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【連載小説】#05 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

「阪尾ちゃん、最近調子いいらしいじゃん」

日村さんが話しかけて来た。

「ええ、何とかレスポンスが取れています。まだまだですが」

「今度さ、俺のチームのコピーも書いてよ。来月から新商品の広告を作らないといけないんだ」

「自分なんかで大丈夫ですかね。でも、オファーがあれば喜んで受けさせて頂きますので!」

私は自分が認められて来ている気がした。

この頃、私の生活は仕事一色だった。
会社にはサマーベッドを持ち込み、寝泊まりを繰り返していた。家に帰るのは週に2回程度で、多くの場合はシャワーを浴びるために帰った。

『今日も大変そうだね。晩ごはん作っておいたから食べてね』

この頃の私には同い年の彼女がいた。
その彼女とはほぼ同棲の状態で、いつも食事を作ってくれていた。
しかし、あまりに家に帰らないこともあり、置き手紙を残しては実家に帰ることもよくあった。

いつも悪いな。
寂しい思いばかりさせて。
今月はせめて1回くらいは食事にでも行けるといいんだけどー。

私の休日は月に2、3回だった。これは会社に強いられていたわけではない。仕事のない日も、いつも会社にいた。自分の修行のためである。
会社に寝泊まりできていた古き良き時代だった。

私が毎日サマーベッドに横たわるのは、朝の5時くらいだっただろうか。ではそれまでの間どんな修行を積んでいたのか? それを少し話そう。

私が在籍していた制作部は8名ほどのデザイナーと2名のコピーライターで構成されていた。

各先輩方にはこれまでの実績がある。多くの方はそれを自分の作品集にまとめていた。
私は真夜中にその作品集を見ていた。そしてある時から見るだけでなく、コピーをして広告内のコンテンツを切り取ったりしていた。

この広告には、大学教授とグラフが入っているな。
こっちはユーザーボイスばかりだ。
商品写真だけの広告もあるな。でもこれはレスポンスが取れなかったのかー。

何十も、何百も、広告を見ていると、レスポンスが取れた広告には共通しているコンテンツのあることが分かり始めて来た。
それを受けて、私は実際の広告制作でテストを繰り返した。

するとどうだろう。
沢山あると思っていたコンテンツがだんだんと絞られて来た。

まずキャッチコピーで結果を伝える。
そして必ずその理由を証明する。
さらに消費者は、権威ある人の言葉に弱いことがわかった。
最後に絶対必要なのがユーザーボイスだった。

作品コピーの切り取りを始めて1年は経った頃だろうか。パーツの理論が固まりつつあった。

翌月、本当に日村さんチームのコピーライターとして、チームに加わった。

「今回の商材はストッキングです。なんと、履いたらすぐに脚が細くなります」

「どんな秘密があって、すぐに細くなるんですか」

私は聞いた。

「秘密はこの素材にあります。この素材は宇宙服に使われている特殊な繊維により脚を効果的に圧縮します。しかも、血流をうながし、健康にも良いんです」

おお。
日村さんの説明にチームから驚きの声が上がった。

「来週、クライアントからオリエンがあります。そこで詳細を聞いてください。掲載媒体は月刊ウーマンパワー。入稿は来月末の予定です」

まだオリエン前だったが、私は事前の資料をもとにサムネイル作りに取り掛かった。

このストッキングの『結果』は、やはりビフォーアフターの写真だろう。
キャッチは、履いた瞬間◯センチ、ダウン! といったところだろう。
『実証パーツ』は…。『信頼』パーツは…というように、いつものようにパーツを組み立てて行った。

翌週、オリエンを受けるためにクライアントへ出向いた。
社長が出てくると日村さんはいつもよりワンオクターボ高い声で私を紹介した。

「池川社長、ウチの若きエースを連れて来ました。最近、すごくレスポンスを取っている阪尾です」

まさかの紹介に私は一瞬たじろいだが、すぐに社長の前に行き名刺交換をした。

「コピーライターの阪尾と申します。宜しくお願い致します」

「そうか、そんなに勢いのある人なら、上手く行きそうだ。阪尾さんは女性向けの商材は慣れてる?」

「はい、最近もダイエットサプリをやっていますので」

私がそういうと池川社長は少し安心したようだった。

レスポンス広告のクリエイターにとって大切なのが、広告する商品のマーケットをどれだけ知っているか、ということが挙げられる。

そのマーケットを知っていれば、それだけ消費者に突き刺さる広告が作れる。
今回で言えば、ストッキングのマーケットを知っていればベストである。
しかし、ストッキングのマーケットを知らなくても、女性向け商品の広告作りの経験があれば良いだろうと社長はジャッジしたのだろう。

終始朗らかに、オリエンは終わった。

会社への帰り道、日村さんは私に聞いた。

「阪尾ちゃん、この商品売れると思う?」

「私は売れると思います」

「なぜ?」

「昨日までに競合商品を調べていたんですけど、ライバルは2社しかありませんでした。しかも、広告クリエイティブは弱めでありながら、1社は毎週しっかり広告を出しています。ということは、間違いなく採算は取れていますので、ある程度は売れていると推測できます。今回、私たちのレスポンス広告を出せば見込みはあるのではないかと思います」

「阪尾ちゃん、よく調べておいたな。まったくその通りだ。最近の好結果はマグレじゃないな。ただ、売れるか売れないかはその時の様々な状況に影響される。とにかくベストを尽くそう」

その夜から、ハイパーストッキング『脚スリム』の広告作りが始まった。

つづく

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