンスではあったが、大手食品メーカーの広告では大成功したじゃないか。

あの時は、クライアントの予想以上にレスポンスが来たため、クライアントはアルバイトまで雇って対応していた。
忙しい中皆さん大変だったと思うが、あの時のクライアントの方々の笑顔は忘れられない。

しかし、今回は全くレスポンスが取れなかった。

情報が少なすぎたのか?

価格が高すぎたのか?

そもそも欲しいと思われるような商品ではなかったのか?

様々なことが頭に浮かんだ。

どうすれば答えが出るのかー。

しばらく考えて、私は考えるのをやめた。

誰も知らないのだ。

どの本にも載っていない。

誰かがやるしかないのだ。

一つ一つ、テストを繰り返すしかないのだ。

それしか、ない。

私は覚悟を決めた。

長く暗いトンネルの出口は全く見えていなかった。



「阪尾ちゃん、すげえレスポンスが来ている!」

「マジっすか⁉︎」

「ああ、俺もビックリだよ!」

ここ最近、売上げが下降線を辿っていたトウガラシダイエットが驚異的な復活をしたのだ。

なぜこのようなことが起きたのかー。

それは日村さんのデザインセンスによるところが大きい。

レスポンス広告は、一度当たった原稿はレスポンス数がかなり落ちるまでデザインを変えない。
その理由は、半端な時期にデザインを大きく変えてしまうと、レスポンスが急激に落ちることがあるからだ。

トウガラシダイエットも、まだまだ大きく変える時期ではないと判断されていた。

しかし、日村さんと私は、昔ながらのやり方ではレスポンスがどんどん落ちていってしまうのではないかと懸念していた。

そこで、上司に確認を取らずに、デザインを大きく変更したのだ。

簡単に説明すると、週刊女性エイトなどの情報誌で成功した泥臭い広告デザインを、これまではそのままオシャレなファッション誌にも載せていた。

日村さんと私は、それは違うのではないかと思っていた。

読者層の違う媒体にはそれぞれに適したレスポンス広告のデザインがあるはずだ。

だから、先週の月刊ランランに掲載したデザインをランランの編集ページに似たものに作り変えたのだ。

その結果が、この驚異のレスポンス復活となったのだ。

そうなのだー。

魚が違うならエサも違うように、
広告媒体が違うなら広告デザインも変えなければならないのだ。

この結果を得た私たちは、私たちが作るほぼ全ての原稿をこの法則に則って変えていった。
そして、多くのレスポンスを獲得した。

「阪尾ちゃん、今回も当たったぜ!」

「やりましたね!」

編集面に似せた広告は、まるでカメレオンのようにその媒体に溶け込み、成果を上げて行った。

通常、消費者は広告アレルギーなるものを持っている。それは多くの方が体験していることだろうが、新聞でも雑誌でも集中して記事を読んでいると広告が全く目に入らないことがある。
そう、人は広告というものを認知すると自分にとっては関係ない物という捉え方を頭の中で行うのだ。
それゆえ、多くの人は、邪魔な存在である広告を無意識に飛ばして記事を読んでしまうのである。

カメレオンのような私たちの広告は、このアレルギーを払拭する効果があった。
いや、払拭とまでは行かなくても、和らげる効果があったのは間違いない。

サプリ、化粧品、そしてハンコまでも、カメレオン原稿が売りまくった。

私たちの快進撃は続いた。



入社して2年半が過ぎた。
少しだけ考えることが多くなった。
それは、今後の自分の人生である。

具体的に言うと、もっと大手企業の広告に携わらないと売上げの上がる広告の完成形が見えて来ないないのではないかと、考えることが多くなったのだ。

大手企業の広告はイメージ広告である。このイメージ広告で彼らは売上げを上げているのだ。

有名ではない企業ではイメージ広告では効果が出ないのに、有名企業では効果が出る。

それはなぜなのか?

どこに違いがあるのか?

私は確かめたくて、しょうがなかった。

誰もいない夜。
その日、私は広告制作者の募集広告を見ていた。

その中の一つに誰もが知る有名企業のグループ会社があった。

レスポンス広告で成果を上げるダイレクトマーケティングのアジアナンバーワン企業だと言う。

アジアNo. 1かー。

この会社なら、俺の求めているものがあるだろうか。

数日後、自分の技術力を理解してもらえれる資料を作り、応募した。

つづく

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